今回レビューする「LG gram 16 16Z90Q」(以下、16Z90Q)は、16型ディスプレイを採用するクラムシェルスタイルのノートPCだ。価格は各Webストアで260,000円前後となっているが、Amazon.co.jpでは210,000円前後で販売されていることもある(記事制作時点)。

この製品における最大の特徴は、大画面ディスプレイを搭載しながらも本体の重さが1kg“ちょっと”という、大画面と薄型軽量といった本来相反する仕様を両立させている点にある。

16型ディスプレイを採用しているのに1kgちょっとの軽さ「LG gram 16」をレビュー

個人的な話で恐縮だが、筆者は3年前に「LG gram 17Z990」をレビューする機会を得ていた【「LG gram 17Z990」レビュー - まったくもってとんでもないモバイルノートPC】。そのときの記事で、冒頭から「これがまた『とんでもない』製品」と紹介していたが、その“とんでもなさ”は今回取り上げる2022年モデル「16Z90Q」でも健在だった。

では、なにがどう“とんでもない”のか。そして、17型ディスプレイ搭載のLG gramと16型ディスプレイ搭載LG gramで使い勝手に違いはあるのか。この記事で検証していく。

大画面16型なのにコンパクト、使い心地は?

やはり、まず気になるのが大画面ディスプレイを搭載した本体のサイズと重さの関係だ。特に、本体サイズの微妙な違いは意外なところでモバイルノートPCとしての使い勝手に影響してくる。16Z90Qの本体サイズは、W354.4×D242.1×H16.8mmだ。

本体カラーは落ち着いたオブシディアンブラック

16型の大型サイズながら、なんと本体の重さはカタログスペックで1,199g、評価機実測では1,174gにとどまっている。見た目、特にフットプリントの大きさから受ける印象では、もう少し重そうに見えるため、いざ持ってみると数字以上にかなり軽く感じる。

本体の重さは実測で1,174g

同世代のLG gramで17.3型ディスプレイを搭載した「LG gram 17Z90Q」と比べると、16型モデルのフットプリントは24.4mm、奥行きで16.7mmコンパクトになっている。これをわずか約2cm前後の差と侮ることなかれ。この2cm差のおかげで“オサレなカフェのオサレな丸テーブル”でも、ショートサイズのマグカップと共存することが可能なのだ。

ただ、注意したいのは17型ディスプレイ搭載シリーズと同様、収納できるバックを選ぶことだ。幅も奥行きもコンパクトになったおかげで、収容できる容積が大きい頑丈な(それゆえに重い)遠出用リュックだけでなく、17型モデルでは幅がありすぎて口から飛び出してしまった軽量なザックでも“何とか”収めることはできる。

ただし、ザックの開口部までキッチキチに詰まってしまうため、衝撃が加わると薄い布地を通して直接本体に伝わってしまう。そう思うと、やはり多少大きめのリュックで持ち歩いたほうが、精神衛生上よかったことを告白しておかざるを得ない。

ディスプレイは最大開度で約135度

ちなみに、LG gram開発陣のために言及しておくと、同社では衝撃・落下、振動、高温、低温、低圧(高度)、砂塵、塩水噴霧の7項目に関して米国防省策定のMIL-STD-810Gに準拠した内容で製品出荷時試験の実施をアピールし、十分に高い堅牢性を訴求している。

テスト内容についても衝撃・落下テストでは衝撃波形20Gを6方向で各3回実施、振動テストは10〜500Hzを3方向で各1時間、砂塵テストでは砂塵を風速8.9m/sで12時間吹き付け、塩水噴霧テストでは塩水噴霧24時間、乾燥24時間実施後、腐食についても検査したとのことだ。

大画面で非光沢のディスプレイは文句なしに快適

本機で搭載する16型ディスプレイは、縦方向の情報量が多い16:10で、解像度は2,560×1,600ドット。縦方向に見通しがよく、文章作成作業はとても快適に行える。一方、サイズに制約のあるノートPCでは解像度を高くすると、表示されるフォントのサイズが細かくなり、目の疲労が増すことがある。これを回避するためには、スケーリング設定を150%など高めに設定することになるが、そうなるとせっかくの高解像度表示が無駄になってしまう。

しかし、16型という大画面ディスプレイなら、等倍表示でも十分なフォントの表示サイズを確保できる。実際に表示サイズを100%に設定しても、文字の識別に問題はなかった。長時間の作業になるとやや見づらくなるかもしれないが、それでも表示サイズ125%まで引き上げれば問題ない。

色域はDCI-P3を99%カバー。画面輝度は最大で350nit

また、高解像度設定の大画面ディスプレイひとつで全てこなす作業環境の場合、ウインドウを多数開いてディスプレイいっぱいに配置し、すみからすみまで視線を巡らすことも少なくない。このような場合、ディスプレイの周辺では視線の角度が浅くなり、光沢パネルでは映り込みがひどくなる。

3年前の17型モデルのレビュー記事では「映り込みが気になるのは否めません」と書いたが、一方、今回レビューしている2022年モデルでは非光沢タイプに変更されており、ディスプレイに周りの光が映り込むことはほとんどない。そのおかげか、16Z90Qでの作業はいつにもまして快適だったように思う。

タイピングの感触は個性的だけど問題なし

キーボードのサイズは、幅19.05×高さ18.5mm(キートップサイズは実測で15mm)を確保している。カーソルキーは周囲から独立しているが、キートップのボトムは周辺のキーと同じラインでそろっている。また、Enterキーの右には同じ間隔でテンキーが配置されているので、慣れていないユーザーはしばらくEnterキーをタイプするときにミスタイプが気になりそうだ。

電源ボタンはテンキーの右上隅にあって他のキーと異なり引っ込んでいるので識別しやすい

バックライトLEDを組み込んで暗所でのタイプも問題ない

キーストロークは、カタログスペックで1.65±0.2mmとされている。薄型ノートPCの数値としては深めだが、視覚的には浅く見えるので意外に思うかもしれない。タイプした感触は独特で、押し切る直前に「カチッ!」というかなり明瞭な音とスイッチのような明確なクリック感がある。ただ押し返してくる力も十分にあるので、軽めではあるがタイプしていることを十分に感じさせる。総じて快適で使いやすい。

カチッというかなり明瞭で独特なタイプ感がある

本体に搭載するインタフェースには、2基のThunderbolt 4(USB 4.0 Gen2 Type-C)と、2基のUSB 3.0 Gen2x1 Type-Aを備えるほか、HDMI出力、microSD、ヘッドホン&マイクロ端子を用意する。無線インタフェースとしては、Wi-Fi 6とBluetooth 5.1が利用できる。

左側面にはHDMI出力と2基のThunderbolt 4、ヘッドホン&マイクコンボ端子を備えている

右側面にはmicroSDスロットに2基のUSB 3.0 Gen2x1 Type-Aを搭載する

正面

背面

モバイルノートPCで重要性が増しているセキュリティ機能としては、「LG Glance by Mirametrix」が利用できる。これは離席時の自動画面ロック機能に対応するだけでなく、ユーザーの目線やユーザーの周囲の映像をチェックして、画面を見ていないときには画面にぼかしを入れたり、背後に人がいるときは画面上に警告を表示したりすることが可能だ。

また、ユーザーインタフェースとしても、目線の動きに合わせて作業中のアプリケーションやマウスポインタを自動でディスプレイに移動する機能をサポートしている。

フルHDに対応した内蔵カメラ。顔認証用の赤外線カメラも内蔵する

処理能力をチェック

CPUには第12世代Intel Coreプロセッサーの「Core i7-1260P」を搭載している。Core i7-1260Pは処理能力優先のPerformance-cores(P-core)を4基、省電力を重視したEfficient-cores(E-core)を8基組み込んでいる。

P-coreはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては16スレッドを処理できる。動作クロックはベースクロックでP-coreが2.1GHz、E-Coreが1.5GHz、ターボ・ブースト利用時の最大周波数はP-coreで4.7GHz、E-Coreで3.3GHzまで上昇。Intel Smart Cache容量は合計で18MB。TDPはベースで45W、最大で64Wとなる。

16型モデルにはGeForce RTX 2050搭載モデルもラインアップされているが、今回の試用機ではグラフィックス処理にCPU統合のIris Xe Graphicsを利用する。演算ユニットは96基で動作クロックは1.4GHz。

CPU-ZでCore i7-1260Pの仕様情報を確認する

GPU-ZでIris Xe Graphicsの仕様情報を確認する

16Z90Qの処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、試用機のシステムメモリはLPDDR5-5200を採用していた。容量は16GBで、ユーザーによる増設はできない。ストレージは容量1TBのSSDで試用機にはSamsung製「MZVL21T0HCLR」を搭載していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 4.0 x4)。

Core i7-1260Pを搭載した16Z90Qの処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。

なお、比較対象としてCPUにCore i7-1165G7(4コア8スレッド、動作クロック2.8GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量12MB、統合グラフィックスコア Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。

第11世代Coreプロセッサを載せた比較対象ノートPCと比べて高いスコアを出しているが、その数値はCore i7-1260P搭載モデルとしては若干控えめだ。特にPCMark 10 Digital Content Creation、3DMark Night Raid、FFXIV:漆黒のヴィランズといった、グラフィックス周りの処理能力を評価するベンチマークテストのスコアはやや振るわない。一方で、ストレージの転送速度を測るCrystalDiskMark 8.0.4 x64は、接続するインタフェース規格のおかげもあって高いスコアをマークした。

高負荷時は底面が熱い。動作音はとても静か

16Z90Qのバッテリー駆動時間は、公式データにおいてJEITA 2.0の測定条件で最大22時間となっている。内蔵するバッテリーの容量はPCMark 10のSystem informationで検出した値で80,000mAhだった。

バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life Benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは13時間55分(Performance 6425)となった。ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定している。

ところで、16Z90Qの薄くて軽量なボディは内部から発生した熱がボディ表面に伝わりやすい印象がある。そうなると本体の発熱やクーラーファンの発する音量が気になるところだ。

そこで電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。

ホームポジションキートップとパームレストの表面温度では、Fキーで40度を超しておりJキーも体温を上回っている。底面では、スリット中央奥周辺が最も温度の高いところで47度台に迫り、低温やけどのリスクがあるレベルだ。

一方で、ファンが発する音量は電源プランをパフォーマンス優先にしていても小さい。ファンが回っている「フーン」という音は聞こえるものの耳障りではなく、静かな図書館やカフェなどでも気にならないだろう。

底面で最も温度が高かったのは奥側中央で、47度台に達した

ディスプレイのヒンジの奥に排熱用スリットを備える

大画面・薄型軽量の両立で唯一無二の存在感

ノートPCにとって大画面は作業効率を高め、薄型軽量は持ちやすさを高め、長時間バッテリー駆動は安心感を高める。モバイルノートPCにとって重要なこれらの項目は、残念なことに両立が難しい三者でもあった。

LG gramシリーズはこの難しいバランスの問題を一挙に解決しており、特に大画面を必要とするモバイルノートPCユーザーにとって唯一無二の存在となっている。16Z90Qは「大画面の作業環境を一杯の珈琲と共にカフェで享受したい」ユーザーにとって、とても気になるモデルになるだろう。