「細胞」の“医薬品”化で世界リードできるか
20世紀に隆盛を誇った低分子医薬は、20世紀末に有望な治療標的が徐々に枯渇し、市場は頭打ちとなった。続いて登場した高分子医薬(抗体医薬=本庶佑博士のノーベル生理学・医学賞受賞研究に基づくオプジーボもその一つ)は、年間数千億―1兆円の売り上げの製品が次々と世界市場へ投入され全盛期にある。しかし、激化の一途をたどる新型抗体医薬の開発競争も30年には頭打ちとなると思われ、その先を見据えた、従来とは根本的に異なる発想が求められる。
ところが、16年に米国で製品化されたCAR―T治療(人工改変免疫細胞を患者に投与)は、難治がんに対し圧倒的な治療効果を示した。これは生命の最小単位である細胞を人工的に造り込み、革新的“医薬品”として確立させた世界初の象徴的事例である。
さらなる新概念
もう一つの新潮流が「治療アプリ」という新概念であると筆者は考えている。10年代後半より、例えば疾病管理(行動変容)や認知行動療法などをスマホのアプリにし、臨床上の明確な治療有効性に基づき薬事承認を取得する事例が徐々に登場している。医学的に設計されたゲーム開発も興味深い。医師から飲み薬ではなく“アプリ薬”が処方される未来が大いにあり得る。
19年2月に国内第1号の「細胞」(CAR―T)が薬事承認され、国内第1号の「治療アプリ」も近いうちの薬事承認が期待される。平成の終わり、そして令和の始まりに、医薬品の未来を予感させるこれら事例が登場したことは感慨深い。
これらの主導権を握ることが、世界の健康・医療産業で大きな存在感と人類全体の健康への大きな貢献に直結する。わが国が世界をリードするため、産学官がアイデアを振り絞り戦略を策定し、重厚・中長期的な基礎研究と応用・製品化を迅速に推進せねばならない。
<文=辻真博 科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センターフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)>
東京大学農学部卒。ライフサイエンスおよびメディカル関連の基礎研究(生命科学、生命工学、疾患科学)、医薬品開発、医療ビッグデータ、研究環境整備などさまざまなテーマを対象に調査・提言を実施。
