遺体が発見された女祈祷師・江藤幸子の自宅(1995年7月)

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【写真】緑豊かな町の平凡な民家が「惨劇の舞台」に

オウム事件の陰で

 社会がオウム真理教の黒い影に覆われていた1995年7月、福島県でカルト宗教絡みの異様な殺人事件が発覚した。女祈祷師から精神的に支配された信者が、おなじ信者を太鼓のバチで叩くなどして殺害。しかも死亡者は6人に上り、警察が踏み込んだ際はその腐乱死体とともに生活していたという「福島悪魔祓い殺人事件」である。

 人の不安や悩みにつけこみ、ついには心を乗っ取る。このやり口は現在も衰えず、むしろSNSなどによって広範囲で行われるようになり、多数の被害者を生んでいる。事件を報じた「週刊新潮」のバックナンバーからも、つい最近の事件に思えるような、ある種の普遍性を感じるだろう。国内外で不安の種が増える一方のいま、過去の事件から得る教訓は多い。

遺体が発見された女祈祷師・江藤幸子の自宅(1995年7月)

(全2回の第1回:以下、「週刊新潮」1995年7月20日号掲載記事を再編集・加筆しました。文中の年齢は事件発生当時のものです)

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得体の知れない“お祈り”

 底冷えのする今年の正月2日の夜10時過ぎ、須賀川市小作田に住む会社員(44)宅のチャイムが鳴った。

 会社員が玄関を開けると、冬だというのに半袖のTシャツにズボンだけで、靴もはいていない50がらみの男性がハァハァと息を切らせながら立っていたという。その男性は開口一番、「助けてください」と言い、

「いま江藤さんの家から逃げてきた。12、3人で集会をやっているんだが、怖くなって、トイレに行くふりをして逃げてきたんです。タクシーを呼んでください」

 と哀願した。

 チラチラと逃げてき方角を気にしながら、恐怖なのか、寒さなのかブルブルふるえ通しだった。会社員が下を見ると、その男性のズボンは明らかに失禁したようにぐっしょり濡れていたという。

 異様な光景に、「警察を呼ぼうか」と応じた会社員に、男性はそれを拒否して、呼んでもらったタクシーに乗って去っていったという。

 この男性はそれから6カ月後の7月5日朝、腐乱死体として発見されるAさん(49)だった。

 男性が言った“江藤さん”というのは、その家から200メートルほど離れたところに住んでいる女祈祷師、江藤幸子(47)のこと。かつては、ある化粧品のやり手のセールスレディとして鳴らしていたが、最近は「なにやら得体の知れない“お祈り”をやっている」(近所の住人)という噂のある家だったのである。

嘆くAさんの兄「ボロボロですよ」

「実はその翌日の正月3日、警察の方に家族の者が相談に行ったんです。でも、警察は全然相手にしてくれませんでした……」

 と嘆くのは、市内に住むAさんの実兄である。

「今更どうこう言っても仕方がありません。でも、あの時、もし警察が動いてくれていたら……。坂本弁護士の事件を見てもわかるが、警察は事件にならんと動かんのです。誰が先に(あの宗教に)入ったとか、誰が悪いのかとか、そんなことは言っても仕方がない。もう誰も帰ってこんのです。こんなことになって私らボロボロですよ……」

 実兄がこんな嘆きを漏らすのも無理はない。Aさん一家は、現場から同時に妻・Bさん(48)長女・Cさん(18)のあわせて3人が腐乱死体として発見されたのだ。しかも生き残った2人の子供たちはその祈祷師宅から何カ月間も学校に通っていたという。

 腐臭ただよう祈祷師宅から学校へ通うのも異様なら、そもそも正月に命からがら逃げ帰ったはずのAさんがなぜ、家族を連れてこの祈祷師の家へ帰って行ったのか、親戚や知人もただただ首をひねるばかりなのだ。

捜査官も呼吸ができないほどの臭い

 事件が起こった福島県須賀川市は、福島県中央部の中心都市・郡山市の南側に隣接する人口6万ほどの商業都市。市内には阿武隈川が流れ、郊外には豊かな田園地帯が広がるのどかな街である。

 江藤幸子の家は、市の中心部から東に5キロあまりの田園地帯にある。

 7月5日朝に発見された6遺体は、先のAさん一家の3人のほか、女性Dさん(45)、男性Eさん(43)、そして女性Fさん(27)の3人。いずれも女祈祷師・幸子の熱心な信者だった。

「1週間ほど前からカラスが集まり始めました。多いときは30羽ぐらいでしょうか。江藤さんの周りの家の屋根にとまって、じっと江藤さんの家の一点を見ているんです。気持悪かったですよ。なにか魚の腐ったような臭いがして、ドブが臭いのかと思ってドブさらいもやったんです。カラスには死臭だとわかっていたんですね……」

 とは、近所の住民。取材に当たっている地元記者もいう。

「現場は腐乱死体とミイラ化した遺体が1階8畳間に整然とふとんの中に横にされていた。体液がふとんや畳に沁み出し、ふすまを開けた途端、捜査官も呼吸ができないほどの臭いだったそうです。こんな家で何人もの人間が共同生活をおくり、しかも子供たちは学校に通っていたというんですから、さすがの捜査官たちも言葉を失っています」

 変り果てたDさんの亡骸に対面した知人がいう。

「あれが本当にDちゃんだったのか、私ら今でもわからんですよ。身長が160センチ以上あって太っていたDちゃんが、棺桶の中で身体を包帯でぐるぐる巻きにされて幅が20センチほどに縮んでいたんです。髪は抜け落ち、眉毛は白く、鼻はなくなっていた。顔の真ん中に穴があいているだけなんです(後略)」

事件を解くカギは「複雑な人間関係」

 凄惨極まりないこの事件発覚のきっかけは、殺された男性Eさんの妻・G(33)が“浄霊”と称して、太鼓のバチやら棍棒で殴る蹴るの暴行を受け、全治2カ月の重傷を負って入院したことだった。彼女の証言によって、須賀川署が傷害容疑で江藤宅に踏み込んだのである。

「その場で、江藤幸子と死んだ女性Dの夫・H(45)、そして元自衛官の男I(21)、最近嫁ぎ先から出戻ってきた幸子の長女・J(23)のあわせて4人を傷害容疑で逮捕したんです。Aさん夫妻の2人の娘とDさんとHの息子は“保護”されました」(同)

 この信者たちの人間関係を説明するのは少々、骨が折れる。捜査関係者によると、

「Aさんの妻・BさんとHの妻・Dさんは姉妹です。Bさんが最初に幸子の信者になり、あとを追ってDさんが入っていった。この地方ではこうした祈祷師が信じられる風潮があって両家も家族の健康問題がきっかけで、幸子に浄霊を受けにいくようになっている。“あなたには蛇がついている”とか“狐がついている”、あるいは“前世の因縁”と来るんですから、こういう迷信を信じやすい人にとっては恐怖ですよ。男性Eさんの家も同様だし、Eさんと職場で上司と部下の関係にあった女性Fさんも、誘われて同じように入っていったようです」

 そして、この複雑な“人間関係”こそが事件の謎を解く最大の鍵だったのである。

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「彼女はすぐ霊が降りやすいタイプなんだそうです」――。第2回【「あなたと私は恋愛関係になる運命」…信者6人の命を奪った「女祈祷師」の“色と欲” 暴力的な“御祓い”のきっかけは「21歳の元自衛官男性」】入るでは、江藤幸子の生い立ちやその後の裁判などについて伝える。

デイリー新潮編集部