家を買ったよ!“50年ローン”で…世帯年収600万円・29歳息子からの浮かれた報告に63歳父、絶句。「4,000万円のマイホーム」、息子65歳で撃沈する「まさかの返済額」【FPが解説】

まだまだ住宅ローン金利が低いいまだからこそ、若い世代を中心に「50年ローン」を選ぶ人が増えています。しかし、50年という長期間の返済には、金利上昇という大きなリスクが潜んでいることを忘れてはいけません。本記事ではAさんの事例を通し、金利上昇による50年住宅ローンの返済額の変化を、FP1級の川淵ゆかり氏がシミュレーション・解説していきます。
息子が決めた50年の住宅ローンに心配を隠せない60代夫婦
Aさんは、現在63歳。60歳で定年退職し、再雇用で働いています。現在は3歳年下の奥さんと2人で静かに暮らしています。エンジニアである一人息子は、一昨年結婚しました。そして昨年、29歳のときにマイホームを購入し、2歳年下の奥さんと2人、遠方で暮らしています。
しっかりした息子さんですが、Aさんはこの息子さんについてある悩みがあります。それは、住宅ローンです。
「家を買ったんだ。これから50年、頑張るぞ!」そう連絡をしてきて、Aさんは言葉を失いました。
「僕らのときも若いうちに住宅ローンを利用したけど、返済期間中はけっこう大変だったよね。25年で完済したけれど、金利もはじめは5%くらいだったっけ? いくら金利が低くても50年も大丈夫かなぁ。最近は物価も上がってきたし、僕も70歳までには仕事を辞めたいから、いざというとき助けてあげられるかどうかわからないよ」Aさんは妻と顔を見合わせて不安に駆られます。
50年ローンという超長期ローンに問題はないのか、これから金利が上がってもちゃんと返していけるのだろうか、とご夫婦で心配して相談に来られました。住宅ローンを組んだあとに相談に来られる方は結構いらっしゃいます。ですが組んでしまったあとでは、ファイナンシャルプランナーとしてできるアドバイスにも限度があります。
ご夫婦は金利が上がった場合のシミュレーションをご希望でしたので、とりあえずシミュレーション作成を行うことにしました。
金利はどれほど上がるのか?銀行の予想
金利の上昇については、ダイヤモンド不動産研究所が12銀行の金利変化の予測を公表しています。10年後の12銀行の平均値は1.619%。10年後の金利は上昇する、と予想しています。上昇の仕方は非常に緩やかな予想です。しかしこれは、今後の金利上昇を見込んだ顧客の囲い込みを行いたいからだと考えます。人口減少は進みますから、いまのうちに顧客を多く獲得しておけば、金利が上がったときに大きな利益を上げることができます。そのため、変動金利型住宅ローンはまだしばらくのあいだ、低金利での競争が続くかもしれません。ですが、12銀行のうち9銀行が10年以内に1%上昇する、との予想になっています。
また、10年後以降には金利が急上昇する、と予想する銀行も出てきています。20年後の金利を予想した6銀行のうち、2銀行が4%超、3銀行が2〜3%、残りの1銀行のみ1%台です。銀行も利益を上げなければならない状況ですので、将来的に金利は段階的に上がっていくとも考えられます。
返済期間50年の住宅ローンをシミュレーション
まず、Aさんの息子さんの住宅ローンは次のとおりです。
借入額:4,000万円(返済期間50年、金利0.5% 元利均等返済、ボーナス返済なし、変動金利型)
毎月の返済額:7万5,361円
息子さんの世帯年収は600万円。たしかに毎月の返済額だけをみると、無理のないローン返済のように思えますね。ですが、4,000万円の借り入れとなるとかなり大きな金額です。大きな金額を借りるためには、毎月の返済額を抑える必要があります。そのために「金利はできるだけ低く、返済期間はできるだけ長く」する結果になってしまうのです。ですから、Aさんの息子さんも変動金利型の50年ローンを選択されたのでしょう。
支払利息総額の差…35年ローンとの比較
一方でローンが長期化すれば、利息の総額も大きくなります。筆者は毎月の返済額だけでなく、支払う利息の総額も確認してもらうようにしています。ちなみに、金利0.5%が50年続いた場合の35年ローンとの比較は次のとおりです。
●50年ローンの場合 毎月の返済額: 7万5,361円 支払利息総額:521万6,406円
●35年ローンの場合 毎月の返済額:10万3,834円 支払利息総額:361万343円
160万円を超える差が出てきました。
65歳時点でのローン残高の差…35年ローンとの比較
そして、次に大事なのは老後の負担です。65歳時点でローンがどのくらい残っているかをみると、
●50年ローンの場合 ローン残高:約1,223万円
●35年ローンの場合 (29歳で返済開始)64歳で完済となるため、ローン残高は0円
50年ローンでは65歳の時点で1,000万円を超えるローンが残ってしまうことがわかります。近年は物価上昇で繰上げ返済に苦戦しているご家庭も多いですが、計画的な繰上げ返済で老後の負担を軽くしていく必要があります。
5年ごとに0.5%ずつ金利が上昇すると…
それでは、金利が上昇していった場合をシミュレーションしてみましょう。金利の上昇は正確に予測できるものではありませんが、5年ごとに0.5%ずつ上昇すると仮定して計算してみます。なお、30年後以降は3.5%を上限としています。
●ローン開始〜5年間 金利0.5% 毎月の返済額: 7万5,361円
●5年後〜5年間 金利1.0% 毎月の返済額: 8万3,815円
●10年後〜5年間 金利1.5% 毎月の返済額: 9万1,876円
●15年後〜5年間 金利2.0% 毎月の返済額: 9万9,401円
●20年後〜5年間 金利2.5% 毎月の返済額:10万6,259円
●25年後〜5年間 金利3.0% 毎月の返済額:11万2,321円
●30年後〜20年間 金利3.5% 毎月の返済額:11万7,458円
30年後というと、Aさんの息子さんも60代になろうという時です。そのころは現在よりも毎月の返済額は4万円以上も増えてしまうのです。さらに子どもを望んでいる場合、教育費がかかる時期の返済額もチェックしておく必要があります。
金利上昇を見込んだ65歳時点での「恐怖のローン残高」
65歳時点でのローン残高は次のように変わります。
●50年ローンの場合 ローン残高:約1,558万円
300万円超も増えてしまいますね。
利息の総支払額…金利が変わらない場合との比較
そして最も怖いのは、利息の総支払額です。
●50年間金利が0.5%のままの場合 支払利息総額: 521万6,406円
●上記シミュレーションの場合 支払利息総額:2,233万1,708円
なんと、利息の総支払額は金利が上昇しなかった場合と比較して1,700万円超の増額です。総返済額は6,233万1,708円となります。
この結果にAさんは「先生、嘘でしょう? 借入金は4,000万円ですよ。その5割以上も利息で取られるのですか!?」とビックリされていました。筆者は、今後完済までの返済額に元金と利息の内訳を1ヵ月単位で示したものをお渡しし、間違いのないことをお伝えしました。
金利の低さで住宅ローンを選んでしまう人が多いのですが、金利が上昇してくるとギャップが大きくなり、家計へのダメージも酷くなります。ローン破綻や老後破産を防ぐためにも、今後の住宅ローン計画は非常に重要です。
・理想のマイホームに固執しない
・生前贈与を利用する
・繰上げ返済を利用する
などの対策を取って完済を目指してください。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表