「声」の出し方を変えれば心も身体も健康になれる!?

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海辺のライブハウスで出会った、鳥肌が立つほどの圧倒的な「声」
 ロック・ポップス系の音楽が好きで、時折渋谷や下北沢のライブハウスに出没している。8年ほど前だろうか、とある海辺のライブハウスで、鳥肌が立つほどの圧倒的な「声」に出会った。その時の感覚は、今でも昨日のことのように蘇らせることができる。

 「こんなの聴いたことがない!」と驚愕したその歌声の持ち主は、日本人女性シンガーのSalyuである。BANK BANDでのMr.Children桜井和寿とのデュエット曲「to U」、コーネリアスがプロデュースしたsalyu x salyuの活動などでも知られる。

 歌い出した瞬間、明らかに空気が変わった。異空間が出現したようだった。中音域が中心の、深く、どこまでも広がっていく声。それでいて聴き手一人ひとりの耳を包み込むような、実に不思議な、魅力的な声。

 確か着席で500人くらいのキャパの会場だったのだが、Salyuの声はその隅々まで、水のように満たしていた。今、思い出すと、彼女の口から声が出ていたような気がしない。間違いなく「全身」から声が出ていた。

 『声のサイエンス』(NHK出版新書)は、人間が発する「声」の力について、科学的知見と豊富な事例を交え、さまざまな角度から解説している。著者は音楽・音声ジャーナリストとして活躍する山粼広子さんだ。

 「声はどこから出るのか?」と問われれば、ほとんどの人が「声帯」と答えるのではないだろうか。声帯は喉頭の内側の気道の入り口にある。吐く息が、声帯の薄い膜を振動させて音が出る。ただ、この段階ではまだ「声」ではない。ブザーのような小さな振動音にすぎない。

 そのブザー音が「共鳴」して、初めて声になる。共鳴するのは咽頭や口腔、鼻腔などが中心だが、誰もが多かれ少なかれ「全身」を共鳴させているのだという。歌ったり、演説したりするときに、無意識であっても声を身体全体に響かせるテクニックがあれば、豊かな「いい声」になる。

 実は筆者は小学生の頃に地元の合唱団に入っており、そこで基礎的なボイストレーニングを受けている。その時に、ひたすら腹筋を鍛えたような記憶がある。仰向けに寝て、足を真っ直ぐ伸ばしたまま30度ぐらいの角度に持ち上げてしばらく静止する、といった運動をしていた。

 腹筋を鍛えれば、横隔膜を使って「腹の底から」大きな張りのある声を出せる、というわけだ。40年ほど前に受けたトレーニングなどだが、その恩恵は今でも残っていて、カラオケなどでは、周りが引くほどのでかい声で歌ってしまう。大きな声で思い切り歌うと、実に気持ちがいい。

「本物の声」が出せれば心身の健康や自己実現につながる
 『声のサイエンス』を読んでもっとも感銘を受けたのは、「本物の声」についての解説だ。誰もが「本物の声」を持っているのだという。

 あなたは、自分の声が「好き」だろうか? 山粼さんが実施した調査では、約80%の人が「自分の声が嫌い」という結果が出ている。しかも、自分の声を録音して聴いたことがある人に限れば、「嫌い」な人は90%以上にも上ったそうだ。

 もし自分の声、特に録音した声が「嫌い」なのだとしたら、その声は「本物の声」ではない。「本物の声」は、自分で聴いて、少なくとも「いいな」と思える声だからだ。きっと私がカラオケで「気持ちがいい」と感じる時の歌声も「本物の声」に近いと思われる。

 山粼さんがいう「本物の声」とは「その人の心身の恒常性に適った声」だ。恒常性というのは「人間の心身を正常で健康な状態に安定させる仕組み」。つまり「本物の声」を出していれば、心身のバランスが取れ、健全で前向きな自分になれる。山粼さんは「自己実現」につながるとも言っている。