地球にやってきた宇宙人に、読み聞かせをする--前代未聞の突飛な物語が、人気の高い新人賞を受賞できた理由
第20回小説現代長編新人賞を受賞した『宝石のこえ』(応募時タイトル:「ようこそ!ここはあなたのふるさとです」)。
単行本の刊行を記念して、著者の野沢きみさんにインタビューを行いました。
不思議な世界観と高い文章力が評価された本作が生まれた経緯や、取り組み続けたいテーマなど、たっぷりと語っていただきました。
聞き手・構成:編集部
野沢きみ『宝石のこえ』
ある日突然、地球に宇宙人がやってきた。人間の声を聴くと宝石のような物質を排出するらしい。私は彼らのその習性を利用して対価をもらう「宇宙人の店」で働く代わりに、大学に進学するための費用や生活費を奨学金として援助してもらっている。都会で新たな友人もでき、予備校で出会った了一と恋人になるなど日々を謳歌するが、親密になったはずの彼に、捨ててきた故郷の思い出をうまく話すことができず困惑する。自身の根っこを失い、枝葉にも寄りかかることもできなくなって、言葉の通じない、宇宙人に自らの過去を語り始める。
自分が許されたような気がした
──受賞の連絡があったときはどのようなお気持ちでしたか。
嬉しさや驚きはすぐには湧いてこず、ポカンとした感じで編集部からの電話に答えていました。ただ、ふわふわした気持ちはあったようで、次の日にちょっと買い物を忘れたり、料理の際に入れる調味料を間違えたりはしました(笑)。
──単行本の刊行も近づいてきていますが、受賞の実感は湧いてきましたか。
改稿作業が落ち着いた2月ごろですかね。そこで初めて落ち着いて、自分が受賞したという事実に向き合えました。自分の空想がちなところを、いつからか「恥ずかしいこと」とか「悪いこと」のように思い込んでいたので、それが許されたような嬉しさが込み上げてきました。
──新人賞に応募したきっかけや、小説現代長編新人賞を選んだ理由をお聞かせください。
今回の受賞作の原型となるような作品を書いていたのは応募の約1年前で、賞には出さずにずっと改稿し続けていたんです。そうして直し続けているうちに「ずっとこんなことを続けていていいのだろうか」という気持ちになってきて、区切りをつけるために公募の賞を探し始めました。
なかでも小説現代長編新人賞は受賞作のバリエーションが多彩で、今回の拙作のような突飛なお話も受け入れてくれるんじゃないかという期待がありました。また、執筆歴も1年と少しと短かったので、1次選考を通過したら講評をもらえるのはとても魅力的でした。
「ふるさと」のなかに「さみしい」がある
──本作は「人間の声を聴くと宝石のような物質を排出する」宇宙人の習性を利用して対価を得る「宇宙人の店」で働く女性が主人公で、彼女の都会での生活と捨ててきた故郷の思い出を描く不思議な設定のお話です。この話はどこから思いついたのでしょうか?
小説を書こうと思い立ってから、最初はとにかく頭に浮かんだものを片っ端から書こうとして、宇宙人くらい出てきてもいいよね、と思いついたのが始まりです。そこから宝石を出すという設定や、主人公の造形などプロットとも言えないような設計図を作っていきました。
──自然な流れで宇宙人が登場しましたが、そうした地球外生命体やUMA、オカルトなどのコンテンツはお好きだったのでしょうか。
『ドラえもん』の映画や、星新一さんの小説などが好きで、私たちの想像も及ばない存在が普通にいる世界がいいなと思っていたんです。話のために宇宙人がいるんじゃなくて、ある世界のある時間をそのまま切り取ったような小説にしたいと思っていたので、自然と存在するような話として受け取ってもらえたのなら、うれしいです。
──宇宙人設定の奇抜さも大きな魅力ですが、作品のかなりの部分を占める主人公のモノローグはリアリズムに満ちていて、ギャップを感じます。
ありがとうございます。まず宇宙人を出そうと決めたときに「宇宙人から一番遠い概念って何だろう」と考えた結果、地元やふるさとが浮かんだんです。そこから田舎育ちの女の子が都会に出て、宇宙人との接点も持ちながら、ふるさとや自分自身など色々なことについて思い悩む話につながりました。
──執筆するなかで特に苦労された部分はどこだったのでしょうか。
人間の内心を整頓せずつらつらと書いたので、難解なストーリーではないはずなのに読むのが難しい話に仕上がってしまいました。わかりやすくすることが応募までの課題のひとつでしたし、選考委員のみなさんの選評も、そこがうまくできていなかったからこそのご指摘だったように思います。主人公が故郷で過ごした半生を振り返りながら都会での数年を過ごし、最後にある決断をするのですが、改稿では、その決断に至った主人公の思考過程を肉付けし、読みやすくなるよう改善することを中心に取り組みました。
──ふるさとや故郷というテーマはもともと取り組みたいテーマだったのでしょうか。
昔から「さみしい」という気持ちを考えるのが好きだったのですが、それと「ふるさと」や「故郷」は自分の中では近いところにあるものでした。本来、帰るべき場所は「さみしい」とは対極にあるはずですが、だからこそすでに「さみしい」を内包していると言いますか……。
例えば、よその家の窓から台所が見えたときに、そこでご飯を食べる家族の姿を想像したり、他の誰も知らない独自のルールがその台所にはあるんだろうと思ったりします。そういう居場所をいつか離れたり、失ったりする人もきっといますよね。自分が故郷を離れて暮らしていることもあって、誰しもが大なり小なり持つ離別や喪失の可能性を考えることに、興味を惹かれるのかもしれません。
いいモノローグを書くために
──受賞にあたって、野沢さんの文章力が高く評価されていました。お書きになるうえで意識されていることはあるのでしょうか。
自分では意外だったのですが、素直にとても嬉しいです。自分の中でのルールはそこまで多くはないのですが、一番は、音にした時にリズムや音程が気持ちいい文章になるよう心がけていました。また、何の気なしに使っていた言葉の意味や用法を改めて調べるようにしていました。書きたいニュアンスとなるべく離れない言葉選びができていたらいいなと思っています。
──好きな作家さんや作品を教えてください。
山崎ナオコーラさんの『人のセックスを笑うな』や、吉本ばななさんの『哀しい予感』が好きです。
あとは父がマンガ好きだった影響で、幼少期からマンガもたくさん読みました。
より強く作品に影響を受けたのは、津田雅美さんの『彼氏彼女の事情』や羅川真里茂さんの『赤ちゃんと僕』、羽海野チカさんやジョージ朝倉さんの作品群などでしょうか。
──どんな影響を感じますか?
小説ももちろん、マンガも、心を詳細に描いたものに惹かれるみたいです。なので無意識のうちに、今回のようなモノローグ主体の物語を書いてみたいと思ったのかもしれません。
──今後はどのような作品を書いていきたいですか。
今回のようなちょっと変な話や突飛な設定には引き続きトライしてみたいなと思っています。一方で主人公はじめ登場人物の内面を丁寧にじっくり書くことは、ラブストーリーでもSFでも変わらず取り組んでいきたいです。
本作のラストで主人公が選んだことも、万人が受け入れてくれるものではないかもしれません。だからこそ、人間の矛盾や迷いがそのまま伝わるように書ききることが重要なのだと、改稿やタイトルの再検討を通して改めて確かめることができました。非常に大きな学びでしたので、今後の作品にも活かしていきたいと思っています。
(二〇二六年三月、オンラインにて)
野沢きみ『宝石のこえ』
ある日突然、地球に宇宙人がやってきた。人間の声を聴くと宝石のような物質を排出するらしい。私は彼らのその習性を利用して対価をもらう「宇宙人の店」で働く代わりに、大学に進学するための費用や生活費を奨学金として援助してもらっている。都会で新たな友人もでき、予備校で出会った了一と恋人になるなど日々を謳歌するが、親密になったはずの彼に、捨ててきた故郷の思い出をうまく話すことができず困惑する。自身の根っこを失い、枝葉にも寄りかかることもできなくなって、言葉の通じない、宇宙人に自らの過去を語り始める。

