「株なんてやるんじゃなかったな」…血走った目でスマホを凝視する毎日。新NISAで“200万円”を投資した68歳男性の「苦渋の決断」
減り続ける老後資金に不安を募らせ、「少しでも増やしたい」と新NISAでインデックスの積立投資を始めた68歳男性。ところが、話題の株に手を出したことをきっかけに、穏やかな日常は大きく揺らぐことになりました。老後の投資で本当に大切なこととは何か?――見ていきましょう。
年金月15万円では心もとない…「一獲千金」の夢を見た68歳男性
「こんな生活が、下手したら20年も続くのか……」
通帳を見ながら、ため息をついたのは埼玉県内で一人暮らしをする藤本正一さん(仮名・68歳)です。
メーカーの下請け企業を定年退職して3年。受け取る年金は月約15万円。家賃や食費、光熱費などの生活費だけでも月17万円ほどかかり、毎月不足分を貯蓄から取り崩して暮らしていました。
退職時には退職金と預貯金を合わせて約1,800万円を確保していましたが、退職祝いや家具家電の買い替えなど突発的な支出も多く、残高は約1,600万円まで減少。不安は大きくなるばかりでした。
そんななか始めたのが新NISA。YouTubeなどを見て、毎月5万円ずつ全世界株式のインデックスファンドを積み立て始めました。ところが、半年経っても利益は2万円にも届きませんでした。
「もちろん損はしていない。でも、このペースでは老後資金はあまり増えないと思ったんですよ」
そう感じていた頃、ニュースやSNSでは半導体関連株の話題が盛んに取り上げられていました。「短期間で驚愕の値上がり」「これからも半導体需要は伸びる」――そんな情報を毎日のように目にするうち、藤本さんの気持ちは揺れ始めます。
「人生、一度くらい勝負してもいいんじゃないか……」
いま、もしかしたら千載一遇のチャンスのときなのかもしれない。そんな予感がしました。迷っている間にも、どんどん価格が上がります。「これ以上上がる前に」とNISAの成長投資枠を使い、約200万円を投じたのです。
20万円や30万円では、たとえ倍になっても人生は変わらない。でも200万円なら、倍になれば400万円、3倍なら600万円。「まだまだ上がる」という思いから、藤本さんは“賭け”に出たのです。
ところが、購入した日を境に生活は一変しました。
1日中スマホを手放せない日々
藤本さんは、朝9時に取引が始まると、15時半の取引終了まで何度もアプリで株価を確認するようになりました。仕事をしていた頃なら、そんなこともなかったでしょう。しかしリタイアして時間がある今は、いくらでもスマホを見ることができてしまうのです。
ところが、藤本さんが買った直後から、株価は下落に転じました。下がる株価にイライラする気持ちが止まらず、何をしていても集中できなくなりました。取引時間が終わっても、「この先どうなるのか……」。不安でしかたなく、SNSを見る手を止められません。
そんな日が数日続くと、藤本さんはすっかり疲れてしまいました。目から来る疲労と頭痛、スマホを持つ手は震え、ストレスで食欲も薄れました。「なんで株なんて買ったんだろう」……短期間でそんなことを思うようになってしまったのです。
老後に大切なのは「大きく増やすこと」より「安心して続けられること」
株価は購入時より約3割下落しました。評価額は約140万円まで減っていましたが、そこで“損切り”を決断した藤本さん。「待てばよかったのでは」という意見にも、首を横に振ります。
「60万円の損失は小さくはない。悩みましたよ。でも、それ以上に株価に振り回されて、スマホに支配されるような生活と1秒でもはやく離れたかった。いい勉強代でしたよ。私は個別株をやるには勉強不足ですし、精神的にも難しいとわかったから」
今後はインデックスファンドの積立1本でいくと心に決めたといいます。それとは別に生活費も見直し、アルバイトも始めようかと考えているとか。
「節約は大変だけど自分でコントロールできますからね。失ったお金を早く取り戻したいし、積立額も少し増やしたい。アルバイトをして地道に頑張りながら、安全に増やせたら一番いいかなと」
世間が盛り上がっていれば「自分も」と思うのは自然なことかもしれません。しかし、その結果がどうなっても、誰も責任は取ってくれません。大きなリターンを期待すれば、それに見合うリスクやストレスも背負うことになります。
自分がどこまでなら受け入れられるのか――それを見極めることこそ、老後の資産運用では欠かせない視点といえるでしょう。

