国内患者数は推計471万人といわれる認知症。予備軍である軽度認知障害(MCI)も合わせると、その数なんと1000万人超。高齢化とともに増加の一途を辿り、2030年の経済損失は約9兆円とも試算される。患者本人のみならず、家族に、社会に多大な負担を強いる認知症への対策は喫緊の課題だ。そこで、「週刊文春」記者が認知症治療のエキスパート、金町駅前脳神経内科の内野勝行院長に弟子入り。誤解と偏見を改め、認知症を予防できるか……?

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 49歳・オジ記者に内野先生が認知症予防をレクチャーする「週刊文春」の人気連載「1万人を診た専門医が解説 49歳からの認知症予防」。その第1回を無料公開する。

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Q はじめまして。三度のメシよりスイーツが好き、49歳、オジ記者です。

 院長、早速ですが、認知症は70歳を過ぎたあたりから増えるそうですね。ということは、高齢者になってから対策を始めれば十分ですよね?

A バカヤロー! そんな脳天気だと認知症へまっしぐらだゾ!

Q まあまあ院長、そう熱くならないで。シュークリームより自分に甘いのがオジ記者のいいところ。だけど、認知症ってお年寄りの病気でしょ? 日本の人口の3割が65歳以上の高齢者だけど、65歳以上の8人に1人(約12%)が認知症で、予備軍まで含めると3人に1人なんですよね。やっぱり、高齢者がなるものじゃないですか。

A 待て待て。こっちは脳神経内科の認知症外来専門医だゾ? 開院以来、1万人以上の認知症患者やその予備軍を診察してきた。そこで気づいたのは、大半の方は認知症予防を始める時期について大きな誤解をしていることだ。

Q オイラには5階も6階もないですよ。じゃあ一体いつから認知症予防を始めればいいんですか?

A 40〜50代だ。

Q え? 本当? お願いだからウソだと言って!

A 興奮するな、また血圧上がるゾ(笑)。

Q だってとてもじゃないけど、納得できないんです。

A オジ記者にわかるように解説しよう。まず、この連載では、日本の認知症患者の7割を占める、アルツハイマー型認知症について取り上げるよ。

Q いわゆる物忘れから始まって徐々に進行して、重くなると、徘徊や暴言、暴力に悩まされるご家族も少なくないですよね。

A うん。そのアルツハイマー型認知症の大きな原因が、脳内に蓄積される「アミロイドβ」なんだ。

“脳のゴミ”が溜まっていく

Q アミロイド? そういえば最近スマホの調子が悪くて、買い替え時かなあ。

A おバカ! そりゃ、アンドロイドだろ! アミロイドβは、“脳のゴミ”とも呼ばれる有害なタンパク質の一種だ。ゴミと同じで、どんどん溜まると、次第によくないことが起きる。

Q 脳にゴミが溜まっていたなんて……。

A 溜まったゴミが固まると、顕微鏡で見た時に無数のシミのように見える。これを「老人斑」と呼ぶんだ。

Q 老人斑? 赤ちゃんのお尻にできる青いあざ?

A それは蒙古斑! こうして過剰に蓄積したアミロイドβによって脳の神経細胞が破壊され、脳が徐々に萎縮していく。

Q 認知症って、脳が萎縮することだったんだ。


画像はイメージ ©︎Aflo

A そう。近年、アミロイドβは20〜30年かけて蓄積することが判明したんだ。つまり、認知症の発症が70〜80代に多いということは、脳の萎縮は40〜50代にはすでに始まっているって話なの。

Q ええ! オイラの脳、もう萎縮してるってこと?

A 落ち着けって。物忘れで生活に支障を来したりしていないでしょう? つまり、いまならまだ間に合う。

Q もう、驚かせないで!

A いまならまだ間に合うけど、いまがラストチャンスでもある。

Q そんなあ。

A 高齢者になって認知症を自覚した人の多くは、すでに脳内に多量のアミロイドβが蓄積している場合が多い。こうなってはもう、予防どころではない。進行を遅らせることしかできないんだ。だからこそ、認知症予防を始めるなら、49歳のいましかない。

Q そんなにオジさんを虐めないで……。

A おい、耳を塞ぐな。認知機能が落ちていくゾ(笑)。

血管の老化をいかに防ぐか

Q それはイヤ! でも、やっぱり40代から認知症対策って早過ぎないかなあ。

A 昨年11月の英国の最新研究は興味深い報告を行っている。ケンブリッジ大学の発表では、人間の脳には四つの劇的な転換点があることが明らかになった。研究チームが0歳から90歳までの約4200人の脳のMRIデータを解析したところ、9歳、32歳、66歳、83歳の四つの年齢で、脳のネットワーク構造が大きく変わることが判明したんだ。この四つの年齢を境に、脳の発達や老化の方向性が切り替わっていくんだよ。

Q オイラの脳ミソは永遠の14歳!

A それ中二病だろ! 大人になりなさい!

Q 四つの転換点って、脳に何が起こるの?

脳に起きる“4つの変化”

A 誕生から9歳までの児童期に認知能力が急速に発達する。最初の転換点である9歳から、32歳までに脳の成長が最高潮に達する。次の転換点は32歳。ここから66歳までの34年間で脳は成長期から成熟期へ移行する。同時に、脳の情報伝達機能は徐々に低下してゆく。

Q オイラ、今朝何食べたかも覚えてないから、すでに低下している気がするのですが……。

A うちで検査しようか。

Q また今度お願いします。次の転換点は?

A 66歳。これ以降、83歳までに脳の情報伝達機能が急速に衰え、MCIや認知症を発症する人が増えてゆく。最後の重要な転換点なんだ。

Q あらら。66歳だとすでに高齢者ですよね?

A そう。しかも、60代以降は、高血圧や糖尿病、脂質異常症など、中年期から患っている生活習慣病が祟って、がんや脳血管疾患などの疾病の発症率が急激に上がる。生活習慣病が認知症のリスクになっていることは知っているよね?

Q もちろん。なんせオイラの体、生活習慣病の総合デパート状態ですから。

A ドヤらないの。東京医科大学の研究チームが113人の患者を分析したところ、アルツハイマー型認知症の48%が脂質異常症、42%が高血圧、19%が糖尿病を合併していたんだ。生活習慣病は血をドロドロにして脳の血流を悪化させるため、アミロイドβが溜まりやすいという実験データもある。脳内に何十年もかけて溜め込まれたゴミは、完全に掃除するのは難しいんだ。だから、アルツハイマー型認知症を発症しやすくなる。

Q 自宅がゴミ屋敷なのに、脳内までゴミだらけ?

A だからこそ、49歳のいまから、血管を老化させる生活習慣の改善に取り組むべきなんだ。認知症予防において、大切なのは血管の老化を防ぐこと。オジ記者のような肥満の人は、認知症の発症の準備をしているようなもの。かなりハイリスクだ。

Q 今まで元気に太っていたのに! ひどくない?

A 4、50代が認知症予防のラストチャンスと心得よう。具体的な方策は次回。

Q なんだか頭使いそうだなあ。メロンパン食べながら聞いてもいいですか?

A ダメ、絶対!

イラスト=ポートレーターmiki

◆内野勝行院長/埼玉県育ちながら、チャキチャキ江戸っ子マインドの脳神経内科医。2015年に「金町駅前脳神経内科」を開院以来、認知症や認知症予備軍(MCI)患者のべ1万人以上を診察。認知症外来専門医として認知症治療だけでなく認知症予防にも注力。患者を思うあまり、時々つい口が悪くなる。
 

◆オジ記者/取材の合間の別腹スイーツが至福。肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症の生活習慣病に絶賛罹患中の49歳。最近、好きな芸能人や映画のタイトルすら思い出せず、50代を前に危機感を募らせている。

降圧剤は何歳までに卒業すべき? “認知症治療のエキスパート”が解説する「認知症と高血圧の関係」〉へ続く

(内野 勝行,「週刊文春」編集部/週刊文春 2026年3月26日号)