この記事をまとめると

■コロナ禍で好調だった中古車販売店の倒産が前年よりも増えている

■納期遅延の解消やビッグモーター問題がダメ押しとなり中古車業界の業績が悪化した

■中古車業界の業績回復は消費者からの信頼を得られるかどうかにかかっている

中古車バブルが弾けて苦境に立たされる中古車販売店

 コロナ禍における中古車ニーズの高まりを受けて好調だった中古車業界に逆風が吹いている。企業倒産に関するデータ分析では定評ある帝国データバンクが2023年度上半期を総括した発表によると、『中古車の買い取り・販売を手掛ける「中古車店」の倒産は、2023年1月〜9月に合計57件発生した。前年の年間件数(52件)をすでに上まわり、過去10年で最多ペースの90件台に到達する可能性がある』という。

 コロナ禍において中古車バブルを謳歌していた中古車業界に逆風が吹いているというわけだ。しかも、その逆風はふたつの方向から吹いてきている。

 ひとつは、新車納期の正常化だ。そもそもコロナ禍での中古車バブルというのは、半導体不足と合わせて新車の納期が極端に延びたことが原因のひとつ。いまだ一部の車種やメーカーでは生産が正常化せず、オーダーからの一年後に納車という状況にもあるが、多くのモデルにおいては常識的な範囲の納期となりつつある。

 中古車バブルのときには業者オークションでの取引価格も上昇していた。そのため、小売店の儲けを考えると、新車価格を上まわるプライスタグをつけることもあった。それでも、多くの新車が納期未定という状況では「目の前にあってすぐに乗れる」中古車にはお金を出すだけの価値があった。

 その流れを受けて相場が上昇したときに仕入れた、いま店頭に並んでいる中古車は、それなりに高値で売らなければ小売店は損をしてしまう。

 しかし、前述したように新車の納期が正常化してきたいま、高値で中古車を買うというインセンティブはなくなりつつある。つまり、あえて中古車を選ぶという選択をしないユーザーが増えつつあるといえる。

中古車業界の業績回復には消費者からの信頼回復が急務

 もうひとつの、中古車業界にとっての大きな逆風は「中古車を選びたくない」というユーザー心理が増していることだ。

 その原因は言わずもがな、ビッグモーターなどの大手中古車店における数々の不正がメディアで報じられたことにある。不正の内容は多岐にわたるため、けっして中古車の質が悪かったという話だけではないともいえるのだが、中古車業界への不信感を持つことになったのは疑いない。

 中古車というのは、個々にコンディションが異なるため一期一会といえる商品である。素人目にコンディションを判断するのは難しいため、中古車販売店を信頼することで成り立っていたという面もある。

 業界大手企業による不正が、そうしたビジネスの根幹を傷つけてしまったことで、中古車販売というビジネス自体が信頼を失った。そうなると、体力のない企業から退場(倒産・廃業)することになっているのだろう。

 とはいえ、中古車業界にとって逆風が吹いているだけではない。偶然かもしれないが、2023年10月1日より中古車の販売価格表示は「支払総額」となるよう変わっている。これは自動車公正競争規約・同施行規則の改正によって定められたものだ。

 これまでの中古車業界では車両本体価格だけを大々的に表示するという商習慣があった。そのため、車両価格を安くしつつ、登録などに関わる諸費用を高額として、結果的にユーザーは多くの支払いが必要になるという不当な価格表示が横行していた。

 車両価格は1円だが、納車整備などの諸費用は20万円とするような話はあり得ない例に思えるが、けっして皆無ではないのがこれまでの中古車業界だったのだ。ここまで極端な例でなくとも、相場より安い車両価格表示で客を集め、高めの整備費用を計上して儲けようとする業者は少なからず存在していた。

「支払総額」表示がスタンダードとなることで、上記のようなビジネスモデルが実質的に禁じられれば、ユーザーは適切な支払総額で中古車を購入することができるようになるだろう。

 中古車バブルの崩壊とビッグモーター問題というふたつの逆風に対して、「支払総額」表示によって中古車業界が信頼を回復できるかどうかが、いままさに問われている。