発表大会の討論会(左から3人目が天岸アルプス電気常務)

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 アルプス電気が技術の良しあしを効率良く評価する手法の品質工学を経営主導で採り入れ、開発や生産の変革を図っている。多くの製造業が苦しむ品質問題で「顧客のクレーム(苦情)を激減」(天岸義忠常務)し、体質を変えてきた。ただ、現場の技術者が自発的にこうした手法を試みても、根付かない場合が多い。経営がリードする同社の戦略に、品質の壁を乗り越えるヒントが垣間見える。

 「不良を出さない意識が当社の文化」。11月30日に都内で開かれた品質工学会(東京都千代田区、谷本勲会長、03・6268・9355)の発表大会で、アルプス電気の天岸常務は技術の経営方針を明確に説いた。

 変革に本格着手したのは2008年のリーマン・ショックの後。主力製品の一つのスイッチでは、17年にクレーム数を02年比で80%超減らした。スイッチの自動組み立て工程で複数のデータを測り、正常時のデータで算出した指標値から数値が離れるほど異常とみなす品質工学の予測手法で実現した。

 異常とされ破棄するスイッチは、従来の検査なら合格するものもある。「合格なのに捨てるのはおかしいと、初めは問い詰められた」(天岸常務)が、出荷後の品質は劇的に向上した。

 モノづくりの変革に真正面から向き合ったのは、製造業の激変がある。グローバル経済で生産が低コストの新興国へ移り、デジタル技術の進化で開発や製造の許容時間も短縮した。試行錯誤を繰り返す開発やサークル活動で品質を保つ従来の手法は、市場が求める開発のスピードや生産のコストダウンに応えられなくなっている。

 天岸常務は「スイッチのクレーム数は激減し、信用も高まった。品質工学は経営の一端を担う。品質の管理にもかなりの資金をかけている」と説明する。

 発表大会では同社の佐々木市郎シニアスタッフが、景気の悪い時期も粘り強く技術者教育する取り組みを紹介した。佐々木氏は「スイッチの異常を判定する予測手法は、人工知能(AI)の先駆けになる」と例える。三森智之主任技師も車載用ヒーター制御パネル製品の複雑化した形状を、品質工学の手法で手直しを少なく設計した実例を報告した。

 多くの製造業はリーマン・ショック後の危機を、人員削減や事業縮小でしのいできた。技術の変革で乗り越えた同社のようなモデルは少ないのが現状だ。品質工学会の谷本会長は「マネジメント(経営)が技術の効率化を考えないと、モノづくりの構造変化に対応できない」と指摘する。
(日刊工業新聞社大阪支社・田井茂)