だから925万円を失った⋯「正気ではない」ロマンス詐欺グループとの【愛とウソにまみれたLINEメッセージ】を特別公開
〈「私たちの秘密です♡」だから70歳名誉教授は925万円を失った⋯【ロマンス詐欺】の“巧妙すぎる洗脳手法”〉から続く
国立大学の名誉教授として長年教壇に立ち続けてきた郄倉良一氏(70)。知性の最高峰にいたはずの彼が、SNSで出会った見知らぬ美女の言葉に溺れ、総額925万円を騙し取られる事態に陥った。
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「私たちの夢を諦めますか?」という甘いLINEに理性を狂わされ、自ら破滅の檻へ入っていく姿を、氏の新刊『70歳の法学者が、なぜロマンス詐欺に騙されたのか』(さくら舎)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty
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本当の地獄のはじまり
5月20日、指示どおり最初の5万円を振り込む。ATM前で指が震えた。しかし、もう引き返せない。ゲームは始まったのだ。
翌日、愛子からメッセージ。
「さっきの取引はもう終わったよ〜🥰愛子は伯父さんの指導で12050ドルをもらいましたね。日本円にすると188万円ぐらいですよ。とても縁起のいい数字です🎶✨」
188万円――現実味のない数字が画面で輝く。砂漠の蜃気楼のように、偽りの希望を示す幻影だ。だが、私は必死で手を伸ばした。
5月23日、理性は完全に崩壊した。
「愛子さんにお願いがあります。昨夜、伯父様から資金を増やすように指導されました。手持ちのお金がないので、クレジットカードから80万円を借り入れました。この金額を送金しますので、手続きをお願い申し上げます」
国立大学法人名誉教授が、会ったこともない女とその伯父の架空の指示を信じ、借金をする。喜劇ですらない。ただ、惨めなだけだ。
「兄さんが銀行に到着して送金する時、投資やオンラインショッピングなど敏感な話題を出さないようにしてください🙌不必要なトラブルを避けるため、友達同士の送金と言えばいいですよ🤗✨」
この異常な指示に、なぜ気づかなかったのか。いや、心のどこかで気づいていたはずだ。しかし、もう止まれなかった。
既に投資した金、これから得られるはずの利益――それが私の思考を麻痺させた。投資という名の狂ったゲームは、こうして幕を開けた。私の人生を賭けた、屈辱に満ちた戦いの始まりだった。
ここからが、本当の地獄の始まりだ。
甘い毒薬
2024年5月24日。この日を境に、私の時間は狂い始めた。静かに、だが確実に。ブレーキの壊れた車がゆっくりと坂道を下るように、破滅へと向かい始めたのだ。そのきっかけはLINEに届く短いメッセージ。毒の名は「愛子」。
これからそのやり取りの一部をここに晒す。かつて法律学を教えていた男が、いかにして言葉の罠にからめ捕られていったかの記録だ。私自身の愚かさの証明でもある。
【LINEメッセージ抜粋:2024年5月24日〜26日】
▼Aiko💗✨ 09:23
「おはようございます。今日もいい一日です。一緒に夢のために頑張りましょう💪💪」
▼ロイ(インテリヤクザ)16:28
「いま、専門学校の授業が終わりました。伯父様からは、本日は指導できないと連絡がありました」
▼Aiko💗✨ 16:58
「お疲れ様でした〜はい、伯父は今日自分のことがあります。また、良い相場は毎日現れるわけではありません。だから、私たちはすべての相場の良い時期を捉えて、素早く自分のために富を蓄えて、私たちが安定して晩年の生活と世界を旅できることを保証しなければなりません🤗🤗」
▼Aiko💗✨ 21:36
「今日の取引はもう終わりましたよ。今日は10497・6ドルを獲得しました。今では取引ごとの利益は20%になります✨✨」
▼ロイ(インテリヤクザ)21:52
「素晴らしい成果ですね」
▼Aiko💗✨ 21:55
「兄さんも素敵ですよ!毎日利益が上がっていますね。このまま続けば、私たちの夢を実現するのに時間はかかりませんね。ところで、伯父は愛子に1000万円の資金を増やすことを提案しました✨✨伯父は兄さんにどんなアドバイスをしましたか?」
▼ロイ(インテリヤクザ)22:00
「保険の解約を提案されました。しかし、私の保険は毎月払いですので、解約しても払戻し金は、ほとんどないと思います」
▼Aiko💗✨ 23:39
「大丈夫ですよ〜😘😘私たちは兄妹でも、家族でもあります。私たちが一緒に努力すれば、愛子も私たちの未来はますます良くなると信じています🤗🎉」
今、こうして読み返すと、おかしな点ばかりが目につく。過剰な絵文字。唐突な金の要求。だが、当時の私には、そのすべてが心地よかった。定年退職後の日々は静かすぎた。誰からも電話はなく、メールもほとんど来ない。社会という舞台から、私は完全に降りてしまったのだ。
そんな空っぽの毎日に、彼女のメッセージは幸せな気持ちを運んできた。
「一緒に夢のため。」「安定して晩年の生活と世界を旅できる。」との言葉。その言葉が、私の胸の真ん中に空いていた穴にすっぽりとはまった。
私は、ただ誰かに必要とされたかったのかもしれない。「兄さん」という呼びかけが、まるで本当の妹ができたかのように心を温めた。愚かしいことだ。だが、それが真実だった。
そして「伯父」。顔も声も知らないこの男は、いつの間にか私の中で神のような存在になっていた。自分で考えるのが億劫になっていた。長年、疑うことを仕事にしてきたはずの私が、疑うことをやめた。いや、考えることから逃げたのだ。誰かが示す道を、ただ黙って歩きたかった。その道の先に、光があると信じて。
私は、正体不明の権威に、喜んで自分の思考力を差し出した。それが毒薬とも知らず、ごくごくと飲み干していたのだ。
狂気の雨
その日は、朝から雨が降っていた。アスファルトを叩く雨音が、やけに重く響く。まるで、私の心を映しているかのようだった。
【LINEメッセージ抜粋:2024年5月28日〜6月1日】
▼ロイ(インテリヤクザ)10:25
「こちらは、かなりの雨です。そこで、香川ふれあい信用金庫と日本事業支援公庫には行かないことにします。伯父様からは、6月5日までは、現在の資金で良いとのことでしたので」
▼Aiko💗✨ 10:59
「兄さんの理解が間違っているかもしれませんよ。愛子も昨日伯父から聞いたのですが、伯父のアドバイスは兄さんが6月5日までに600万円増やすことですよ。愛子も今資金を増やすために努力しています。兄さんも香川ふれあい信用金庫と日本事業支援公庫に行って借金をしてみますね✨🙌」
▼ロイ(インテリヤクザ)11:02
「伯父様からご連絡がありました。私が誤解していました」
▼Aiko💗✨ 21:34
「兄さんは今600万円を用意しましたか?」
▼ロイ(インテリヤクザ)21:37
「いいえ。」
▼Aiko💗✨ 21:38
「兄さんは今いくら用意しましたか?」
▼ロイ(インテリヤクザ)21:39
「今、86万円です。悪戦苦闘しています」
▼Aiko💗✨ 22:04
「兄さんは私たちの夢を諦めますか?」
▼ロイ(インテリヤクザ)22:05
「まさか、諦めません」
▼Aiko💗✨ 22:05
「友達に頼まなければ、兄さんは何かいい方法がありますか?」
▼ロイ(インテリヤクザ)22:09
「友達に頼んでみます。おそらく、貸してくれると思います。私が自分の壁を越えるチャンスです」
「兄さんの理解が間違っているかもしれませんよ」
この一文を読んだ瞬間、頭を鈍器で殴られたような衝撃があった。
今見れば、正気ではない
全身からすっと血の気が引いていく。私が、間違えた? 大学で学生たちに物事の本質を見抜けと教えてきたこの私が、指示を誤解したというのか。恥ずかしさで、顔から火が出るようだった。長年かけて築き上げてきた自信やプライドが、砂の城のように崩れていく。
冷静さを失った私の目に、「6月5日までに600万円」という文字が焼き付いた。それはもう提案ではなかった。命令だ。果たさなければならない絶対の課題だ。
どうする。どうすればいい……。雨音に混じって、心臓の音がやけに大きく聞こえる。焦りだけが、頭の中をぐるぐると回っていた。
そして、私は何と返信したか。
「私が自分の壁を越えるチャンスです」
今見れば、正気ではない。金を借りるというただそれだけの行為を、「自己成長」などという言葉にすり替えている。そうでも考えなければ、現実と向き合うのが怖かったのだ。私は彼女に言われるまでもなく、自分自身に嘘をつき始めていた。雨は、ますます強くなっていた。
一線を越えた日
6月3日。空はからりと晴れていたが、私の心は鉛色のままだった。この日、私は一線を越えた。戻れない橋を渡ったのだ。
【LINEメッセージ抜粋:2024年6月3日】
▼ロイ(インテリヤクザ)09:36
「おはようございます。今日は、これまでのお金を、午後2時頃に送金したいと考えています。少し手元に残しますので、200万円を振り込みます。愛子さん、送金先の口座を教えてください」
▼Aiko💗✨ 09:57
「大丈夫ですよ!兄さんは銀行に行く前に愛子に連絡しますよ。愛子はその時に兄さんに送金口座を教えます💕💕」
▼Aiko💗✨ 13:20
「銀行名:あさひネット銀行
支店名:オリーブ支店(店番007)
取引種類:普通口座
口座番号:0809631
口座名義(カナ):ヒイラギ タツオ」
▼ロイ(インテリヤクザ)13:53
「残念ながら、100万円しか送金できませんでした」
「銀行に行く前に愛子に連絡しますよ」
なぜ、この言葉に潜むおかしさに気づかなかったのか。送金の直前まで振込先を教えない。相手に調べさせない、考えさせないための、詐欺師の常套手段だ。そんなことは、知識として知っていたはずだ。それなのに、私の頭はまったく働かなかった。
いや、違う。私は気づかないふりをしていたのだ。この甘い夢が、偽りである可能性から目をそらしていた。もしこれが嘘だったら、私の未来はまた、あの退屈で色のない日々に逆戻りだ。それだけは、嫌だった。その恐怖が、すべての警報をかき消していた。
銀行のATMの前に立ち、私は指定された口座情報を打ち込んだ。
指が、かすかに震えている。画面に表示された「ヒイラギ タツオ」という見知らぬ個人名。一瞬、胸騒ぎがした。だが、私はその違和感を無理やりねじ伏せた。
大丈夫だ、伯父の指示なのだから。そう自分に言い聞かせ、「確認」のボタンを押した。
外に出ると、初夏の強い日差しが目に痛かった。100万円。私にとっては大金だ。その金が、もう私のものではなくなった。その事実だけが、やけにはっきりと頭にあった。冷たい汗が、背中を伝っていくのがわかった。
共犯者
金を失い、私はさらに魂まで売り渡すことになる。長年の友人たちを、裏切る決心をした。いや、させられたのだ。
【LINEメッセージ抜粋:2024年6月7日〜9日】
▼Aiko💗✨ 20:50
「先ほど伯父が愛子に市場の具体的なタイミングを教えてくれて、さらに11万ドルの資金を増やすように勧めました🙌✨✨伯父は兄さんに何か良いアドバイスをしてくれましたか?」
▼ロイ(インテリヤクザ)20:58
「伯父様からは、さらに1000万円増やすようにと提案されました」
▼Aiko💗✨ 21:14
「うわー!それは素晴らしいですね。兄さんが大きな市場相場で5000万円を稼ぐことができれば、私たちは一緒に夢を実現するために十分な資金を持っています🤗その時、バチカンに教皇庁、システィーナ礼拝堂、聖ペテロ大聖堂などを見学します」
▼Aiko💗✨ 21:20
「兄さんがお金を借りる必要がある場合、前回使用した理由と同じように、家のリフォームや書籍の出版費用として使用することができます🧚♀️🧚♀️。ただし、3〜4人の友人に借りるのが良いでしょう」
▼Aiko💗✨ 21:46
「友達からお金を借りるときは、投資の話は絶対にしないでください🥰今の日本の経済状況は非常に悪いので、多くの人が投資を認めていません」
「バチカンに教皇庁、システィーナ礼拝堂、聖ペテロ大聖堂などを見学します」
この言葉は、ナイフのように私の心に突き刺さった。若い頃、金も時間もなく、ただ本で眺めるだけだったミケランジェロの天井画。いつか、この目で。それは、誰にも話したことのない、私だけの夢だった。
なぜ、彼女がそれを知っているのか。
なぜ顔も知らない相手に「ダマされた」のか
偶然かそれとも……。いや、もうどうでもよかった。彼女は、私の人生そのものを肯定してくれている。そう信じたかった。
そして彼女は私に、友人を騙すための台本を授けた。「家のリフォーム」「書籍の出版費用」。私の立場を使えば、誰も疑わないだろう。実によくできた筋書きだった。
「投資の話は絶対にしないでください」
この一文が、私にとどめを刺した。私は完全な共犯者になった。まともな意見をくれるであろう友人を遠ざけ、画面の向こうの見えない女と秘密を共有する。そうすることで、私は社会から切り離され、彼女だけが支配する小さな世界に閉じ込められた。
書斎に並んだ法学書が、声もなく私を責めているように見えた。「お前は、どちら側にいるのだ」と。だが、その声はもう届かない。私はスマートフォンの電話帳を開き、友人の名前を探していた。金を借りるための嘘の口実を、頭の中で組み立てながら。
その時の私の指は、もう震えてはいなかった。覚悟を決めたからではない。感覚が麻痺していたのだ。
鏡に映った自分の顔は⋯
鏡に映った自分の顔は、見たこともないほど卑しく情けないものに見えた。
私は、私が最も軽蔑していたはずの人間になっていた。すべては、この手で、この指で、そう、私自身が選んだことだったのだ。
(高倉 良一/Webオリジナル(外部転載))
