『類語国語辞典』(大野晋 浜西正人/角川書店) 米光愛用のシソーラス/類語辞典。言葉が体系的に分類されているので、ひとつの語を検索してそこからネットワーク状に言葉を探索できる。オススメ。

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「宣伝会議編集ライター講座上級コース」で専任講師を続けている。
受講生の文章の上達度がぐっとアップするタイミングがある。
それは、自分で「推敲」ができるようになった瞬間だ。
自分の文章を、客観的に読み返し、修正改善する。
プロの文章を書くためには「推敲」が大切だ。
だが「どう推敲すればよいのか」をつかまずに、ただ何度も文章を書きなおすのは無駄だ。
ポイントをふまえて、推敲し、「文章」が伝わるものになる。それが自分で分かる。そうなると、文を書くことがおもしろくなり、上達スピードが加速する。

そこで、文章を書き終えたらチェックすべき推敲の17ポイントを紹介しよう。

■内容を吟味しよう
【1】伝えたいことが伝わるか?
伝えたいことは何か改めて考えてみよう。
書いた文章で、伝えたいことは伝わるだろうか? 伝えたい衝動を見失ってはいけない。衝動に突き動かされて書いているか? その衝動が伝わるように構成されているか?
*伝えたいことがぼんやりとしていると、乱雑な原稿になる。たとえば「楽しかった」「すごかった」等ではダメで、どう楽しかったのか、どうすごかったのか、という発見/根拠をつかめているかチェックしよう。

【2】誰が読むのか?
読む人は誰だろうか? 具体的に想像して、その人になったつもりで読んでみよう。読者の感情が動くような文章になっているだろうか。最初の一段落目を読んで、読者は放り投げずに先を読んでくれるだろうか。
*読者を大勢のぼんやりとしたのっぺらぼうとして想定すると、つまらない文章になる。個の顔をもつそれぞれの人として想定できるかどうか。

【3】読んでもらおう
自分以外の人に読んでもらって感想を聞こう。
厳しいことを言われても、直接いいわけしたり、反論したりしないほうがいい。ただ、アドバイスを鵜呑みにしてその通りに直す必要はない。アドバイスを自分の中をくぐらせて、考えてから、修正すること。
*読んでもらってアドバイスをもらうことよりも、具体的な誰かに「読んでもらう」という前提で文章を書くことが力になる。

■テキストを整えよう
【4】その漢字は必要か?
ムダに漢字が多いとゴテゴテ飾りつけた文章に見える。漢字にする必要がないものはひらがな/カタカナにひらけ。
*「習った漢字はすべて使え」という学校教育のせいか、漢字を使ったほうがプロっぽいという幻想のためか、漢字だらけで読みにくい原稿を書く人が多い。いろいろな文章を読んで、なにをどう漢字にしているかチェックしてみよう。

【5】誤記がないか?
とにかく辞書/検索で調べろ。言葉について深く知ることを楽しめ。
*「すべからく」を「全て」の意で使う誤用なども多い。

【6】改行できないか?
五行を超えたブロックがあったら改行できないか考えてみよ。
*ネット上の文章であれば、1行空きなども活用してみよう。

【7】一文が長くないか?
一文が長ければ、短くしてみよう。100字を超えていたら、疑え。
*意図して長いのであればいいのだが、ついつい長くなって読みにくい文というのは案外多い。

【8】語順はだいじょうぶか?
語順が混乱していないだろうか。形容する言葉がどの言葉にかかるか、誤解を与えないような語順になっているだろうか。
*本多勝一『日本語の作文技術』に論理的な詳しい解説がある。

言葉を選択するときにオススメは『類語国語辞典』。
ネット上では、Weblio類語辞典が使える! (参照:ぴったりする言葉を見つける方法/シソーラスを使う)

■削れる部分はないか?
以下のポイントで削れないかどうかチェックしてみよう。
【9】装飾の言葉
強調のための「この」「その」、不要な形容詞、大げさな言葉。これらが目立つと、化粧しすぎの気取りすぎた文になる。できるかぎり削れ。カッコつけすぎるのってカッコ悪い。
*「という」「の方」「そっちの」「そして」「それ」も不要なケースが多い。
*不要な一人称が多用されているケースも多い。

【10】重複
同じ言葉がつづいていないか。一段落に同じ言葉があれば、どちらかの言葉を変えられないか考えてみる(フォーカスを変えた言葉を探す)。同じ文末がつづいていないかもチェックしよう。
*削る、という方法もある。
*この項のテキストも「言葉」という語が3回も使われている。が、言い換えたり削るとわかりにくくなるのでチェックした上で「言葉」を3つ残した。

【11】メタディスコース
「重要なことは〜」「私の知る限りでは〜」「御存じだろうが〜」「個人の感想だが〜」など。内容ではなくて、内容に関しての言葉。読みを誘導しすぎる言葉。多用すると窮屈な感じの独りよがりな文になるので注意しよう。
*伝えたい焦点が絞れてないと、読者を強引に誘導したくなって、ついつい使ってしまう。多用していたら、「【1】伝えたいことが伝わるか?」どうかを再確認しよう。

【12】がーてん
「極端ですが、」「わたくしごとですが、」などの逆接でない「〜が、」のフレーズは不要な場合が多い。

【13】不要な脱線
あまりにも脱線した話は、読む側を混乱させる。おもしろいかもしれないが、それはまた別の機会に書けばよい。

【14】いいわけ
いいわけが挿入されてしまうと、もともと言いたかったことが伝わりにくくなる。逆効果である場合も多い。思い切って削ったほうが、すっきりする(特に謝罪の文章で、いいわけを入れる愚を犯すな)。
*例外を挿入するときも気をつけて(例外ばかりが印象に残ることが多いので)。

【15】他人の言葉
定型文、クリシェなど。紋切り型のフレーズ。自分の気持ちから出てきていないそれらしいだけの文章がないか。自分の気持ちからそれて、嘘になっていないかをチェック。どうやって紋切り型の言葉を超えるか、もっとピントの合った言葉を見つけるか、そういったことと格闘しながら書いていくことが大切だ。

【16】最初と最後
まさにここからしか、はじめられないところからスタートしているか。
まさにここでしか終われないところで終わっているか。
*最初/最後のフレーズや段落を削ったほうがだんぜん良くなるテキストは多い。「つかみ」になっているか。最初と最後だからといってリキミすぎていないか。紋切りのフレーズになっていないか。大きなフレーズになっていないか(“コミュニケーションの大切さを痛感した”なんていう寝惚けてても書ける大きなフレーズで終わる凡庸さ!)。どうでもいい前置きをしてないか(本論からはじめよ)。

【17】接続詞
接続詞を見つけたらいったん削ってみよう。それで意味が通るなら削ってしまえ(一度、接続詞をすべて削ってみて、自分の文章を読んでみよう)。
*内容に自信がないとき、読者を誘導しようとして接続詞が多用されることも多い。内容そのものを再度チェック。

以上、17のチェック項目を挙げた。
これをひとつひとつチェックし、推敲するのは大変な苦労だ。だが、自分で納得のいくものが書けない人は、やってみてほしい。
書けるようになってしまえば、再読しながらこれらが同時にパッとチェックできるようになる。それができるようになるまでは、ひとつひとつを意識してチェックしてみてほしい。(米光一成)