多くの人が苦手意識をもつ「数学の記号」を使いこなすには?「数字」の誕生から「Σ」の使い方まで。じつは、記号は自分オリジナルのものを考えてもいいんです
わからない理由がわからない……近年の数学力の顕著な低下、さらに算数・数学嫌いという人も多くいます。これは、いったいなぜでしょうか。
「やり方」の暗記に偏った教育の影響で、試行錯誤を通じた理解が欠如し、公式の暗記に頼る傾向が強まった結果、「問題を解決しようとする能力」が低下しているのではないか、そう指摘するのが、45年以上にわたって数学教育に携わってきた数学者の芳沢光雄さんです。
「数学は“13個の考え方”で理解できる!」として、13個の「発見的問題解決法」を、パズル問題・あみだくじ・じゃんけんなどの豊富な実例から、その思考プロセスを解説。さらに、算数から中学・高校・大学への数学へと段階的に発展させていきながら、さまざまな学問分野への応用までを解説した『数学の考え方 発見的問題解決法ーーひらめきを生む思考へ』が注目されています。
「わからない理由がわからない」に答える、この画期的なこの本から、今回は混乱しやすい「数学記号」について、その上手な使い方・考え方を紹介します。
*本記事は、『数学の考え方 発見的問題解決法ーーひらめきを生む思考へ』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
そもそも数字ってなに? 記数法の誕生
数学で用いられている記号は、若い人たちが用いる絵文字と違って、感情的な表現ではなく、客観的な表現である。さまざまな記号には、それぞれの歴史がある。
紀元前8000 年頃から始まる新石器時代の近東では、円錐形、球形、円盤形、円筒形などの形をした小さな粘土製品の「トークン」というものがあった。
壺に入った油は卵形のトークンで数え、小単位の穀物は円錐形のトークンで数える、というように物品それぞれに応じた特定のトークンが使われたようである。
1壺の油は卵形トークン1個で、2壺の油は卵形トークン2個、3壺の油は卵形トークン3個でというように、1つ1つの物品に対応させる関係に基づいて使われていた。ここで注意する点は、その頃は現在の1, 2, 3, … のような数はまだなかったのである。
トークンは、紀元前8000年頃から紀元前3000年頃まで途切れることなく使われていたようである。
このトークンに抽象的な「数」の意味をもたせることで、次のような「数字」が誕生した。
さらに、紀元前3000年から紀元前2700年頃までに、シュメール人は、メソポタミアの南部に最初の都市文明を建設した。彼らが用いた楔形(くさびがた)文字には、次のような数を意味するものがあり、これにはトークンの発想も影響したと考えられている。
時計の文字盤などで目にするローマ数字は、16世紀頃からアラビア数字(算用数字)に主役の座を譲った。
524×263をローマ数字で記述するならば、「DXXIV」と「CCLXIII」の掛け算を表さなければならない。ちなみに、
D=500,XX=20, IV=4
CC=200, LX=60, III=3
である。誰が見ても算用数字の方が便利である。
数学で用いる記号は、このようにそれぞれ変化、洗練されてきた歴史をもっている。どれも、あいまいでなく、覚えやすく、見やすいという面をもつ。
記号嫌いを克服するには
数学を研究している人たちは、いろいろな言語の論文を読むことがある。見知らぬ言語の論文でも、記号と数式は共通なものが多いので、それに助けられてなんとか読むことができる。
一方で、「数学にはわからない記号や式があるから嫌い」という人たちが、とくに日本では多くいるように感じる。そのような発言をしている人たちに対しては、つとめて次のように説明している。
運転免許証をもっている読者にとっては簡単な問題かもしれないが、次の道路標識の意味はご存じだろうか。
左は「安全地帯」であり、右は「路面凹凸あり」である。
友人と一緒にドライブに出かけているとき、仮にこれらの道路標識を知らなかったら、おそらく友人にその意味を気軽に質問するだろう。ようするに、わからない記号は質問するにかぎるのである。
アメリカと日本の学生を比較して思うことのひとつに、アメリカの学生はわからないことを無邪気に質問する一方で、日本の学生はあまり質問しないことを美徳に思っているように感じるという点がある。
かつて、全国各地の教員研修会での講演をよくお引き受けしていた頃、「勇気をもってわからない数学記号や数式の意味を質問してきた生徒に対して、間違っても『そんなことも知らないのか』とか『もう忘れちゃったの』と言わないでください」とたびたび訴えていたことを思い出す。
和に関する記号「Σ」の効果的な使い方
数学嫌いの人の多くが苦手とする記号のひとつに「Σ(シグマ)」があるだろう。そこで、次の例題を考えてみよう。
例題 次の計算をせよ。
1の2乗+3の2乗+5の2乗+…+ (2n−1)の2乗
解説 一見複雑に見える式だが、この式をΣという記号を用いて表すことによって、
式1のようにシンプルに表すことができる。
ここで、Σに関する定義や公式を簡単に述べておこう。
数列 a1, a2, a3, …, an に対して、
<Σの公式>
そこで例題の式は、以下のように表せる。
このあいだの変形こそが「効果的な記号を使う」ことの成果であろう。以下、前掲のΣの公式を用いて計算すればよいのである。
この例題は、効果的な記号を使って問題解決に役立てるものとして紹介したのである。Σに関して知らなかったり、意味を忘れてしまった人であっても、Σの定義から述べた文章をゆっくり読んでいただければ、この例題もそれなりに理解できるのではないだろうか。
しかし、Σの定義を知らないまま解説にある数式を見ると、おそらくチンプンカンプンではないだろうか。数学の書籍では、用いる記号の意味を本の冒頭にまとめて書いてあるものが少なからずあるのは、それゆえである。
誤解されやすい数学記号の例
また、書籍によって意味が微妙に異なる記号や、意味を誤解しやすいものもあるので、そのようなものはなるべく最初にチェックした方がよいだろう。
その観点からとくに必要と思われるものを紹介しておこう。
a≦bは「a<b またはa=b」の意味である。したがって、3≦3も正しい表現である。ま または a=b」の意味である。したがって、「3≦3」も正しい表現である。
また、a≦bを大学数学などでは、「a≤b」というように横線が一本の表記になることもある。これだけでも、初学者で悩む人がいる。
AとBを集合とする。Aのすべての元(要素)がBの元(要素)になっていることを示す包含記号は次のように表すが、本によってその扱いは異なる。
また、右側の記号の下にもう一本の横線が入る書もある。
A⊂B, A⊆B
大学生に聞かれた謎の記号「iff」とは
英文の数学書では「iff」という3 文字が入ることがある。
これは、「if and only if」の省略形で「必要十分条件」の意味である。
数学科の教員時代にゼミの学生から「先生、イフフって何ですか。これは誤植ですか」という楽しい質問を何度か受けたことを思い出す。
自分なりの記号を作ることもできます!
記号はなにも決められたものばかりである必要はない。ここで、筆者が自分なりに用いている記号を1つ紹介しよう。
まず、多項式の計算において、次のような長いものを考える。
3×(xの4乗)−7×(xの5乗)+6+5×(xの4乗)−2x−3+4×(xの5乗)+2×(xの2乗)−(xの5乗)+9×(xの2乗)−5x−3x+2×(xの3乗)
最後は降べきの順に答えを書くとして、途中の計算でのミスを防ぐために、(xの5乗)の項は○で囲み、(xの4乗)の項は△で囲み、(xの3乗)の項は□で囲み、(xの2乗)の項はアンダーライン2 本を引き、xの項はアンダーライン1 本を引き、定数項はアンダーラインの点線1 本を引いて、次のようにして計算する。
もちろん、このように慎重に計算しても間違うことはあるが、このように計算したときのミスはかなり少なかったように思う。
6月に刊行した『数学の考え方 発見的問題解決法ーーひらめきを生む思考へ』のなかでは、そのほかの記号も取り上げながら、さまざまな数学の考え方について解説している。
数学の「なぜわからなくなるのか?」がわかるようになる「考え方」を伝授!13個の「発見的問題解決法」で「発見する数学」の楽しさへ

