【河合 桃子】Threadsで自称「東京のOL」に騙されてカンボジアに…「臓器を売るか詐欺をするか選べ」と脅された40代中年男性の「同情したくなる背景」
カンボジアを拠点とする日本人を狙った特殊詐欺犯罪が深刻化している。カンボジア政府は今年4月に「特殊詐欺を根絶する」との目標を掲げ、昨年7月から今年4月までに1万人以上の日本人含む外国人を強制送還させたと発表。筆者は、今年5月に自力で特殊詐欺グループから逃げ“かけ子”をさせられずに済んだ男性に独自取材した。
Threadsの投稿がきっかけだった
「強盗とか脅迫とか怖い文言は書いてなかったし、まったく怪しい誘いじゃなかった」
九州在住で専門業者を営んでいた宮田和明さん(仮名、40歳)は、こう振り返る。宮田さんは今年5月11日に、関西空港で待ち合わせた特殊詐欺のリクルーターと思われる人物とプノンペン空港へ向かい、市内のホテルに軟禁されたものの、自力で脱出。在カンボジア日本大使館と現地警察の協力を経て5月21日に無事帰国した。
宮田さんが特殊詐欺組織の勧誘に乗ってしまったのには、こんな心の隙間もあったようだ。独身の宮田さんは自身の会社の2000万円近い売掛債権(ファクタリング)などの返済をしながら会社と家を往復する日々に少なからず不満や退屈さを感じていた。そんななか、今年のGW明けの5月8日、詐欺系の勧誘被害が多く報告されているSNS『Threads』のこんな投稿に目が留まる。この投稿こそが宮田さんがカンボジアに行くきっかけとなったものだった。
「カジノに稼ぎに行く案件が入ったので、どなたか一緒に行きませんか? 詳しく伝えるのでDM下さい」
プロフィールは「東京のOL」だった
この投稿について、宮田さんは言う。
「その投稿主のプロフは『東京のOL』などと書かれていました。名前は『WA』です。それまでの投稿からは、カジノに行くイメージはありませんでした。それこそ港区女子みたいな煌びやかな投稿はなく、ごく普通の『ご飯食べた』とか『どこ行った』みたいなほのぼのした内容ばかり。そこに突然『カジノ』案件の投稿だったので、『そういう気分もあるか』と、なんの疑いも持ちませんでした。だからその投稿主に『どんな案件ですか』とDMしたんです」
「WA」なるアカウントからは、すぐに返事が来たようだ。そこには「軍資金はこちらで用意するし、種銭は必要ない。もちろん航空券も用意するから関西空港まで来てくれるだけでいい。絶対に負けない方法を教えるのでみんなで儲けよう」というような内容が書かれていたという。そんな上手い話には疑いを持ちそうなものだが、宮田さんは疑わなかった。
「周囲の友人も韓国のカジノとかに行って儲けた話を聞いたりしていたから、そこまで不安ではなかった。もちろん友人らは自分の金で行ってるんですけど、WAは『怪しい話ではないから安心してほしい』と言うばかりで、すっかり信じてしまいました」
またWAは、メールで「日帰りで帰れるから、11日に出発して12日の深夜便では帰れる」などと言っていたそうだ。そのため宮田さんは11日と12日を有休にし、13日から仕事に出勤する予定だった。
なぜか地味な小太り男がやってきた
「11日12時に関西空港に集合だったので、九州の地元から新幹線で大阪まで行き、そこから関空まで向かいました。第1ターミナルビル2階の『すき家 関西国際空港店』で待ち合わせ場所にいたWAは女性ではなく20代後半の地味な小太りの男性でした。『あれ、女性ではないんですね』と言ったら『そうなんですよ』と言い訳もしない。しかも、行き先はそれまで韓国だと思ってたんですけど『カンボジアだ』と。その時点では僕は、プノンペンにもカジノあるからいいか、と」
WAと宮田さんは5月12日23時にプノンペン空港に降り立ち、アルファードのタクシーに乗りビーチリゾートの港湾都市シアヌークビルの4つ星ホテル『Ming Guan Hotel』に。その日は夜も遅いからということで「明日の昼にカジノに行こう」と約束し指定の部屋でそのまま就寝した。
「13日昼になると、WAから『もうひとり来るはずだったメンバーが来ないから待ってほしい』と言われ、WAと共に昼ごはんやマッサージに行きました。それらはすべてWAの驕りで、バイクタクシーで移動する様子を動画撮影したりと僕は完全に観光気分でした。でも今思えばこうやって贅沢三昧させた後の要求を断れないようにしていたと思います。一旦ホテルに戻り、WAからは『部屋で待つように』と言われるも、夕方になってもカジノに行く様子がない。さすがにおかしいと思いました」
宮田さんは部屋で待機しながらスマホで『カンボジア SNS カジノ』などと検索して今の自分が置かれている状況を探り始めた。すると出てくる『特殊詐欺』などの文言。だんだん自分が置かれている状況の危うさを感じ始めた。
「臓器を売るか、仕事をするか」
「そうこうするうちにWAが部屋に来て『昨日来るはずだったもうひとりが来ない。人数が揃わないとカジノは行けない。あなたが何か仕組んだのではないか』と、これまでの様子とは打って変わって、わけのわからない疑いをかけられました。『何の話かわからない』と言っても、一方的に『もうひとりが来ないのはお前のせいだ。こちらとしては大損だ』などと言ってきました」
何を言っても聞く耳を持ってもらえず『お前のせいだ』と言われ、宮田さんは焦り、この時はじめて『やばい』と思った。
「WAと話して30分もしないうちだと思いますけど、僕の部屋に突然、メガネをかけて左腕に何かの文字の刺青が入った50代くらいの男性がヨタヨタと歩きながら入ってきました。その人は僕に『もうひとり来ない奴は、米ドルを運ぶ案件で金を持ったまま飛んだ。それで300万円の損害が出た。臓器を売るか、どっかの箱(詐欺拠点)に飛ばして仕事をしてもらうかどっちかで必ず返せ』と言いました。それに『変なことを考えたりどこかに連絡するな』などとも脅されました」
部屋でWAともう一人の刺青男に詰め寄られ、逃げ場を失った宮田さん。しかも刺青男からは「パスポート出せ」と言われて無理やり没収させられている。その時に「税関も買収してるから勝手に国から逃げることもできない」とも言われた。ここで宮田さんははじめて、WAは特殊詐欺犯罪の仕掛け人となる“かけ子”を手配するリクルーターで、刺青男はその元締め的な存在なのだと知る。その時、宮田さんが持っていた現金は日本円で2万円。「人生詰んだ」と思ったという。しかしこの後、SNSのXやThreadsなどで助けを求めたことで脱出のきっかけを掴むことになるーー。
【後編を読む】「カンボジアの詐欺拠点」から脱走した40代男性が”独占証言”…Threadsで騙され、Xで救われた「顛末」とは
【つづきを読む】「カンボジアの詐欺拠点」から脱走した40代男性が”独占証言”…Threadsで騙され、Xで救われた「顛末」とは

