【島沢 優子】2歳で漢字を覚えた「ギフテッド」の息子が抱える悩み…小2で不登校になり”救われた”と感じた理由

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「ギフテッド(gifted)」という言葉をご存じだろうか。

生まれ持った特性で、アメリカでは「知能、創造性、芸術、リーダーシップ、特定の学問分野の能力のいずれかの特性が並外れて優れた者」と規定されている。日本では明確な定義はないものの、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」として、科学技術、芸術、スポーツなどの多様な領域における領域固有なものとして捉えている例がみられる。

「特定分野に特異な才能がある子ども」は、不登校になるケースも多い。

通常クラスで自分に合った学びができず苦しむ子や、学校からの理解が得られず悩む子。アメリカでは「ギフテッド教育」として生徒それぞれの能力やペースに合わせてカリキュラムを進めていく教育があるが、日本ではまだ教育の支援などの取り組みが進んでいないことも理由の一つだ。

このような環境で悩み苦しむ子どもと親を、NPO法人『福祉広場』代表の池添素さんは支えている。不登校や発達障害の子どもと親にかかわり続けて40年。親たちに「素さんがいたから私たち親子は生きてこられた」と感謝される。不登校児の親たちを勇気づけ、闇から救い出した言葉とは。

池添素さんに子どもの不登校の現状についてジャーナリストの島沢優子さんが取材し、具体的なエピソードと共にお伝えしていく連載『子どもの不登校と向き合うあなたへ〜待つ時間は親子がわかり合う刻』。第1,2回も大きな反響があったこの連載の第3回目は特異な才能を持つ子どもと、その子どもに向き合う親について、具体的なエピソードと共にお伝えしていく。

池添 素(いけぞえ・もと)

NPO法人「福祉広場」理事長。京都市職員として保育所や児童福祉センター療育課などで勤務した後、1994年に「らく相談室」を開設。2012年にNPO法人福祉広場へ移行し、相談事業を継続している。子育て相談、発達相談、不登校相談、ひきこもりや親子関係の相談など内容は多岐にわたり、年齢も多様な相談を引き受けている。著書に『ちょっと気になる子どもと子育て―子どものサインに気づいて』『いつからでもやりなおせる子育て―子どもといっしょに育ちを振り返る』『笑顔で向きあって−今日から始める安心子育て−』『子育てはいつもスタート―もっと親になるために』『いつからでもやりなおせる子育て第2章』(いずれも、かもがわ出版)『育ちの根っこ―子育て・療育・つながる支援』(全障研出版)『子どもを笑顔にする療育―発達・遊び・生活』(全障研出版)『連れ合いと相方―介護される側と介護する側』(共著=かもがわ出版)立命館大学産業社会学部 非常勤講師、京都市保育園連盟巡回保育相談員。

「ギフテッド」の息子

幼稚園に迎えに行くのが、毎日憂鬱だった。

看護師のタマキさんは長男アキヒロくん(いずれも仮名)の「噛み癖」に悩んでいた。当時4歳の息子は友達にうまく自分の思いを伝えられないようで手を出したり、噛んだりしてしまうようだった。迎えに行くと先生から「噛んじゃったので〇〇くんのお母さんに謝ってください」と言われた。

頭を下げてまわっては落ち込んだ。帰宅後に「噛んだらあかんって言ったやん! みたいな感じで怒っちゃって。きっと何か理由があるのに。本当に余裕がありませんでした」と振り返る。叱られて泣き出した息子を抱きしめては「ごめんね、ごめんね」と母も泣いた。

友達と遊べない、集団行動が苦手といった状況はあったものの、アキヒロくんは2歳で漢字を覚えてしまい自分で本を読んだ。書店に連れて行くと、2,3時間立ち読みをし、図鑑などの内容を覚えてしまった。いわゆる「ギフテッド」。先天的に高い知性や倫理観、思考力などを持っている人を指す。早期教育をすることで得られるものではなく、生まれつきのものだ。神からの贈り物という意味合いでGiftedと呼ばれる特性が、アキヒロくんにはあった。

そんなとき、幼稚園の紹介で池添さんと出会った。相談すると「それは彼自身が困ってるんじゃないかな」と息子の立場になってくれた。さらに「その子なりの理由を医療的にも知ったほうがいい」と発達相談を受ける方法も教えてくれた。児童相談所に申し込むと3年待ちだったが、そこから福祉広場に通い支えてもらった。

子どもへの質問は大人のエゴ

ある日、「幼稚園でトラブルがあったみたいなのに、アキヒロに聞くとそれを隠すようになったんです」と相談すると、池添さんに「なんか、いろいろ聞いてへんか?」と言われた。

タマキさんは「幼稚園で嫌なことはなかった?」とか「今日はお友達と上手に遊べたかな?」と毎日のように尋ねていた。いつの間にか自分が聞きたいことを聞いてしまうようになっていた。無邪気に「楽しかった」と言われれば安心した。

完全に見抜かれてる……。タマキさんが戸惑っていると「根掘り葉掘り、うまくやってるかとか、なんかいろいろ聞いてるんちゃうか?」とさらに聞かれた。正直に「実は……」と打ち明けた。

――子どもにいろいろ聞きたくなるのは、親が自分の心配を減らしたいからや。子どもは親に話を聞いてほしいときは、自分で言ってくるよ。子ども「に」話を聞く、ではなく、子ども「の」話を聞くことや――

「その通りやと思いました」池添さんの言葉がこころにとすとんと落ちた。

――お母さんのことを心配させたくないから大丈夫って言うやろ。だからもっと待ってあげて。子ども自身がいいことでも嫌なことでもお母さんは聞いてくれるっていう安心感を持てたら、必ず自分から言ってくるから。聞きすぎる(質問しすぎる)と、子どもを追い詰めることになるよ――

そうタマキさんに伝えた池添さんは「子どもに、どうやった? とか、今日は学校で何やったの? って聞いたらいけません。だって、それは子どもの言いたいことと違うかもしれないでしょう?」と話す。

「親御さんたちは聞くことに意味を見いだしているけれど、聞くという行為に『やってる感』があるだけで、聞かれる側の立場に立っていません。子どもが自分からしゃべってくるのを聞くのはもちろん大事です。報告してくれるときはちゃんと聞かないといけない。ただし、親のほうからあれこれ(聞く)っていうのは良くない。問いかけることが、あなたを見捨ててないよ、関心があるよっていうことのアピールだと勘違いしてないかな。私は大人のエゴだと感じます」(池添さん)

なるほど。昨今、子育てや教育の現場では「問いかけましょう」「質問しましょう」がある種ブームのように扱われている。当方も、指示命令ではなく子どもの気持ちを尋ねる質問をと、伝えてきた。もちろん場面によって質問は重要だが、池添さんの話を聞いて大人側の「知りたい」という欲求を鎮める必要もあると気づかされた。一つひとつの対応について、誰のためか? 何のためか? を掘り下げる必要がありそうだ。

「学校は行くべき、学校で勉強すべきと、大人は子どもの気持ちを無視して考えがちですよね。子どもの立場になって考えてみるというスタンスから外れてしまう。それが不登校の問題の大きな要因なのでしょう」

――待つことは、子どもの声を聞く準備をしておくことやで。大人からしゃべり始めたらあかん――

池添さんの支え

それらをアドバイスされて以来、その日のことを聞きたくなってもぐっと我慢した。そんなタマキさんに池添さんは「我慢してたらお母さんもしんどくなっちゃう。困ったときは私達に言ってくれたら一緒に考えるから」と言ってくれた。親のストレスは子どもに向かいがちだ。

「私自身の気持ちを代弁してくれるような人がいるんやと思って、すごく安心しました」(タマキさん)

幼稚園は自由な雰囲気で子どもの特性への理解もあったが、クリスマス時期の劇の練習になると先生たちに「しっかりやりたい」といった緊張感が少しあった。そんな変化に敏感なアキヒロくんが疲れているように見えたのか、池添さんは「休憩を上手にとるようにしてあげてほしい」と園に頼んでくれた。

タマキさんは「園や学校に、子どもに休憩を与えて欲しいなんて頼んでいいのかなと遠慮する部分が少なからずありました。でも、言っていいんだと知って、ホッとしました」と感謝した。

不登校が救いに

卒園後は公立小学校へ。時折行き渋りはあったものの、頑張って通っていた。が、小学2年生の夏休み明けしばらくして不登校になった。きっかけは、同じクラスの女の子が始業式から休んだことだ。

「そこで自分も休んでいいんだと思ったみたいです。私たち家族にとっては救世主っていうか。よくぞ休んでくれたって思いました」

多くの親たちが動揺する不登校を、タマキさんはプラスに受け取った。息子が学校のストレスで不眠症になっていたからだ。無理しないで休んだらと勧めても「頑張って行く」と聞かなかった。わずか8歳で疲労困憊になりながら学校へ行こうとする姿が不憫でたまらなかった。

2年生の終わりごろ、ようやく専門医の診察を受けた。開口一番「発達障害ではありません」と言われた。さらに「この子はいろんなことをよくわかっている。理不尽さもよく理解している。達観しています。だから、君はこのままでいいんだよ」と、ギフテッド的な特性を心理的にかみ砕いて教えてくれた。

君はこのままでいい。君はこのままでいい――。

医師の言葉を、タマキさんはこころの中で何度も反芻した。微笑んだわが子の顔が涙でかすんだ。

◇後編【「いいお母さんはしなくていい」ギフテッドの息子と“不登校支援シート”を使って気づいた親子の本音】では、不登校のアキヒロくんと向き合いながら、学校へと関わっていくタマキさんの行動を具体的にお伝えしていく。

「いいお母さんはしなくていい」ギフテッドの息子と“不登校支援シート”を使って気づいた親子の本音