ウクライナへのF-16戦闘機の引き渡しが進み、フランス製戦闘機の供与も決まるなか、スウェーデン生まれの「グリペン」戦闘機まで供与されるかもしれません。じつは同機の方が、F-16よりもウクライナに向いていると言えそうです。

スウェーデン空軍でも戦闘機の更新計画が進行中

 ロシアの侵攻に2年半以上、抗い続けているウクライナ。なかでも空軍は、西側諸国の支援を受け、その戦力強化を急務としています。

 すでにオランダ、ベルギー、ノルウェー、デンマークからアメリカ製のF-16「ファイティングファルコン」戦闘機の供与が始まっており、フランス製「ミラージュ2000」の供与も決まるなど、ヨーロッパ諸国からの支援は活発化しています。こうした状況下で、さらにスウェーデンが自国の主力戦闘機であるJAS39「グリペン」の供与を強く働きかけていることは、注目に値すると言えるでしょう。


スウェーデン空軍のJAS39「グリペン」戦闘機(画像:サーブ)。

 スウェーデン空軍は2024年現在、近代化改修型の「グリペンC」とその複座練習機型「グリペンD」を合計97機保有していますが、2030年までに機数を120機まで拡張するとともに、うち半数を新型の「グリペンE」へと更新する予定です。これに伴い、陳腐化した「グリペンC/D」が37機、余剰機になる計算なので、それらをウクライナへ引き渡そうという計画だと推察されます。

 すでに、スウェーデンはウクライナに対して自国空軍を退役するS100D早期警戒機を供与することを決めています。この早期警戒機は、「グリペン」と連携することで、その性能を最大限に引き出すことができます。両機を組み合わせることで、ウクライナ空軍は、より広範囲かつ高精度な情報収集、目標捕捉、および攻撃が可能となるでしょう。

 また「グリペン」には、「タウルス」巡航ミサイルをはじめとする各種誘導弾を用いれば、F-16と同等レベルの優れた精密攻撃を行うことも可能な性能が付与されているほか、英仏独伊が共同開発した長射程空対空ミサイル「ミーティア」の運用も可能です。

「ミーティア」は、F-16の主力空対空ミサイルである「アムラーム」と比較して、さらに長射程なミサイルであることから、現代の空戦において非常に有効な武器になることは間違いないでしょう。「グリペン」は「ミーティア」を搭載できるという点で、F-16を上回る高性能を持つといっても過言ではないでしょう。

「グリペン」供与でウクライナには別の悩みが

 ウクライナ空軍は、自軍の飛行場がロシア軍の継続的な攻撃を受け続けるなか、各地へ戦闘機を分散配備し頻繁に移動することで破壊を免れていると推測されます。こうした運用方法は「グリペン」が最も得意とするところであり、整備が行き届いていない臨時飛行場での分散配備や厳しい冬季における運用にも強いという大きな特徴を有します。

「グリペン」は、短距離離着陸(STOL)能力に優れ、かつわずかな人員と最低限の支援機材しか必要とせず、整備性にも優れていることから、状態の悪い滑走路や駐機場を使用する場合は、そのメリットを十分に発揮する可能性が高いでしょう。


スウェーデン空軍のJAS39「グリペン」戦闘機。写真はふたり乗り仕様のD型(画像:サーブ)。

 2024年10月現在は、F-16の運用が始まってまだ間もない時期であるため、当面は同国空軍もF-16の導入に注力すると思われます。しかし、スウェーデンによるウクライナへの軍事支援パッケージには、すでに「グリペン」用の新しい「資材キット」の購入費が含まれており、時期を見て両国が「グリペン」の引き渡しに合意する可能性は極めて高いはずです。

 仮にウクライナ空軍への「グリペン」引き渡しが決定した場合、ウクライナ空軍の保有機は既存のMiG-29「フルクラム」、Su-25「フロッグフット」、Su-24「フェンサー」、Su-27「フランカー」、F-16、導入が決定している「ミラージュ2000」、それらに加えて「グリペン」が加わるため、東西の戦闘機が勢揃いする形になります。

 ただ、多数の機種を同時運用するには、それぞれ違うパーツが必要となりますから、能力を維持し続けるためには、ウクライナ空軍が複雑なサプライチェーンを構築できるか、今度はその部分が課題になるでしょう。運用機種の増加は、ウクライナにとって今後、無視できない課題になるかもしれません。