ロシア・南カムチャツカ禁猟区のヒグマ(時事通信フォトより)

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「お母さん、ヒグマが私を食べている! お母さん、痛い!」──母親への電話で、1時間にわたって悲痛な叫びを上げ続けながら、ヒグマに喰われた女子大学生のオルガ。彼女の父親であるイゴールもまた、隣でクマに襲われ絶命した。2011年8月に起きた「ペトロパブロフスク熊事件」だ。

【写真】170cmの巨大な日本のヒグマを狩ったハンター、「頭をホチキスで…」クマに襲われた痛々しい傷

 そしてこのカムチャッカ半島では、「ペトロパブロフスク熊事件」以降にも凄惨な「人食いグマ」事件が多発。ロシア屈指の「危険地域」の実態について、『人喰い熊大国ニッポン』(小学館新書)より、一部抜粋して紹介する。【前後編の後編。前編から読む】

駆除と埋葬

 イゴールの兄アンドレイが現場に到着したのは午後1時頃だった。現場にはまだイゴールとオルガを喰ったヒグマがいたが、何もできなかった。すぐさまタチアナに電話し、夫が死んだことを伝えた。

 それから程なくして、現場に警察と救急車、ハンターが急行した。彼らは死体をむさぼり喰うメスのヒグマを見つけた。ヒグマは、殺害されたイゴールの帽子をくわえていた。

 翌日、ハンターの手により、母グマ1頭、子グマ3頭が射殺された。子グマは2歳くらいでイヌよりも大きかった。

 四頭のヒグマは、エリゾボ地区警察署で解剖され、すべての胃の中から犠牲者2名の肉が出てきた。8月17日、イゴールとオルガはコリャーキ村で埋葬された。

 オルガはこの年、モスクワ近代人文科学アカデミーに入学していた。

近隣で次々に起こった「人喰い熊」事件

 筆者の調べたところでは、この事件が起こったペトロパブロフスク近郊は、人喰い熊事件が多発する「危険地域」である。直近の事件を以下に列記してみよう。

 2014年6月には、ペトロパブロフスク近郊のレスノイ村で、地元住民がヒグマに引き裂かれ、他1名が負傷する事件があり、さらにその3日前にも、近隣のソスノフカ村で女性がヒグマに襲われ、身体のほとんどが喰い尽くされた。加害熊は同村付近の森で射殺されたが、オスの成獣で痩せており、胃の内容物から女性を襲って喰ったことが判明した。

 2016年7月には、やはり近郊のエリゾヴォ村郊外で、一部が食害された男性の遺体が発見された。正確な被害日時は不明だが、熊狩りが行われていると報じられた。

「危険地域」のカムチャッカ半島

 4つの事件が起きた、ペトロパブロフスク市、レスノイ村、ソスノフカ村、エリゾヴォ村は、半径20キロ圏内に、ほぼすっぽり入るほど至近である。カムチャツカ半島には約2万頭ものヒグマが生息しているが、約20頭が毎年、危険と判断されて射殺されているという。

 林業野生生物保護庁副局長ウラジミール・ゴルディエンコは、「人間の肉を味わったヒグマは、ほとんどの場合、意図的に人間を狩り始めるので、射殺することが非常に重要だ」と強調した。

 このように、ロシアにおける人喰い熊事件は極東に集中しているようである。特にカムチャツカ半島は、先述の事件の他、写真家の星野道夫が襲われるなど、人喰い熊事件が多発している。その背景には、サケ、マスなどの川魚の乱獲があるとの指摘がある。

(了。前編から読む)