資料が真っ赤に染まって返ってくる…トヨタの新人が叩き込まれた「雑な言葉からは雑な仕事しか生まれない」

■トヨタで体得した「言葉の解像度を上げる」力
ここ数年、書店のビジネス書コーナーを覗いてみると、「言語化力を高める」「解像度を上げる」といったキーワードを頻繁に目にするようになりました。
自身の仕事の状況について、よくわからなくなってしまう。あるいは、何が起きているのかについて考えたものの、いつまで経っても全体像が見えてこない。その結果、うまく言葉にして表現できず、周囲の理解や協力を得られない。そんな悩みを抱えているビジネスネスパーソンが数多くいるのだろうと推察しています。
翻って、私自身の社会人生活を振り返ってみると、仕事で「解像度を上げる」能力については、20代の間に身につけることができていたように思います。
その要因を端的に記せば、サラリーマン時代の大半をトヨタ自動車(以下、トヨタ)で過ごすことができたからです。
当時は「解像度」という言い回しをビジネスコミュニケーションで見聞きする機会自体ほとんどありませんでしたが、今思えばトヨタの上司や先輩が授けてくれた力は、紛れもなく「解像度を上げる」能力でした。
■組織カルチャーとして根付く「紙1枚」
まずは、組織レベルの話をしたいと思います。
トヨタでは、仕事の資料をA4やA3サイズの「紙1枚」にまとめる企業文化があります。このような紙面上の制約があることによって、資料作成者はあれもこれもと大量の要素を盛り込むことができません。
すると、次のような思考回路が生まれてきます。
例えば原因が5つあるなら、さらにその根本原因を突き詰め、できるだけ1つ(多くても3つ以内)に絞り込んで資料に記載する必要があります。対策案についても、「あれもやろう、これもやろう」ではなく、「優先順位をつけてここだけやります」と言い切れるまで熟慮しなければなりません。そうしないと到底「紙1枚」に収めることなどできないし、できないからこそ、日常的に自身の担当業務について深く考え抜く習慣を自然と身につけることにつながっていく――。
これが、トヨタの「紙1枚」文化の本質です。

■トヨタの上司は「赤ペン先生」だった
考えに考え抜いて資料に記載する量や要素を減らしていけば、なんとか「紙1枚」に収めること自体は可能になります。
しかし、端的な表現に圧縮してしまう以上、意図とは異なる理解をされてしまうリスクも当然発生します。そこで必要になるのが、「一つひとつの言葉の選択が、資料を通じて報告・連絡・相談したい仕事の状況を正確に反映しているかどうか」について吟味する能力です。
まさに近年のビジネス書が謳う「言語化」能力、「解像度を上げる」力そのものであり、この能力を高めてくれたのが「上司からの赤ペン添削」というマンツーマンレベルの個人指導でした。
私は新人の頃、資料を作っては上司に見せ、上司は資料を真っ赤に添削して返すというラリーを1年以上にわたりやってもらっていました。時には深夜残業や休日出勤も交えての濃密な育成機会であり、トヨタにはこのような取り組みについて「教え、教えられる文化」といった言葉も存在します。
このようなトレーニング機会に恵まれたからこそ「解像度を上げる」力について身につけることができたわけです。
■「課題」と「問題」は何が違う?
具体的なエピソードを一つ紹介しましょう。
ある業務で「課題の明確化」と「問題の明確化」という2つの表現が混在した資料を作ってしまったことがありました。その資料を見た上司から、すかさず次のようなフィードバックが飛んできます。
「なあ、課題と問題って何が違うんだろうな?」
「今回の資料の場合、課題か問題、どちらの表記を使った方が適切だと思う?」
「それとも、意図的に使い分けた方が良いなら両方採用でもOKだけど、とにかく2つの言葉の違いについてもっとしっかり考えてみて」
一連のフィードバックを読んでみて、どう感じるでしょうか。

正直、「そんなのどっちでもいいだろ」と感じている方が多数派かもしれません。ですが、そうやって言葉を雑に扱っているからこそ、冒頭に挙げたような「仕事の状況が見えない」といった悩みを抱えてしまうのではないでしょうか。
少なくとも当時の職場環境ではこのようないい加減な言葉の扱いは許されませんでしたし、年単位でこうした指摘を浴び続けたからこそ、私は「解像度を上げる」力について高めることができました。また、文字だけだと厳しく感じたかもしれませんが、実際には赤字だらけの資料をお互いに見ながら、上司も親身になって一緒に考えてくれました。
数年後、私自身も部下や後輩に同様の指導をする立場になって、このようなコミュニケーションは教える側にとっても、「解像度を上げる」力についてさらに高められる絶好の機会であることを体感しました。まさに「教え、教えられる文化」です(ちなみに、近年のトヨタでは「教え、教えられる」に加え「自ら学び、教える」といった文化醸成も重視しています)。
■辞書的な正しさよりも「仕事が動く」かどうか
では、当時、上司と議論した末にたどり着いた「解像度上げ」はどのようなものだったのか。
「問題」は「ネガティブで、批判的な指摘や提起をする際に適切な言い回し」。一方、「課題」は「よりニュートラルで、カイゼンや解決に向けてやるべきことをやっていこうといったニュアンスを込めやすい言葉」。
したがって、作成している資料の目的が、「よくないことをまずは指摘する」段階なのであれば「問題」。そうではなくて、「何か打ち手を実行する」前提なのであれば「課題」の方が適切だろうという結論に達しました。
ただ、このような「解像度上げ」について決して誤解してほしくないポイントがあります。
こうした議論は、「辞書的に正しいかどうか」という観点では考えていません。「自身の職場で機能するか」、もっと露骨に書けば「資料の読み手である上司がすんなり受け取ってくれるかどうか」という前提で解像度を上げています。
唯一の正解などではないし、そもそも「正しいかどうか」ではなく「目的の達成に資するか」という観点で考えることが、仕事上の「解像度上げ」において重要なポイントなのです。
当時の資料は「今後に向けたアクションへの決裁をもらうこと」が目的だったため、「問題」ではなく「課題」という表記で統一しました。そして、実際にその資料は一発OKでした。

もし「課題」ではなく「問題」と記載していたら、「なぜこんな問題が発生しているのか」という原因探し、犯人捜しに終始してしまい、今後に向けた決裁を取る前に時間切れ、会議自体をやり直しという事態になっていたかもしれません。
時間をかけて「言葉の解像度上げ」にこだわったからこそ、最短時間で決裁を取得することができたわけです。
■ビジネスの「課題」を解決する必須スキル
私は、このような仕事の仕方を社会人になって間もない数年間で徹底的に叩き込まれたおかげで、サラリーマン時代はもちろん、独立起業後も10年以上にわたって事業を拡大・継続することができています。

常に言葉を吟味し、考え抜き、解像度を上げてビジネス上の課題に対処していく。
こうした仕事の基本動作について、誰でも実践可能なようにスキル化した本として、『「わかる」から「動ける」まで 言葉の解像度を上げる』(プレジデント社)を上梓しました。
これまで「解像度を上げる」力について本格的に学ぶ機会のなかったすべてのビジネスパーソンに読んでもらい、自身のためだけでなく、部下指導や人材育成等にも広く役立てていってほしいと思います。
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浅田 すぐる(あさだ・すぐる)
「1枚」ワークス株式会社代表取締役、作家・社会人教育のプロフェッショナル
「1枚」アカデミアプリンシパル。動画学習コミュニティ「イチラボ」主宰。名古屋市出身。旭丘高校、立命館大学卒。在学時はカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学留学。トヨタ自動車入社後、海外営業部門に従事。同社の「紙1枚」仕事術を修得・実践。米国勤務などを経験したのち、グロービスへの転職を経て、独立。現在は社会人教育のフィールドで、ビジネスパーソンの学習を支援。研修・講演・独自開講のスクール等、累計受講者数は10000名以上。独立当初から配信し続けているメールマガジンは通算1000号以上。読者数18000人超。
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(「1枚」ワークス株式会社代表取締役、作家・社会人教育のプロフェッショナル 浅田 すぐる)
