「経営理念の貼り紙は剥ぎ取られた」ニデック社内で進む永守重信“完全排除”の舞台裏《退任後の目撃情報も》
粉飾決算や品質不正問題が相次ぎ発覚しているモーター大手のニデック。6月18日には定時株主総会を開いたが、2026年3月期の決算をいまだに発表できていない。このような事態に陥った背景には、創業者である永守重信氏が築いた組織風土があるという。
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質問者数は昨年の3倍に
一連の不祥事は、売上高が2兆円を超える大企業になったにも拘らず、創業者の永守氏が全てを決め、彼への忖度が蔓延することで、永守氏の意思決定を牽制、チェックする機能がなかったことに起因する。ニデックは永守氏の「個人商店」的な経営を続けていたのである。
しかし、永守氏は現時点において、退任の記者会見もせず、株主総会の壇上から株主に説明して詫びることもしなかった。説明責任を果たしたとは言えないだろう。
総会に出席した株主は昨年よりも95人多い746人。このうち37人の株主が質問に立った。質問者数は昨年の約3倍で、開催時間も2倍近い3時間48分に及んだ。
個人と資産管理会社で計約12%のニデック株を持ち(昨年9月時点)、現在も最大の個人株主である永守氏は株主としても会場には現れなかった。

ニデック創業者の永守重信氏は「俺のやり方が間違っていたかもしれない」と周囲にもらしているという ©時事通信社
同氏が株主総会の会場に現れなかったのは、説明責任から逃げたこともあるだろうが、体調が万全でない可能性もある。永守氏は今年2月26日付でニデック名誉会長も辞任した。その後は、京都先端科学大学を運営する学校法人永守学園の理事長職に専念すると見られていたが、「最近は学校でもあまり見たことがない」と関係者は言う。
また永守氏は京都市内にある九頭竜大社を熱心に信仰し、これまで株主総会の前など経営者としての節目には参拝を欠かさなかったことで知られる。信者の1人はこう明かす。
「5月半ばに参拝した時に、永守氏を見かけたが、痩せこけていて、かつての面影はなかった。男性に肩を支えてもらいながら、足を引きずって歩いていた」
ニデックの取引先企業の役員も、「永守氏は、『俺のやり方が間違っていたかもしれない』と周辺に語っていると聞いた」と明かす。かつて株主総会で株価の低迷を株主から問いただされた際、「うちの株は長期保有することに意味がある。不満があるなら今ここから出て行って売りなさい」と言い放ったほど、強気で知られた永守氏だが、体力が衰え、気力も減退しているのだろう。
剥がされた貼り紙
永守氏に批判的な株主の質問に対して、岸田社長は「1人の理由で今回のことが起きたとは思っていない。組織風土を自分たちの手で変えていく」と答えた。しかし、不祥事を誘発した組織風土は、創業以来、永守氏が構築してきたものに他ならない。このため、ニデック社内ではいま、「永守色」を社内から払拭しようとする動きが加速している。
ある幹部が打ち明ける。
「会議室の壁には、永守氏が掲げた経営理念や生産性の向上などを目指す言葉の書かれた貼り紙がありました。そのほとんどが剥ぎ取られ、白く跡が残る壁を見るにつけ、経営体制が変わったことを感じます」
さらにニデックは、本社近くに計画していた「永守重信創業記念館」の建設も中止を検討している。
一方で、こんな社内の声もある。
「今年2月に永守氏の名誉会長辞任が発表された後、社内で泣いている社員も何人かいた。カリスマ創業者の影響力を完全に排除するには、まだ時間がかかるだろう」
かつて永守氏が経営トップの時代に株主総会で「うちのOB会の平均個人資産は10億円ですよ」と豪語したことがある。過去、ニデックは株式分割を繰り返しながら株価を上げてきた。「失われた30年」に時価総額を増大させた企業は、1位がトヨタ自動車、2位が計測機器大手のキーエンス、3位がニデックだとされる。昔から社員持ち株会に入るなど株を保有していた社員の中に、莫大な資産を築いた「株式長者」がいることは想像に難くない。
※この続きでは、「永守式経営の妄信」を招いた組織風土のエピソードを紹介しています。
約7000字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年8月号に掲載されています(井上久男「永守重信、稲盛になれなかった男」)。
(井上 久男/文藝春秋 2026年8月号)
