『ベローチェ』人事部長がバイト女性に言い放った「若くないとクビ」吉野家だけじゃない!漏れる企業の本音
《人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することの出来ない職務上著しく不適任な言動があったため、(中略)株式会社吉野家取締役から解任しました》(吉野家公式ホームページより)
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不適任な言動とは、以下。
「田舎から出てきた右も左もわからない若い女の子を無垢、生娘のうちに牛丼中毒にする。男に高い飯を奢ってもらえるようになれば、絶対に(牛丼を)食べない」
4月に早稲田大学の社会人向け講座にて、牛丼チェーン『吉野家』の伊東正明常務取締役企画本部長(当時)が言い放ったものだ。ほかにも『若い女性をターゲットにしたマーケティング戦略』を“生娘をシャブ漬け戦略”と表現。男性客については「家に居場所のない人が何度も来店する」といったような蔑視発言を繰り返した。飲食の大手チェーンでは、このような性差別・蔑視発言は日常なのだろうか。別のチェーンからも聞こえている。
若い従業員が働いていたほうがいい
「(アルバイト契約の)更新回数上限は、若い従業員が働いていたほうがいいからです。私もそうだが、店に若い人が働いていれば、“ああ、また新しい子が入ったんだな”とか目新しさを求めて店に入ります。うちの客には、サラリーマンが仕事の合間に利用する人が多いので、そういう人のニーズでもあります。そうやって従業員が変わったほうが客に店として目新しさを与えることができていいですから」
「うちの会社では、“鮮度”って呼んでますけどね。定期的に従業員が入れ替わって若返ったほうがいいんです。これは、うちの社長の基本的な考え方でもあって、従業員が入れ替わらないとその店の新鮮度が落ちると言っています」
「会社としての利益は、そうやって従業員を入れ替えるほうにメリットがあります」
これらの発言はコーヒーチェーン大手『カフェ・ベローチェ』の運営会社である株式会社シャノアール(当時)の人事部長が言い放ったもの。『ベローチェ』にアルバイトで勤務していた女性が原告となり、シャノアールを相手取って提訴した裁判の過程での発言だ。
杉並総合法律事務所の三浦佑哉弁護士は、原告の女性の代理人弁護士としてシャノアールとの裁判に携わった。裁判の内容を解説する。
「原告は当時29歳の女性で、『ベローチェ』千葉店に勤務していました。原告が不当な雇い止めを受けたことから、運営会社である株式会社シャノアールに対して、雇い止め無効、未払い賃金、精神的慰謝料の支払いを求め、東京地裁に提訴した事案となります」(三浦弁護士、以下同)
雇い止めとは、期間の定めのある労働契約において、雇用期間が満了したときに雇用側が契約を更新せずに、労働者を辞めさせること。
「雇い止めされるまで、3か月間の労働契約を19回更新し、4年11か月もの間働いてきたこと、店舗で唯一の正社員である店長が不在の場合には、『時間帯責任者』として店長に代わって店舗を管理しており、その業務は店舗の根幹かつ恒常的であること、また契約更新手続きが形骸化していたこと、組合と会社間で“原告については上限なく契約更新することの合意”がなされたことなどから、労働契約法19条1号または2号に該当すると主張しました」
原告側とベローチェ側では何度も団体交渉がなされた。そこで出たのが前出のアルバイトに対する「鮮度」だ。“うちの客には、サラリーマンが仕事の合間に利用する人が多いので、そういう人のニーズでもあります”という人事部長の発言から、この鮮度という言葉が、とかく女性に向けられたものであることがわかるだろう。
“鮮度が落ちる”発言は企業の本音か
「“鮮度が落ちる”という趣旨の発言は、ベローチェ側の“本音”としか考えようがありませんでした。原告の女性は、“大好きなお店だから働き続けてきました。なのに、辞めさせる理由として『鮮度』という言葉を使って、魚や野菜のようにモノ扱いされ、人としての価値まで奪われました……と涙ながらに話しました。
また、“ただ4年で人を使い捨てにするだけではなく、女性をモノ扱いし、年齢を重ねた女は、必要ないと言われたことが、私に裁判を決意させる決め手となりました”とも語っています」
しかし、こちらの裁判は一審では会社側の主張を認め、女性の主張は退けられた。
「東京地裁は、“鮮度”発言について、“相当性を欠くきらいはあるとはするものの、交渉の際の一部の言動をとらえて不法行為の成否を判断すべきではない、人格を傷つける意図があったことを認めるに足りる証拠がない”などとして、違法な発言とまでは評価できないと不法行為責任を否定しました。あのような発言は、文脈や経緯はどうであれ、原告の人格や存在そのものを侮蔑するものであり、法的に違法とまでは評価できないとの判断は、著しく公平さを欠く判断と言わざるをえませんでした」
女性は控訴。控訴審での2回の口頭弁論期日を経て、結審がなされた。その後の和解協議の場で高裁の裁判官は次のように話したという。
「原審(編集部注・その裁判の1つ前の段階で訴訟を審理した裁判)が労契法19条2号該当性を否定したことには問題があると考えている」
そして、高裁の裁判官から和解の提案がなされ、その提案を基にした和解が’16年に成立した。ベローチェ側は女性に解決金を支払う形となった。
「ベローチェ側による女性に対する一定の解決金の支払いは、雇い止めおよび鮮度発言について会社が責任を認めたも同然であり、また、原告となった女性も“尊厳が回復されたと感じている。勝利に近い和解だった”と話しており、勝利的和解といえるものだと考えております」
これら一連の裁判は’16年に和解成立となったが、ベローチェのアルバイトの勤務形態は変わっていないという声が聞こえてきた。
そこでベローチェの運営会社に人事部長による当時の“鮮度”発言について会社としての見解、またアルバイトの契約について問い合わせると、以下の返答があった。
「当該の件で訴訟があったことは事実です。すでに当事者間での和解が成立しており、和解内容については守秘義務を課せられているため、回答は致しかねます。現在は、6か月有期契約となっており、契約更新の上限は設けておりません」
アルバイトを利益のために簡単に取り替えられる“モノ”として扱い、またそこで性差別を行う……。大手チェーンとしてどれだけ店舗を拡大しようが、そこに人の心はあるのか……。