フランク・シナトラとライフ誌の表紙へ デュアル・ギア(2) いかにもミッドセンチュリーな内装 後ろ寄りのV8で優れた操縦性
フランク・シナトラもオーナーに
ユージーン・カサロール氏は、当初からデュアル・ギアを限定的に生産しようと考えていた。1955年当初、年間150台の提供が告知されたが、楽観的な数字なことは反響から明らかだった。
【画像】かつてハリウッド・セレブ御用達 デュアル・ギア 同時期のクラシックたち 全116枚
北米価格も、最高峰のキャディラック・エルドラドが5000ドル程度だった時代に、7646ドルと強気といえた。最終的にラインオフしたギアは、117台。2台のクーペと、13台のプロトタイプを含めて。

デュアル・ギア(1955〜1958年/北米仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
特別なモデルとして受け止められるよう、購入希望者の審査は厳しかった。他方、技術者のポール・ファラゴ氏は、歌手のディーン・マーティン氏や俳優のピーター・ローフォード氏といったハリウッドスターへ、積極的に売り込んだ。
かくして、歌手のフランク・シナトラ氏や女優のデビー・レイノルズ氏も、ギアを所有することに。ゴシップネタを得意とした作家のドロシー・キルガレン氏は、「ロールス・ロイスは、デュアルを買えない人のステータスシンボル」と綴ったほど。
ライフ誌の表紙を飾ったデュアル・ギア
ところが、一般に認知されるには至らなかった。1958年12月号のライフ誌は、自身のギアと一緒に映るシナトラの写真が表紙を飾ったが、その時点で生産は終了していた。これを機に知名度は上昇したといえ、あと1年早ければ状況は違っただろう。
自動車雑誌では、芸術的なイタリアン・コーチワークと、シンプルなアメリカン・メカニズムの融合が称えられた。「女優のジーナ・ロロブリジーダ氏が提供する素晴らしい世界観と比べても遜色ない、性能を実現しています」と紹介した記事もあった。

デュアル・ギア(1955〜1958年/北米仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
実際、ギアは車重が1633kgと車格の割に軽量で、0-100km/h加速を8.2秒でこなした。最高速度は199km/hに届き、不満のない動力性能にあった。
ただし、速さを追求したコンバーチブルではなかった。「ホットロッドを作ったのではありません。レースはして欲しくありませんね」と、ファラゴは後に語っている。
インテリアはいかにも1950年代のアメリカ車
全長5169mmのギアへ歩み寄る。フロントグリルだけでなく、ボディの随所をクロームメッキ・トリムが飾る。ドアを開いた内側、サイドシル部分でもクロームメッキが輝くが、これはオーナーへ向けたデュアル・モーターズのこだわりといえる。
インテリアはツートーンで、いかにも1950年代のアメリカ車。ダッシュボードには、クライスラー由来のメーターやスイッチが並ぶ。メーターパネルには、美しいエンジンターン模様が施され、ミッドセンチュリー時代の高級レストランのようだ。

デュアル・ギア(1955〜1958年/北米仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
スピードと同じデザインのタコメーターは、クライスラーに用意がなく、デュアル・モーターズの特注品。グローブボックスには、初代オーナーの名が刻まれたプレートがあしらわれる。パワーウインドウは、納車後に不備が指摘され追加で装備されている。
重量配分に優れ競合を凌駕した操縦性
ゆったりしたシートへ腰を掛ける。発進は軽快で、前方のV8エンジンは静かに回り、2速ATの変速は滑らか。パワーステアリングは想像通り非常に軽いが、路面からの情報がある程度伝わる。フロントタイヤの切れ角が小さく、小回りは効かない。
操縦性は、同時期のアメリカ車を凌駕する。V8エンジンの搭載位置は、技術を共有したダッジより150mmほど後方で、重量配分に優れることが大きな理由。その前方には、ラジエーターへ空気を導く巨大なシュラウドが備わる。

デュアル・ギア(1955〜1958年/北米仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
今日はロンドン郊外を走っているが、カサロールの狙い通り、周囲から向けられる視線は半端ない。華やかなラスベガスへの進出も、彼は計画していたとか。ドラムブレーキは12インチと大径。大きなボディを、頼もしく真っ直ぐ止めてくれる。
3年で終了した高級コンバーチブルの提供
1958年半ばに、カサロールが手配したパワートレインなどは在庫が尽きていた。クライスラーが販売不振にあったことや、シャシーの設計変更が控えていたこと、自身の健康問題などが重なり、彼は高級コンバーチブルの提供から身を引くことを決める。
その後、技術者のファラゴはギア社と共同で、ギア L6.4を開発。プロトタイプは1960年のフランス・パリでお披露目されている。これは僅か27台が生産されたが、デュアル・モーターズというブランド名を冠することはなかった。

デュアル・ギア(1955〜1958年/北米仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
僅か3年ほどの期間だとしても、ハリウッド・セレブの話題を集めたデュアル・ギア。もし1965年に、リアリティ番組が配信されていたら。SNSが存在していたら。より多くの注目を集め、カサロールの気持ちを繋ぎ止めていたかもしれない。
協力:DDクラシックス社
デュアル・ギア(1955〜1958年/北米仕様)のスペック
英国価格:7646ドル(新車時)/40万ドル(約6400万円)以下(現在)
生産数:117台(予想)
全長:5169mm
全幅:1875mm
全高:1320mm
最高速度:199km/h
0-97km/h加速:8.2秒
燃費:5.3km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1633kg
パワートレイン:V型8気筒5162cc 自然吸気 OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:233ps/4400rpm
最大トルク:43.6kg-m/2400rpm
ギアボックス:2速オートマティック/後輪駆動

デュアル・ギア(1955〜1958年/北米仕様)

