Photo Illustration by Leah Abucayan/CNN/Airbus/Getty

(CNN)毎朝目が覚めると、今日が最期の日になるかもしれないと思う。監房のドアのノックは、その時が来たという知らせかもしれない。別れの電話も、最後の食事もない。サウジアラビアでは何の予告もなく死刑が執行されることがある。

「私は歩く死人だ」「友人の死刑が執行されて以来、食事はせず、水も飲まない」

そう語るアマヌエルさん(仮名)は、サウジアラビア南西部にあるハミス・ムシャイト拘置所に何年も前から収容されている若い死刑囚。CNNは拘置所の内部からその証言を入手した。

人権団体によると、アマヌエルさんは、薬物関連の罪で死刑を言い渡され、同刑務所の一つの監房に収容されているエチオピア人約60人の中の1人。死刑囚は刑務所内の別の監房にもいるという。

「決して極端な例ではない」。人権団体リプリーブのマヤ・フォア代表はそう語る。「サウジ当局があからさまに弱い立場の移民を標的にするパターンがある。実は、より良い生活を求めて国境を越えたことが『犯罪』と見なされることも多いようだ」

CNNは、同じ境遇にある別の男性3人の親族からも話を聞いた。いずれも、死刑を言い渡されたことは何週間もたってから、エチオピア当局でもサウジ当局でもなく、人づてに聞いたと証言した。

NGOがまとめた記録によると、サウジアラビアでは昨年、ここ数年で最も多い計356人の死刑が執行された。うち240人は薬物犯罪で有罪判決を言い渡されており、大半が外国人だった。2年前の2023年にそうした死刑が執行されたのは、年間で2人のみだった。26年に入って死者を伴わない薬物犯罪で死刑が執行されたのは71人で、外国人の中ではエチオピア人が最も多かった。

人権団体で法務を担当するサウジアラビア人弁護士のタハ・ハッジ氏は言う。

「サウジアラビアの死刑裁判は常習的に、最低限の公正ささえも保証されない」「被告人には弁護人も適切な通訳もつかず、移民は手続きのことも理解しないまま有罪を言い渡され、死刑を宣告される。多くの場合、拷問による『自白』がその根拠となる」

「これは正義ではない。自分を守ることのできない人々に対して国家が振るう暴力だ」

死を招く仕事

アマヌエルさんはコロナ禍で内戦が続くエチオピアのティグライ州を離れ、イエメンで2年間足止めされた後、サウジアラビアへ渡ったと話す。同国では3カ月間、羊飼いの仕事をしていた。

それが終わるとサウジ国籍の雇い主から、別の仕事を持ちかけられた。物を運ぶ仕事だった。アマヌエルさんはあまり深く考えなかった。「仕事をくれた男性たちはサウジの人だったので、信用した」

数年前、配送中にアマヌエルさんの車から警察がハシシ(大麻)を発見し、アマヌエルさんは逮捕された。

「私たちは、ただ普通の物を運んでいるだけだと思っていた」

逮捕されたアマヌエルさんは、電気コードで殴られたり体を蹴られたりする暴行を受けたという。自分には読めない言葉で書かれた書類を突きつけられて署名を強要された。弁護士も、エチオピアの在サウジアラビア大使館職員も来てくれなかった。

法廷で行われた3回の審理のうち、通訳が付いたのは最後の1回のみ。裁判官が判決を読み上げただけで終わった。控訴はできないと告げられた。言い渡されたのは、死刑だった。

信仰を理由に迫害

キリスト教徒のアマヌエルさんは、迫害を恐れて十字架を身に着けるのをやめた。過去に十字架を理由に暴行されたこともあった。「私は後ろ手に縛られて殴られ、炎天下に3時間も放置された」。もう、信仰を表す行為はできなくなったとアマヌエルさんは言う。

同じ監房に収容されていたうちの4人は、自殺を図ろうとした。そのたびに、監房の仲間が止めに入って命を救った。

CNNは薬物関連の罪で拘置所に収容されている外国人についてサウジアラビアにコメントを求めているが、返答はなかった。

2週間前には、アマヌエルさんと同じ監房にいた死刑囚のうち5人の死刑が執行された。「最初に2人の名前が呼ばれ、次に5人が呼ばれた。最初の2人は戻ってきたが、残る5人は戻ってこなかった」

サウジ当局は声明の中で、アマヌエルさんら死刑囚について「共謀して王国へハシシを密輸しようとした…捜査の結果、罪に問われ、管轄の裁判所に起訴された…上訴を経て最高裁判所が支持したことで、判決が確定した」と発表。さらに「サウジアラビア王国は、薬物の害悪から国民や居住者の安全を守り、薬物の密輸や流通にかかわる者を法に定められた厳罰に処することに尽力している」と付け加えた。

アマヌエルさんはCNNにこう語った。「(死刑執行後)通りかかった看守と話をしたサウジアラビア人の収容者が、自分の首に指を当てる身ぶりで、何が起きたのかを私たちに教えてくれた。私たちは自分で家族に知らせなければならなかった」

しかしアマヌエルさんは自分の両親には、自分が死刑囚であることは知らせていない。「そのニュースのせいで両親を死なせたくない」。自分の過酷な境遇についてある程度知っているのは遠い親戚だけだといい、その親戚には「私のために祈ってほしい」とだけ伝えたという。

サウジを目指す危険な旅

アマヌエルさんと同じように、毎年何十万人もの移民がサウジアラビアを目指している。そのほとんどはエチオピア人で、干ばつや武力衝突に苦しむアフリカ北東部の最貧国を離れ、仕事を求めて移動する。二国間の労働協定に基づきエチオピア人はサウジアラビアで合法的に働くことが可能だが、依然として不法入国も後を絶たない。

国際移住機関(IOM)によると、移民はジブチを経由して船でバブエルマンデブ海峡やアデン湾を渡り、イエメンに入る。

このルートは危険が大きい。ある程度の資金があれば、密輸業者に金を払って夜間に車やトラックでジブチを横断する。そうでなければ過酷な暑さの中を200〜250キロも歩く。

CNNがティグライ州で取材した一家は、親族が身代金目当ての集団に拉致されて、解放と引き換えに借金を迫られたと証言した。

こうした借金から抜け出せなくなる移民も多い。エチオピアからの不法移民に詳しい専門家のスラフェル・ゲタフン氏によると、密輸業者への借金を返済するため、移民が脅されたり強要されたりしてハシシなどの薬物を運ぶこともあるという。

アマヌエルさんによると、先月にはエチオピアの外交官が拘置所を訪れて、判決の見直しを約束してくれたという。ただ、エチオピア政府は麻薬関連の罪に問われてサウジアラビアで拘置されている自国民について、正式な申し入れは行っていない。

今の自分にできるのは、何の予告もなく訪れるノックを待つことだけだとアマヌエルさんは言う。

「それがいつなのかは分からない。明日かもしれない」「ドアがノックされるたび、自分の順番かもしれないと感じる」