[トークショー「日本サッカーをいかに育むべきか」
サッカージャーナリスト養成講座 主催)より抜粋]
宮市亮
Interview by Yoshihiro IWAMOTO Photo by Itaru CHIBA
城福浩「日本でプレーしても確実な成長曲線が描けると、若い選手たちに思わせなければならない」

育成制度の熟成に関しては、指導者の立ち位置も重要ではありますよね。

小澤――これは批判ではなく建設的な提案なのですが、例えばヨーロッパや南米では、60歳ぐらいの育成の指導者がいて、子供に接しながらサッカーを教えつつ、人生についても教えていくような環境があったりします。日本はプロになってからまだ20年弱なのでまだまだかもしれないですが、協会、あるいはクラブが育成の指導者たちに感謝して、彼らにもっと好条件、高待遇を与えられるような発想になっていったほうが良いでは、と思うのですがいかがでしょうか。

城福――本当にそのとおりだと思います。ただ、一つだけ難しいのは、Jのユース、つまりクラブの下部組織からしか選手が出てこないわけではなくて、高校や大学からも選手は出てくるわけです。つまり敗者復活があるというのは、日本にとってストロングポイントであるわけですが、逆にクラブからすると、「自分のところのユースから選手を上げない限り選手獲得にお金が掛かってしょうがない」という状況ではなく、高校や大学から選手を取ってくれば良いので、育成が必要に迫られていないんです。クラブがユースの監督にお金を掛けるかどうかは別としても、「頼むから選手を育ててくれ」という環境ではなく、高校からも取れてしまうのは、日本のストロングポイントでありながら、Jのユースがプロフェッショナル化するのを阻害しているという面も間違いなくあります。そこをこれからどうしていくのか、知恵の絞りどころかもしれないですね。

去年フェイエノールトでプレーした、アーセナルの宮市亮のように、高校からいきなりヨーロッパのクラブに行くケースがあります。最近では三菱養和の田鍋陵太がシャルケの練習に参加することになったとニュースが出ました。今後さらにこうした形が増えてくるかと思いますが、Jクラブの経験なしでの海外行きの功罪についてお聞かせください。

小澤――選手側、あるいは日本サッカー界から見た時にはすごく良いことだと思います。協会から練習参加という形でねじ込むのではなく、その年代で評価されて行くという正常な流れになってきているのは間違いなくメリットでしょうね。一方で、やはりそうした若手のタレントがJリーグに入って成長し、巣立つ時にはしっかり移籍金という形でクラブにお金を落としてくれるというサイクルを作っておかないと、今後、Jリーグにタレントがいなくなって空洞化して、移籍金も取れないような悪循環に陥る可能性もある。ここは今のうちに何か手を打たないといけないところですね。

具体的な方法は何かありますか?

小澤――例えば、新入団選手の初年度の年俸は上限480万円、去年の永井謙佑(名古屋)や今年の山村和也(流通経済大)のように大学生のうちにA代表のキャップを積んでいて、入団時にA契約を結べたとしても、1年目の契約は上限700万円とJリーグに決められています。これでは仮に海外のクラブと選手の獲得で競合した時に、海外のクラブは年俸1000万円で、日本のクラブは最大で700万、普通は480万なわけですから、単に条件面だけを考えれば、選手は海外に行ってしまうと思うんです。ですので、そこの制度は見直していかないと。そうしないと、今後、外圧に負けて選手が仕方なくどんどん流出してしまって、日本代表クラスの選手が移籍金なしのフリートランスファーで出ていく、今の流れと一緒になっていく可能性があると思います。

城福――確かに移籍金については、特に高校から選手が海外に行く時に問題になっています。それから、選手の立場からすると、例えば「1年目、2年目にどうせ試合に出れないなら海外で武者修行するのも良いんじゃないか」という判断もあるかもしれません。結局、我々が考えるべきなのは、日本でプレーしても確実な成長曲線が描けると、若い選手たちに思わせなければならないということです。

現実的に海外から日本に戻ってきてもJクラブでレギュラーとしてプレーできていない選手もいるわけで、海外に行くのがすべて良いわけではないですからね。

城福――「日本でやればこれだけの成長が見込めるだろうけど、それでも海外に行こうか」と悩むのではなく、「日本でも18歳、19歳のうちは出場機会がないのであれば、海外に行けば語学の習得もできるし“海外組”というステータスもあるし、メディアにも取り上げられるから行こうか」という傾向が最近はあるような気がします。「サッカーをやるのは日本が良い。サッカーをやる条件も同程度だけど、それ以外はすべて海外のほうが優れている」という風潮ですよね。ですから現場としては、日本でやることによっても成長曲線が描ける点について、もっとインパクトを与えないといけないと思っています。

小澤――これはおそらくメディア側にも責任が求められる問題ですね。今はどうしても海外に行った選手はステータスが上がって、海外に行っているからすごい選手だと我々も捉えがちです。でも、その価値観を少し冷静に正常化させて見た上で、本当に今が海外に行くタイミングなのか、試合には出られるのかというところまで見極めた上で報道していかないと、選手がJリーグを見ることなく簡単に出て行ってしまう。例えば宇佐美貴史(バイエルン/ドイツ)などは、高校生時代にレアル・マドリーのスカウトが「今すぐにヨーロッパに来ても通用する」と言っていたほどの評価でした。本当にそれぐらいの選手ならある程度の年代になった時に海外に出て行って良いでしょうが、そうでなければ、やはりまずはJリーグでプレーした上で、育成の感謝として移籍金を残してくれるような形にしていかないと危ないと思います。

〈続く〉
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このインタビューは、7月31日にサッカージャーナリスト養成講座が主催したトークショー「日本サッカーをいかに育むべきか」の第一部の内容を『サッカーキング』掲載用に再構成したものです。

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取材協力: 下村 光 (サッカージャーナリスト養成講座 受講生)