日本の医療費制度の問題点は何か。実業家の堀江貴文さんは「定期的に健康診断に行く真面目な人が、行かずに病気にかかった人の余計な医療費を支払う仕組みは不公平だ。健診に行く人にはインセンティブを、行かない人には罰金を科す制度を日本も導入すべきだ」という――。

※本稿は、堀江貴文著、予防医療普及協会監修『日本医療再生計画 国民医療費50兆円時代への提言22』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

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■日本の医療費を膨張させている「低い健診受診率」

日本の健診受診率の低さは、もはや見過ごせない社会課題となっている。

特定健診の受診率は59.9%、がん検診に至っては50%前後で停滞しており、国が掲げる目標値には程遠い状況だ。

私がこの数字を見て感じるのは、日本人の健康に対する意識と制度設計の間に存在する深刻なミスマッチだ。「忙しいから」「面倒だから」という理由で健診を後回しにする行動は、経済合理性の観点から見ると極めて非効率的な判断と言わざるを得ない。

早期発見できれば簡単に治療できる病気も、放置すれば莫大な医療費と時間、最悪の場合は命まで失うことになる。データを見れば一目瞭然だ。糖尿病や高血圧が重症化すると、年間医療費は大幅に跳ね上がる。予防にかける費用と時間は、治療にかかるコストと比べれば微々たるものなのだ。

それにもかかわらず、なぜ人々は健診を受けないのか。答えは制度設計にある。現在の仕組みでは、健診を受けなくても何のペナルティもない。むしろ、健診を受けずに病気になってから医療機関に駆け込んでも、国民皆保険制度のおかげで治療費の大部分は保険でカバーされる。これでは、予防のインセンティブが働かないのも当然だろう。

■世界は「ポイント還元」「ボーナス支給」が当たり前

世界を見渡せば、すでに多くの国が健康行動にインセンティブを導入している。

南アフリカ発の「Vitality」プログラムは、今や世界17カ国で1000万人以上が利用する巨大システムになった。ウェアラブル端末運動データを記録し、健診を受ければポイントが貯まる。そのポイントで保険料が最大25%も割引になるのだ。

シンガポールでは、政府主導で「Healthier SG」プログラムを開始した。健診を受けた住民には20シンガポールドル(約2300円)相当のポイントが付与され、スーパーでの買い物や公共交通機関で使える。国が直接的に健康行動を金銭的に評価する仕組みを作ったのだ。

ドイツの公的医療保険では、予防接種や定期健診を受けた加入者に年間数十ユーロのボーナスを支給している。アメリカでは、企業の健康増進プログラムで保険料の最大30%まで差をつけることが法的に認められている。

これらの国々は、すでに「健康は個人の責任」という考え方にシフトしているのだ。健康的な行動をとる人は報われ、そうでない人は相応の負担をする。極めて合理的なシステムだと思う。

■日本でもマイナンバーを使えばすぐに実現できる

日本でも、ようやく技術的な基盤が整いつつある。マイナポータルでは、すでに特定健診の結果を閲覧できるようになった。APIを通じて、健診受診データを外部サービスと連携することも可能だ。

つまり、「誰が健診を受けたか」を把握し、それに応じて自動的にインセンティブやペナルティを付与するシステムは、技術的にはすぐにでも実現可能なのだ。

マイナポイント事業では、数百万人規模へのポイント付与を実現した実績もある。この仕組みを転用すれば、健診受診者への即座のポイント還元も難しくない。保険料の調整についても、システム改修さえすれば個人単位での加算・減算は可能だ。

私が提案したいのは、シンプルな仕組みだ。健診を受けた人には、マイナポイント保険料割引という形で明確なメリットを与える。受けない人には、保険料を少し上乗せする。これだけのことだ。

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■人間は「得をする」より「損をしない」ことを優先する生き物

なぜペナルティが必要なのか。それは、人間の心理を考えれば明らかだ。

行動経済学の研究によれば、人は「得をする」ことよりも「損をしない」ことに敏感に反応する。同じ1000円でも、もらえる喜びより失う痛みの方が大きく感じられるのだ。だから、ポイント還元だけでなく、保険料加算というペナルティも組み合わせることで、より強力な動機付けになる。

福岡県医師国民健康保険組合の事例は興味深い。3年連続で健診を受けた人は保険料2%減額、2年連続で受けなかった人は2%増額した。この程度の差でも、受診率は確実に向上したという。

重要なのは、インセンティブの即時性だ。健診を受けたらすぐにポイントが付与される。この「すぐに報われる」感覚が、行動変容には不可欠なのだ。年度末にまとめて、では効果は半減する。

■なぜ無頓着な人の治療費を真面目な人が払わなければならないのか

「低所得者に不利ではないか」「プライバシーの問題は」といった批判は当然出るだろう。

しかし、考えてみてほしい。真面目に健診を受けている人が、受けない人の将来の医療費を負担する現在の制度こそ、不公平なシステムではないか。健康に無頓着な人の重症化した病気の治療費を、なぜ健康管理をしている人が支払わなければならないのか。

プライバシーについては、すでにマイナンバーで税金も社会保険も管理されている。健診データだけ特別扱いする理由はない。むしろ、データを活用して国民の健康を守ることこそ、政府の責務だろう。

低所得者への配慮は必要だ。だが、それは健診を受けやすい環境を整備することで解決すべきであって、制度そのものを否定する理由にはならない。夜間・休日の健診実施、移動健診車の活用など、方法はいくらでもある。

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■まずポイント還元保険料割引から始めればいい

私は何も、明日からいきなりペナルティを導入すべきだと言っているわけではない。

まずは、ポイント還元から始めればいい。健診を受けたら1000ポイント、連続受診でボーナスポイント。これで受診率がどう変化するか、データを取る。効果が確認できたら、次は保険料割引を導入する。そして最後に、それでも受診しない人への軽微なペナルティを検討する。

大切なのは、透明性を持って進めることだ。データを公開し、効果を検証し、国民の理解を得ながら制度を改善していく。これは独裁的な押し付けではなく、合理的な社会システムの構築なのだ。

日本の医療費は2022年度に46.6兆円に達し、今後も増加が見込まれる。このままでは、国民皆保険制度そのものが維持できなくなる。予防にインセンティブを与えることで、医療費を抑制し、持続可能な制度を作る。これは避けて通れない道だと思う。

■企業・自治体も「インセンティブ制度」の導入を

制度の導入を待つ必要はない。今すぐ、自分から健診を受けに行けばいい。

堀江貴文著、予防医療普及協会監修『日本医療再生計画 国民医療費50兆円時代への提言22』(幻冬舎新書)

民間の保険会社では、すでに健康行動に応じて保険料が変わる商品を提供している。住友生命の「Vitality」などは、まさに世界標準のインセンティブ型保険だ。こうした商品を選ぶことで、自分の健康行動を経済的メリットに変えることができる。

企業の経営者なら、従業員の健診受診率を上げる独自のインセンティブ制度を作ればいい。健診を受けた社員にはボーナスを出す、部署単位で受診率を競わせる。工夫次第で、いくらでも仕組みは作れる。

自治体の首長なら、独自の健康ポイント制度を導入すればいい。大阪府の「アスマイル」のような成功事例はすでにある。参考にすればいいのだ。

要は、誰かが制度を作ってくれるのを待つのではなく、自分から動くことだ。健康は自己責任であり、同時に社会全体の責任でもある。その両立を可能にするのが、インセンティブという仕組みなのだ。

■10年後、健診を受けない人は「損をする世の中」になる

私は確信している。10年後、健診を受けない人が保険料を多く払うのは当たり前になっているだろう。そして人々は、「なぜもっと早く導入しなかったのか」と首を傾げることだろう。

変化を恐れず、合理的な選択をする。それが、これからの時代を生き抜く唯一の方法だ。健診を受けるか受けないか。その選択が、財布と健康の両方に直結する時代がもうそこまで来ている。

今のうちに、健診を受ける習慣をつけておくことをお勧めする。それが、最も賢い投資だと私は思うのだ。

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堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)
実業家
1972年、福岡県生まれ。ロケットエンジンの開発や、スマホアプリのプロデュース、また予防医療普及協会理事として予防医療を啓蒙するなど、幅広い分野で活動中。また、会員制サロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」では、1500名近い会員とともに多彩なプロジェクトを展開。『ゼロ』『本音で生きる』『多動力』『東京改造計画』『将来の夢なんか、いま叶えろ。』など著書多数。
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(実業家 堀江 貴文)