「吠えまくって手がつけられなかったのに…」ポメラニアン警察犬・ハクくんが指導員の指示をすぐに聞くようになった“素質”、現在は「適切な場面で吠える」訓練中
珍しい"ポメラニアン警察犬"として今年4月13日、宮崎県日向警察署に採用された「ハク」くん。警察犬といえばドーベルマンやシェパードといった大型犬をイメージしがちだが、昨今では狭所や足場の悪い場所の捜索などにも役立つとして、小型犬の採用が全国各地で急増しているのだ。
【写真22枚】ヤンチャだった赤ちゃん時代のハクくん。訓練学校で駆け回り、ちゃちゃ丸やデコピンと遊ぶ姿も
真っ白でモフモフな愛らしい姿から話題になったハクくん。まだ出動要請はないというが、頼もしい警察犬になるまでには飼い主も困り果てるような「ヤンチャ期」があった--ハクくんの1日に密着したライターの河合桃子氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む】
「無駄吠えはしても、賢い子」
もともとハクくんは、大分県在住の土田さん(40代)の元で飼われていたペット犬だった。出会いは2024年6月頃のこと。土田さんが語る。
「子どもたちの要望で小型犬を飼いたいとなり向かったペットショップに、売れ残りのような感じで当時6か月のハクがいました。ポメラニアンによく見かける『たぬき顔』タイプではなくキリッとした顔つきで、一目惚れだったんです。
でも連れて帰ったその日から、昼も夜も関係なく吠えまくり、眠ってる時以外は大暴れ。落ち着きもなく、どうしたものかと困っていました」
早朝4時から吠えることもあり、家族の睡眠の妨げになるだけでなく、近隣からのこんな"苦言"も届いた。
「『朝早くから吠えてるよね。ケージに入れて暗くすると眠ってくれるよ』って言われて。でも、ケージに入れていても結局吠えまくっていたので、私たちとしても手がつけられず……。犬の躾をしてくださる訓練所のようなところがないかと探しました。
そこで、宮崎県の井東警察犬・愛犬訓練所を見つけたのです。2024年7月頃にまずはご挨拶がてら、ハクを連れてお話を聞きに行きました」
大分県から車で2時間ほどの井東警察犬・愛犬訓練所に訪れると、顧問の井東照博氏と、所長の竹越ひかるさんが話を聞いてくれたという。井東さんは吠えるハクくんをまずはリードに繋げ、「お座り!」と命じると、ハクくんはわずか2、3回の指示で言うことを聞いたのだという。
「それまで何を言っても聞かなかったハクが……井東さんがリードをうまく利用して導いてくれて、お座りができるようになりました。その日は家に連れて帰りましたが、無駄吠えは止まなかったものの、お座りはできるようになったのです。
元々ハクは無駄吠えはしても、賢い子だと思っていました。いつもケージの中から私たち家族の動きを見たり、しゃべっているのを聞いているなって感じていたんです。その後、2024年8月には完全にお預けすることになりました」
一年で試験合格
預けてから月に1度くらいのペースで訓練所に行き、ハクくんとの面会を重ねた。
「みるみるうちに無駄吠えしなくなり、お行儀良く、なおかつ竹越さんたちの指示に従う様子が見て取れました。
預けて半年くらい経ってから『警察犬に向いていると思う。試験に挑戦させてみてもいいですか』と竹越さんから言われ『その可能性があるならぜひ』と答えました。そこから1年ほどの訓練で、見事、試験に合格したと聞いた時は嬉しかったです」
井東さんや竹越さんの指導は、よほどすごいのだろう。これまで井東警察犬・愛犬訓練所では優秀な嘱託警察犬を輩出してきた。井東さんに、特に思い出深い警察犬の話を聞いた。
「ライムというシェパードの警察犬はとても優秀な子でした。
2018年11月26日、宮崎県の高千穂町の民家で一家6人が殺害された事件が起きたのですが、その際に出動したのがライムです。家族と同居する次男が被疑者でしたが、事件後に行方がわからなくなっていたのです。
我々が現場につくと、ライムは被疑者の乗り捨てた車から100mほど匂いを嗅ぎながら移動しました。道の駅の反対側の駐車場から橋に向かって。その橋の欄干にゲソコン(下足の痕跡を意味する用語)を見つけた。そこで刑事が『オヤジ、もっと先行けるか』って言うんで、ライムと一緒にさらに進むと、ライムが『わん!』と鳴いたんです。刑事がそのすぐ下の川を捜索したら、被疑者の次男が遺体で出てきました。飛び降り自殺をしたようでした」
次の目標は「地域捜索」試験合格
ライムが鳴いたことは「ここが飛び降りた現場だ」といったことを意味する。警察犬にとって、適切な場面で適切に吠えることは、重要な仕事なのだ。これは、今年4月に警察犬として就任したハクくんの課題でもある。
出動要請が入らなくても、この暑さのなか、ハクくんは毎日訓練をしている。来年1月に行われる「地域捜索」という試験に合格するために、現在の訓練で重きを置いているのは「吠えること」だ。
幼少期、吠えてばかりだったハクくんは無駄吠えをしなくなった。これからは誰かを助けるため、何かを見つけるために吠える。ハクくんの今後の活躍に期待したい。
(了。前編から読む)
【プロフィール】河合桃子(かわい・ももこ)/1977年、東京都生まれ。ライター。週刊誌を中心に執筆。幅広く取材活動を行なっており、特に性風俗にまつわる事件などアングラな業界を長年取材している。積水ハウス55億円詐欺事件の実行犯を取材した『地面師連絡役カトウ』(小学館)で、第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞。
