大塚家具の内紛から何を学ぶべきか

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■壮大な「父娘喧嘩」は企業統治の貴重な例

創業者で会長の父と、社長の長女が経営権を巡って激しく対立している大塚家具。3月27日に開かれる株主総会に向けて委任状争奪戦(プロキシー・ファイト ※1)を繰り広げている。社長の大塚久美子氏が会社側提案として出している取締役候補者名簿には会長の大塚勝久氏と長男で専務の勝之氏の名前はない。対する勝久氏が筆頭株主として提案している名簿からは、久美子氏や弟たちは排除されている。勝久氏夫妻には5人の子供がいるが、父母長男の3人と、長女以下4人が真っ二つに割れて争っているのだ。

今回の騒動は父娘の対立にばかり焦点が当たっているが、実際には、日本のオーナー系企業の経営体制、つまりコーポレートガバナンスのあり方が問われる貴重なケーススタディだと言える。決して痴話げんかと片付けてはいけないのだ。オーナー企業が、創業者の「ワンマン会社」から、いかに社会の「公器」へと脱皮していくのか。古くて新しい問題を世に問うている。

父の勝久氏は創業経営者らしく、自分の方針を強く打ち出して社員を引っ張るタイプ。本人は会見で否定しているが、いわゆる「ワンマン」である。一方の久美子氏は会見で、「株式を公開した以上、創業者の庇護から離れる時期が来るのは当然で、今がそのラストチャンス」と語る。理詰めのタイプだ。その2人が真正面からぶつかっている。父は「1700人いる社員は私の子ども」だと言い、娘は「社員のプライバシーを考えれば騒動に巻き込むのは遺憾」とする。日本国内で続いてきた新旧価値観の対立の縮図ともいえる。

今回の騒動では社外役員のあり方がひとつの焦点になっている。2009年に久美子氏が社長に就くと、一族で独占していた取締役会の改革に着手する。8人の取締役のうち3人を社外から招いたのだ。外部から取締役を入れることに当初、勝久氏は強く反対していたとされる。久美子氏は社外取締役を入れるのは時代の流れ(※2)で、会社を「公器」に変えるには必要不可欠と考えた。ところが勝久氏は自分の影響力を薄めるための策謀だと考えたようだ。

両者が考える取締役会のあり方も大きく違っていた。勝久氏は、取締役会は具体的な経営戦略などを議論する場ではなく、自らの方針を追認してもらう場と考えてきたようだ。

「社外の人は会社の事は分かりませんから」と言い、社内の執行役員で構成する「経営会議」を設置し、そこで決まったことを取締役会は「尊重」するのが正しい方法だと主張した。

一方の久美子氏は、取締役会で経営の大方針を議論するのは「当たり前」だと考えていた。取締役会での議論を経ずに、実力会長である父が事業を勝手に進めることに苦言を呈していたという。

そんな最中、昨年7月の取締役会で、久美子氏は5年間務めていた社長を突如解任された。勝久氏が主導したものだった。うるさい久美子氏を排除した勝久氏は、自分流の経営スタイルに突っ走った。8月以降の5カ月間に7億円にのぼる広告宣伝費を積み増した、という。結局、売り上げは期待したほど増えず、営業赤字に転落してしまう。

その間、どんな議論が取締役会でなされたかは、知る由もない。

だが、久美子氏を解任して会長兼社長となった勝久氏に、社外取締役3人と社外監査役3人の計6人は「大塚勝久会長兼社長に対する社外役員の要望事項」という文書を提出している。日付は今年1月15日。1月28日に取締役会が久美子氏の社長復帰を可決する以前のことだ。

■「経営姿勢」の争いは脱「創業家」に追い風

「要望事項」には6人共通の意見として以下の6項目が書かれていた。

(1)現体制による経営方針の速やかな策定・取締役会付議
(2)コンプライアンス体制の強化(適切な人事を含む)
(3)IR体制の強化(適切な開示・株主に対する適切な対応)
(4)予算・事業計画の適時の策定・取締役会付議
(5)経営判断の合理性の確保・取締役会における適切な説明(不動産取引を含む)
(6)取締役会における健全な議論を行えるようにしていただきたい

いずれも当たり前の事ばかりだが、こんな要望事項を出さなければならないほど、取締役会が形骸化していたということだろうか。

(2)に適切な人事と書かれている背景には、昨年7月に久美子氏が社長を追われた後、期中にもかかわらず、大規模な人事異動が行われたのだという。社外役員はこれを、勝久氏の「イエスマン」を重用する人事とみたようだ。

また、(5)に不動産取引とあるのは、勝久氏の生まれ故郷である埼玉・春日部で、5000坪に及ぶ土地を取締役会で具体的な議論も行わずに勝久氏が取得してしまったことを指しているという。さすがの社外役員も、取締役会で議論が行われない事を問題視したのである。

そんな対立があって、1月28日に行われた取締役会には、久美子氏を社長に再起用する動議が出された。取締役会前に社外取締役のひとりが辞任、7人の取締役のうち4人が賛成して久美子氏の復帰が決まった。この結果を勝久氏は「娘の社長就任はクーデター。社員はテロだと言っている」と酷評した。直後に会長は株主提案を提出。株主総会に向けた委任状争奪戦へ発展した。

勝久氏が提出した取締役候補者名簿は、社内5人、社外5人という構成だ。しかも社外の人選は外部のコンサルティング会社が行っている。嫌っていたはずの社外取締役を半数導入するという提案なのだ。久美子社長による会社側提案では社内4人、社外6人となっており、対抗意識は明らかだ。古い経営に徹していると見られれば株主の賛同が得られないと考えたのだろうか。

また、久美子氏は社長復帰後、中期経営計画を発表して、2015年12月期以降の3年間、配当を40円から80円に引き上げる方針を示した。自己資本利益率(ROE)が低迷する変革期の間、株主には配当で報いるとしたのだ。

これに対して勝久氏側は3月6日に配当を3倍の120円にする案を公表する。2月の記者会見で勝久氏は「赤字なのに増配するのはおかしい」と批判していた。ところが、一転して社長提案を上回る増配案を提示したのだ。株主総会で株主の支持を得るための方策として打ち出したのは明らかだろう。

出だしは経営を巡る新旧の対立だったはずが、委任状争奪戦となった途端に、新しい経営を競い合う構図へといつの間にか変わってしまったのだ。皮肉なことだが、これで大塚家具のガバナンス体制が強固になれば、いずれが勝利してもめでたい限りだ。ところが、久美子社長側からは、そうではないという声が聞こえてくる。

「(勝久氏は)委任状争奪戦さえ勝ってしまえば、後はどうにでもなると思っている」というのだ。社外取締役だって自分の言う事を聞かなければ辞めさせればよいと思っているのではないか、という。

関係者によると、今回の騒動のそもそもの発端は、勝久夫妻が長男の勝之氏に会社を継がせたいと考えたことにあるという。その結果、「脱『創業家経営』を頑なに進めようとする長女が邪魔になったのだろう」とその関係者は話す。株式公開した企業の経営に創業家はどこまで関与すべきか。これまでたくさんのオーナー企業で、創業家が失敗してきた轍を大塚家も踏む事になるのか。総会後の経営の行方にも注目したい。

※1:株主総会で、経営側が諮る議案に反対し、別の議案を独自に提案して採決を競う。議決権行使の「委任状」をほかの株主から集めて、多数派工作を行うこと。大塚家具のケースでは、久美子社長側が「会社提案」、勝久会長側が「株主提案」を出している。
※2:今年5月施行の改正会社法では社外取締役を置かない企業に理由の説明を求めている。また東京証券取引所は上場企業に求める新しい企業統治ルールとして、独立性の高い社外取締役を2人以上選ぶことを促している。

(経済ジャーナリスト 磯山友幸=答える人)