推し活を楽しむ女性

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 貯金ゼロで定年まで10年を切った"推し活沼"にはまるアラフィフ女性からの相談。「老後に備えて“推し降り(推し活をやめること)”するべき?」――、この問いをFPにぶつけたら、どんな答えが返ってくるだろうか。「推し活予算を決めましょう」「遠征費はLCCで節約を」といった、手堅いアドバイスが来るかと思いきや……、FP・山口京子さんは「推し活、何が悪い?一生推せばいいんです」と言う。

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推し活の「沼」はこんなに深い

推し活にかける諸経費はもちろん笑顔で“お布施”です。でも最近ちょっと、やっと将来が不安になってきて」

推し活を楽しむ女性

 そう話すのは東京都内の実家で親と暮らす会社員、真弓さん(52歳、仮名)だ。男性アイドルグループ・timelesz(タイムレス)にはまる彼女は、secondz(セカンズ= timeleszファンの呼称)として推し活にいそしんでいた。また、ほかに数人の男性アーティストも推していた。それぞれのファンクラブ年会費は4,000円〜5,000円ほどで、コンサートチケット代は1公演1万円程度。ペンライトや顔写真入りうちわなどの応援グッズ代が1万〜2万円。国内開催のライブにはすべて応募し、当選すれば国内のどこでもかけつける。遠方ともなれば出費は一気に跳ね上がる。チケット代とグッズ代に往復の航空券3万〜6万円、ホテル1万〜3万円が加わり、1公演で軽く10万円を超えることも。それを年に8〜10回ほどこなす。

 旧ジャニーズのSTARTO ENTERTAINMENT系、K-POP、宝塚……ライブや公演参加が中心となる推し活では1回の「遠征」で5万〜15万円が飛ぶ真弓さんのようなケースは珍しくない。SNSでは「推し活のために貯金ゼロ」「遠征後はもやし生活」という投稿がバズり、“推し活疲れ”や“推し活格差”という言葉も生まれた。「このままで将来、大丈夫なのか」という不安が、多くの推し活民を悩ませている。

「ファン同士で推しへの熱量を競い合うような空気もあり、同じ公演に何度も足を運ぶ『積み』や、全国ツアーの全会場を回る『全通』に挑戦する人も少なくありません。ランダム封入のグッズも、気が付けばコンプリートを目指してしまう。出費に際限がなくなりがちで、正直、ついていくのがしんどくなってきた部分はあります」

 月の手取り30万円ほどで働く真弓さんだが、気づけば、老後のための貯金はほぼゼロ。

「定年まであと10年ほど。親が亡くなったあと、相続税が払えるかどうかも心配。そろそろオタクは卒業しなきゃダメかなと思い始めました」

FPの助言:「老後は年金と貯金だけ」の思いこみを捨てよ

 多くのFPならここで「推し活の予算を月いくらと制限して、残りを積み立てましょう」と答えるだろう。だが、山口さんの答えは、まるで違った。

「老後収入は年金だけ、足りない分を若いころからの貯蓄や投資で補わなくては……、そんなマインドセットをまず解きましょう! 老後も長く働き続ける、そんな気持ちを持ってみませんか? そうすれば、今の生活をもっと楽しめて、老後も充実したものになるはず。私の両親は92歳まで現役でガソリンスタンドで働いていましたよ。とくに真弓さんはずっと会社勤めですから、年金もそれなりにもらえるはず。働きながら年金を受け取る場合、収入によっては厚生年金の一部が調整されることもありますが、『働く』という可能性があるだけで、推し活も続けやすくなります。 住まいも、実家に住み続ける、あるいは売って地方に住み替えるという選択肢もあります。推し活、存分に楽しんで!」

 老後に備える最大の“資産”として山口さんが挙げるのは、意外にも「筋肉」だ。

推し活人生を続けるには、長く働かなくてはなりません。となると、必要になるのは健康な体です。定期健診やがん検診をきちんと受けて、病気の早期発見、早期治療を心がけましょう。それから、健康体であっても80歳を過ぎると膝と腰が悲鳴を上げますから、今から少しずつ鍛えておくことも大切です。日々、エスカレーターではなく階段を使う。1駅ぶん歩いてみる。そうやって、“貯金”ならぬ“貯筋”をするんです」

 また、老後で重要になるのが「人的資産」だと山口さんは強調する。一人暮らしになって動けなくなったとき、誰かがふらっと様子を見に来てくれる関係があるかどうか。ゴミ出しや買い物を手伝ってくれる親族やご近所がいるかどうか。

「お金があれば人を雇える、と思うかもしれません。でも、そこに付随する人間関係が人生の質を変えるんです。私の義母が体調を崩したときも、お隣さんが『大丈夫?』と茹で卵を届けてくれたり、姪がパンを持ってきて『すぐ元気になるからね』と励ましてくれたりした。その人間関係が、どんな高額サービスよりも回復の力になったといいます」

 推し活は、生きがいであり、健康の源であり、人とのつながりを生む。推し活は健康寿命を延ばすためになるべく続けるのがおすすめ、というわけだ。

それでも「数字」が気になる人への処方箋

 金銭面が心配な人に向けた具体的なアドバイスも添えてくれた。

「老後に向けて不安が募っているときにまずすべきは、ゆくゆくかかりそうな出費の金額を確認することです。たとえば相続税が心配なら、どのくらいの相続税がかかりそうなのか一度税理士に相談してみましょう。そもそも相続税にはさまざまな非課税枠があり、実際に亡くなられた人の相続税がかかる割合は全国平均で10%程度です」

 例えば、真弓さん家族は両親と兄が1人いる。法定相続人が3人で基本的な基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)は4,800万円ある。さらに一次相続(両親の一方が亡くなった場合)では配偶者に最大1億6,000万円の配偶者控除がある。実家も330平方メートルまでは、80%も割り引いて評価してくれるので、相続税を心配する必要はないケースが多い。「相続税がかかるかどうかを一度ちゃんと調べてから心配しましょう」と山口さんはいう。

 老後の収入、年金についても同様だ。自分がどのくらい年金をもらえるか、それを知らずして老後の資産設計はできない。

「なるべく正確な金額が知りたい場合は、日本年金機構の“ねんきんネット”にアクセスしてみましょう。自分の現在の加入条件が65歳まで続くと仮定した場合の見込額や繰上げ・繰下げ受給した場合の金額が試算できます」

 ねんきんネットで自分の年金情報を確認するには、マイナンバーカードとスマホを使って「マイナポータル」と「ねんきんネット」を紐づけするひと手間が必要だ。それが面倒で、概算だけでも知りたい場合は、厚生労働省の「公的年金シミュレーター」などを使う手もある。

年金の範囲内で暮らせそうなら、今の人生を楽しみましょう。年金が少ない人やインフレが心配な人は、収入の一部を長期積立投資に回しましょう」

 実は山口さんは長期積立投資を10年以上前から推奨しており、その考えを著書『お金も人生も薔薇色!老後計画』(主婦と生活社)などで詳しく紹介している。

「私たちはお金に人生を合わせる(制限する)こともできるし、自分の理想にお金を合わせる(増やす)こともできる。後者の場合、理想と現実のギャップを埋めるのが投資や長く働くことです。どちらを選ぶかは、自分次第です。推しもなく、爪に火をともしながらお金をためて老後を迎えるのか、ワクワクしながら推し活を堪能し老後も働き続けるのか…、あなたならどちらを選びますか?」

※プライバシー保護のため、記事中の事例は、具体的な状況の一部を変更しています。

今回のアドバイザー/山口京子(やまぐち・きょうこ)さん
1966年名古屋生まれ。金城学院大学卒業。大学在学中から、テレビ・ラジオに出演。2000年にファイナンシャルプランナーの資格を取得。のべ2,500組以上の家計相談を受け、お金と人生の悩みを解決に向けてサポートしてきた。また、家計管理、貯蓄・資産運用のプロとして、金融庁、証券業協会、東京証券取引所の講演会にも出演。2024年には、「KOKUSAIには愛があるプロジェクト in あいち」のメインキャラクターに。『お金も人生も薔薇色!老後計画』(主婦と生活社)など著書多数。

取材・文/鷺島鈴香

デイリー新潮編集部