会場には香ばしい匂いが立ち込めた(7日編集部撮影)

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2014年9月7日、秋恒例の「目黒のさんま祭り」が目黒駅前商店街(東京都品川区)、誕生八幡神社(同)周辺で開かれた。「さんまは目黒に限る!」のオチでお馴染みの古典落語「目黒のさんま」にちなんだ祭りで、地元商店街などが「目黒のよさ」と「さんまのよさ」を伝えるため1996年に始めた。今年で19回目となる。

祭りの目玉はなんといっても「焼きさんま無料配布」。岩手県宮古産の脂の乗ったさんまを和歌山県みなべ町産の備長炭でじっくり焼き、徳島県神山町産のすだち、栃木県那須塩原市直送の大根おろしを添えて提供される。例年6000匹程度のさんまが振る舞われるというが、NHKの報道によると今年は約7000匹だったという。

軽い気持ちで出かけてみたが・・・

この祭りに付きものとなっているのが「長蛇の列」。焼きさんま目当てに都内だけでなく他県からも人が大挙して押し寄せる。その様子はたびたびテレビや新聞、雑誌などで取り上げられているので、ご存じの方も多いかもしれない。

推定2万人から3万人もの人が列をつくり、焼きさんまを食べるまでの待ち時間も2時間、3時間はザラ、来場者の多い場合には5時間近くを要するという。

「そんなに美味しいさんまなら一口食べに行こう。今日は天気が悪いから並ぶこともないだろう」――朝9時頃、軽い気持ちで目黒を訪れた記者の目に飛び込んできたのは駅前から延々と続く行列だった。沿道には警官とたくさんの警備員、そして警察車両。想像を絶する数の人が整然と列をなす様は壮観だが、やけに物々しい。小雨がぱらつく中、老いも若きも傘を差しながら黙々と並んでいる。

目黒駅前から最後尾を目指して歩くと、隣の五反田駅近くまで来てしまった。距離にしておよそ1.5キロ、文字通り「長蛇の列」だ。そうこうしているうちにも最後尾は伸び続け、どんどん五反田駅へと近づいていく。

「一体いつになればさんまにありつけるのか」
「さんまは本当に食べられるのか」

最後尾にいた警備員に話を聞いてみると「分からない」とはっきりしない返答。「よくある質問リスト」なるものが書かれた紙を凝視しつつ「9時始まりなので…」(編注:実際は10時開始)とだけ伝えられた。どうやら現場の警備員さえ詳しいことを分かっていないらしい。「行列は毎年こんな感じですか」と質問すると「えぇ、まぁ」と苦笑しながら答えるのみだった。

一心不乱に立ち食い

列に並ぶことを諦めて目黒駅方面に戻ると、すでに焼きさんまの配布が始まっていた。来場者の持つ紙皿の上に焼きたてのさんま、すだち、大根おろしが流れ作業のように次々と載せられる。それらを受け取り次第、醤油、手ぬぐい、ティッシュケースが等間隔に置かれている「さんま食べ処」なる長テーブルに位置取り、一心不乱に立ち食いする。

配布が始まると、現場の係員はにわかに殺気立った。来場者案内の手際が悪かったのだろうか、「おい!!後ろ遅せぇよ!早くしろよ!」「何やってんだよ!」と係員が係員に対し怒号を上げる光景も。紙皿を持ちながら右往左往する来場者をスムーズに「さんま食べ処」まで送らなければならない。ある程度の人数が揃っているとはいえ係員も一苦労である。「美味しいさんまをみんなで食べる」ほのぼのとした祭りにあまり似つかわしくない様子だった。

その後、シャツに染みついた煙のニオイを気にしながら目黒駅へと戻った。

最初は「町内会のお祭りのよう」だったものがここまで大規模になったのはいつ頃なのか。

始まった頃の「さんま祭り」に訪れたという都内在住・40代男性は「東日本大震災後ではないか」と語る。当初は「焼きさんま配布」以外の、寄席などのイベント目当てに訪れる人も多く、行列ができることもあまりなかったという。しかし、じわじわと認知度が高まってきたところに、東日本大震災が発生。その後に状況は変わる。「被災地応援」「復興」でマスコミに紹介され始めると、「無料」という要素が醸し出すイベント感も相まって見る見るうちに来場者が増えていった。

品川経済新聞によると「朝6時の時点で既にたくさんの人が集まっていた」「昨年よりも来場者は増えている」という。果たして記者の見た最後尾の人々は無事焼きさんまを口にできたのだろうか。