未確認飛行物体、いわゆるUFOには葉巻型や円盤型など様々な種類があります。一方、飛行機も垂直離着陸機を開発するなかで、色々な形状の機体が研究され、そのなかには円盤型飛行機もありました。

「フライングソーサー」というより「フライングドーナツ」

 2020年4月27日(月)、アメリカ国防総省は、機密指定が解除された「未確認飛行物体」、いわゆるUFOが映った動画を3本公開しました。これらは世界中で話題になり、日本においても翌28日、河野太郎防衛大臣が記者会見において、自衛隊の航空機などがUFOに遭遇した際の手順を定める必要があるとの考えを示しています。

 しかし実は、アメリカ自身が1950年代後半に「空飛ぶ円盤」の開発を行っていました。


VZ-9AVの俯瞰写真。アメリカ陸軍と空軍の両者から資金援助を受けたため、「アーミー」と「エアフォース」の両方の名称が記されている(画像:アメリカ空軍)。

 1950年代、滑走路を必要としないVTOL(垂直離着陸)可能な飛行機の開発が各国で盛んになりました。様々な構造のものが計画されるなか、カナダのアブロが計画したVTOL機は一風変わっていました。

 アブロの計画案は、胴体が主翼を兼ね、垂直尾翼などのない全翼機構造のものでした。エンジンは機体中央に内蔵され、操縦席はその直後、やはり機体中央にあるという構造でした。

 1952(昭和27)年、アブロのVTOL計画案にカナダ政府が乗り、国家予算を付けますが、開発資金が想定以上に高額になったことで計画中止になります。そこでアブロは隣国のアメリカに目を付けます。

 当時アメリカでは、軍がVTOL機の開発に積極的で、研究に名乗りを上げればとりあえず国防予算が付くような状況でした。アメリカ軍としては玉石混交状態の各種VTOLプロジェクトのなかから、少数でもモノになるものが出ればよいという考えだったようで、逆にいえば何が成功するかわからないから、とりあえず開発に手を挙げたところには、すべてツバを付けておこうという魂胆だったようです。

アメリカ空軍が手を引くも同陸軍で開発継続のワケ

 アブロは、アメリカ空軍の協力を取り付けることに成功し、1955(昭和30)年から全翼型VTOL戦闘機の開発を始めます。

 開発を進めるなかで、アブロのVTOL戦闘機は、全翼機から円盤機に形状が変わっていきます。しかし研究の結果、様々な問題点が露呈し、アブロのコンセプトでは実現性に乏しいことが判明したため、1958(昭和33)年に開発中止となりました。

 それでも、今度はアメリカ空軍の代わりにアメリカ陸軍が興味を示します。高高度を高速で飛行するのではなく、低高度を低速で飛行するのであれば、実現性はかなり高まります。アメリカ陸軍はこの円盤機に対し、ヘリコプターと違ってローター(回転翼)がないため、超低空を飛行するのに適していると考えたようでした。

 アメリカ陸軍のプロジェクトとなったアブロの円盤機は「VZ-9AV」の機番が振られ、1959(昭和34)年5月27日に試作1号機が完成しました。なお、1回手を引いたアメリカ空軍でしたが、やはり興味があったのか、再び資金協力しています。

自由自在に飛ぶことの難しさに直面

 VZ-9AVは直径5.486m、高さ2.34mの完全な円形で、機体中央の巨大なダクトファンを駆動するためにジェットエンジン3基を内蔵していました。飛行方法は、機体の中心にあるダクトファンから排気を下向きに噴出させると、機体が高圧のクッションに乗ったようになる、いわゆる地面効果(グラウンド・エフェクト)と呼ばれるものを利用する方法でした。


オハイオ州デイトンのアメリカ空軍博物館で保存展示されるVZ-9AV。「アブロカー」という愛称が付けられていた(画像:アメリカ空軍)。

 この新技術を用いた試作機は、6月から早速各種テストを始めますが、エンジンのオーバーヒートやダクトファンのパワーロス、機体の安定性欠如など、様々な問題が噴出します。とりあえず試作機の完成から半年後の11月12日に初飛行するも、自由自在に飛んだとはいえない、不安定なものでした。

 その後も安定性の低さや、操縦の難しさは改善されませんでした。加えてコックピットの両脇にジェットエンジンがある構造上、操縦手に対する騒音や熱気がひどく、飛行は15分程度しかできなかったといいます。

 結局VZ-9AVは、1961(昭和36)年12月をもって開発中止となりました。ただし、アメリカ空軍および陸軍が関与し、国防予算が用いられた国家プロジェクトだったため、製作された2機の試作機は、廃棄されずに空軍博物館(オハイオ州)と陸軍輸送博物館(バージニア州)に収蔵されました。

 ちなみに想像図では、兵士が乗り込み対戦車砲を搭載するように描かれていました。アメリカ陸軍は文字どおり「空飛ぶジープ」のような運用を考えていたようですが、仮に実用化にこぎ着けても、機体の安定性が射撃の反動に耐えられたかは大いに疑問といえるでしょう。