デビューから丸3年 スズキ「ジムニー」がいまだに納車1年待ちの“なぜ?”

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一時期は納車待ちが半年強にまで改善したが…

 2018年7月のデビューから、丸3年が経過したスズキジムニー」シリーズ。発売直後の爆発的ヒットから、未だその勢いは衰えを見せていません。

 ジムニーといえば、もはやデフォルトになってしまっている納期の長さ。一時期はかなり解消されつつあるという情報もありましたが、その後どうなっているのでしょうか。

スズキジムニー シエラ」のフロントマスク。丸目&スクエアなデザインがクラシカルな雰囲気を醸し出す

【画像】やっぱり出てきたジムニートラック! スズキが「ジムニー」ピックアップ仕様を出展!(28枚)

 都内にあるスズキ直営の販売店、スズキ自販東京・スズキアリーナの営業スタッフに聞いてみました。

 返ってきたのは「すみません、ジムニージムニー シエラともに1年以上かかるとご案内しています」という答えでした。

 夏前に聞いた話では、ジムニー、シエラともに半年強で納車されているということだったのですが…。中部や関西の販売店にも問い合わせましたが、やはり1年以上待ちということでした。

 スズキは2021年4月から、インドのマルチ・スズキ・インディアの工場にシエラの生産を移管し、輸出用の車両についてはそちらで生産しています。これによって、国内向けのシエラが実質的な増産状態となり、順調に納車され始めているという話でした。

 また2020年にはコロナ禍の影響によって、国内生産が一時的にストップしたこともありましたが、その後の生産体制の見直しにより、現在ではコロナの影響を受けていないといいます。

 では、なぜジムニーの納期はまた1年を超えてしまったのでしょうか。そこには自動車業界全体が抱える、ある問題があります。

 それは、半導体不足。半導体業界は、過剰供給を防ぐため、世界的にコロナ禍が広がった直後から生産数を絞りました。しかし、実際の市場は縮小どころか拡大する傾向を見せたため、ITや自動車などさまざまな業界が、半導体を取り合うという過度な不足状態に陥っています。

 とくに自動車業界は、半導体メーカーとの結び付きが弱いという意外な側面があり、どのメーカーも生産を縮小せざるを得なくなっているのです。スズキも他聞に漏れず半導体不足の影響を受けており、2021年4月から2022年3月までの世界生産を、計画当初よりも35万台減産すると発表しています。

スズキジムニー」(写真左)と「ジムニー シエラ」(右)

 ジムニーの納期もその影響を受けているわけですが、納期が再び1年を超えた現状でも、オーダーに来るユーザーが絶えないと、前出の営業スタッフはこういいます。

「この夏休み中にも、走っているジムニーを見たお客様が気に入られて商談に来られますね。8月も数件の契約をいただきました。お待たせして申し訳ないのですが、契約していただけるお客さまは“気長に待つから”という方が多いので、お受けすることにしています」

四角いデザインやボーダレス感がジムニー人気の理由

 それにしても、なぜジムニーはそこまで人気があるのでしょうか。

スズキジムニー」のオフロードの走り。多くの部分において従来の弱点を解消しているという

 それは車格を越えたボーダレスなイメージではないかと、あるジムニー業界の関係者はいいます。

「そもそもジムニーは、軽自動車というイメージが薄いんですよね。もちろんシエラにはオーバーフェンダーが付いていて、見た目の差別化は図られていますが、知らない人が見ると同じ車種だと思ってしまいます。

 最近は軽自動車も車格を越える豪華なモデルが多いですが、なかでもジムニーはボーダレス感が強いクルマ。白ナンバーを取得すれば、もはや軽自動車かどうかがわかりません。どのカテゴリーにも所属しない、ジムニーオリジナルという価値が魅力なんだと思いますね」

 もちろんアウトドアブームが裏打ちする道具感や、1990年代以降しばらく見なかったスクエアな四駆デザインも人気の要因になっています。50代以上のユーザーであれば、懐かしさを感じるボディデザインですが、若年層には他の国産車にはない雰囲気を備えた斬新なクルマに映ることでしょう。

 ジムニー用のオフロードタイヤで成功をおさめているタイヤメーカーのスタッフは、成功の要因を次のように語ります。

「やはり先代のJB23/43型とはまったく違う層のユーザーが、ジムニーオーナーの半数以上を占めたということだと思います。先代はやはり、悪路愛好家などコアな人々が多かったのですが、現行型はオフロードなんて走らないという人たちばかり。そういう普通のユーザーが“なんかジムニーっておもしろそう”“かわいい”と飛びついたことが、ジムニー人気に繋がっていることは間違いありません」

 もちろん、従来のジムニーファンも現行型の需要を底支えしています。悪路走破性という点では、先代よりも評価が低い部分もありますが、多くの部分において従来の弱点を解消しているからです。

 アフターパーツマーケットを見ても、ジムニー専門店がリフトアップサスペンションや悪路用のエクステリアパーツなどを豊富に流通させています。こういったパーツの多くが、従来からのジムニストのために用意されたといっても過言ではありません。

 一方で、ジムニーと無縁だったメーカーも、積極的に市場に商品を流通させています。たとえば、カーアクセサリー用品メーカーの星光産業は、早々にジムニー専用を謳ったラインナップを揃えました。発売当初は市場への不安もあったといいますが、ユーザー層がガラリと変わったことで大きな成功をおさめることになりました。納車前にアクセサリーを購入するユーザーが多いというのも、ジムニーに見られる独特の傾向だといいます。

スズキジムニー」のインテリア。無骨な外観に対して室内のデザインは現代的だ

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 車両もパーツも大人気のジムニーですが、シエラには数年以内にロングボディ車のデビューが控えているといいます。

 しかし現状のバックオーダーが解消されない限り、日本市場への導入は延期される可能性があります。一方で、「ロングボディが出たら買いたい」というユーザーも少なくありません。スズキとしては、早くバックオーダーを解消して、さらなるビジネスチャンスを広げたいところですが、それには半導体問題を解決する必要がありそうです。

 ちなみに、ジムニーシリーズは販売店でのキャンセルも月に数件は出るようですが、待っているユーザーからの引き合いですぐに行き先が決まるということでした。ショートボディをとりあえず注文するか、それともシエラロングのデビューを待つか、ユーザーにとって悩ましい日々はまだまだ続きそうです。