――今回収録されている原曲の、1970年代当時を知らない今の若い人達に、どんな所を聴いて欲しいですか?

山崎:今、一つの歌が世の中を動かすことって、ほとんど無いよね。みんなそれぞれが自分の好きなものをヘッドホンで聴いてる。これを阿久先生は「点滴」と呼んでいた。「今の若者は、点滴で音楽を聴いている」ってね。昔、家の中で音楽が流れる物は、「お茶の間」にデンと置かれた一台のテレビ、ラジオそしてレコードプレーヤー。これらは、家族みんなで共有するものだった。父親が音楽を聴く時、否応無しに、お爺ちゃんも孫も同じ音楽を聴かされた。父親が演歌好きだったら、いつの間にか、子供もその演歌を口ずさめるようになったし、テレビのバラエティ番組も皆で一緒に見た。家族全員が知ってるギャグもいっぱいあった。年末のレコード大賞を受賞する曲は、その日本の1年を代表する歌だったし、誰でも知っていた。今、日本の家庭にそんな「お茶の間」はあるだろうか。一つの歌が世の中を動かしたり、リードしたりするようなことは、もはや無い。家族で共有できる歌さえ無いのだから。阿久さんが作ったこの当時の歌は、幼稚園児からお婆ちゃんまで知っていた。それは、みんなに受け入れられる要素があったからヒット曲となって日本中に広まった。人と人とが繋がっていた良い時代の日本が創り出したものと言えるね。

――最後に「歌鬼4」のアイディアを考えられていたらお聞かせ下さい。

山崎:(笑)。4作目なぁ…。いや、構想はありますよ。でも多分、そろそろ「歌鬼」の“4”じゃなくて“完”を考えてもいいんじゃないかな?という気はしてるんです。でも、そう言いながら、こういうのって売れたら続くんですよね。続けたくなる(笑)。“歌鬼3+α”とか“ダッシュ”とか“続”とかを作るか分からないけど。この「阿久悠トリビュート」が業界的にも世間の中でも知られるようになってきて、小説のシリーズものみたいな感じになってきたかなと。そうすると変化もつけたくなってくる。最終章はやっぱり一際大きい感動が必要でしょ?だけど、まだ最終章に行く前の盛り上がりが出来てない、それを今年は色々やってみようかなと思ってます。本当は去年が、阿久さんの三回忌が本来そういう時期だったんだけどね。

余談になるけど、このアルバムのレコーディング中はよく居眠りした、退屈だからじゃないよ(笑)プレイバックを聴いていると、ス〜っと心地よい眠りに入ってしまう。バラードだけじゃなくアップテンポの曲「狙いうち」でもね(笑)。人間の声だけで作っているってところに答えがありそうだね。例えば、お葬式でお経を聴いている時って必ず眠くなるでしょ?もっとわかり易いのが「子守唄」。これは絶対にア・カペラでしょ?お母さんがカラオケ付きで子守唄を歌ってくれた、って事はないでしょ?(笑)。このアルバムは結果的に「大人のための子守唄」になってる。サブタイトルを「よく眠れるCD」とか「不眠症に効くCD」にしてもいいくらい(笑)。このアルバムを聴いたら、きっと、色んな記憶がよみがえってくる。自分が一番輝いていた頃のね。そんな良い想い出に包まれて自分自身を癒せると思いますよ。問題は、途中で寝ちゃって、最後まで聴けないことかな(笑)。

「歌鬼3〜阿久悠×青春のハーモニー〜」特集