カナダでは一貫23ドルなのに日本では50円…外国人だけが知っている「日本の寿司が世界最強」である理由
※本稿は、ながさき一生『最強の寿司ビジネス』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■寿司はなぜ老若男女に愛されるのか
寿司ほど、世代や国境を越えて愛される料理はありません。子どもが回転寿司で目を輝かせ、働き盛りの会社員がランチで握りを頬張り、年配の方が祝いの席で寿司桶を囲む。
日本では、寿司が「特別なごちそう」でありながら「日常の食事」としても定着しています。この“ハレとケ”の両方に存在できる懐の深さこそが、寿司が人気であり続けている大きな理由の一つといえるでしょう。
このように老若男女に愛され続ける理由はまだまだあります。
第一に、寿司には「究極のシンプルさ」がある点です。魚と米、そして酢。大きく言えばわずか三つの要素から成り立つ料理でありながら、無限の表現があります。
場合によって焼いたり煮たりもしますが、基本的には素材の良し悪しがそのまま味に反映されます。脂ののったマグロのトロ、すっきりした旨みの白身、弾力と甘みのある貝――その美しさと瑞々しさは、誰の舌にもわかりやすく届けられます。
「シンプルな料理ほど難しい」とよく言われますが、寿司はまさにその典型です。手を加えない分、素材の目利きと調和の技が問われます。
■「好きな日本食ランキング」全世代で第1位
第二に、寿司は「健康的で安心感」がある点です。魚は良質なタンパク質に魚種によってオメガ3脂肪酸を豊富に含み、酢飯には抗菌作用や整腸効果があるといわれます。
ネタや形態も様々なため、それらを選んでいけば、子どもから高齢者までが安心して食べられます。
ホットペッパーグルメ外食総研の2024年調査によると、「好きな日本食ランキング」で寿司は全世代で第1位。20〜30代では、実に8割以上が「寿司が好き」と回答しています。世代を超えて同じ料理を囲める背景には、寿司がもつ“健康と安心”のイメージがあるのです。
第三に、寿司は「多様性を受け入れる料理」である点です。江戸前の握り、関西の押し寿司、ちらし寿司、手巻き寿司、さらには海外で生まれたロール寿司まで――寿司は時代や地域の嗜好に合わせて姿を変えてきました。
その土地の米や酢、水、魚に合わせて自然に進化してきたことが、寿司の懐の深さを物語っています。「変わらない本質」と「変わり続ける柔軟さ」。この両立こそが、寿司が長く愛され続ける理由です。
■外国人からも愛される「最強の日本食」
この柔軟性は、寿司が世界で受け入れられた要因でもあります。農林中央金庫の「訪日外国人からみた日本の“食”に関する調査」によれば、日本に滞在したときに「最もおいしかった料理」の1位が「寿司」となっています。
これは、すき焼きや天ぷらを上回る人気です。また、世界的なグルメサイト「TasteAtlas」の2024年/2025年版ランキングでは、マグロ握り寿司が「世界で最も美味しい料理トップ100」に選ばれています。
欧米では“ヘルシーでスタイリッシュな料理”、アジアでは“プレミアムな日本文化”として寿司は評価されています。世界的に単なる食事を超えてライフスタイルの象徴にもなっていて、もはや“Sushi”という言葉そのものが、世界共通語になっています。
さらに、寿司が「体験としての楽しさ」を備えている点も見逃せないでしょう。カウンター越しに職人が一貫を差し出す緊張感。回転寿司で皿を選ぶワクワク感。家庭で巻き寿司を一緒につくる楽しさ。寿司は“食べる”だけでなく、“参加する”料理でもあります。
そこには、年齢や立場を超えて共感できる体験価値があります。だからこそ寿司は、食文化でありながら、人と人をつなぐコミュニケーションの媒体にもなっているのです。

■「清潔で安全」寿司は日本文化の象徴
そして、「清潔で安全」「誠実で丁寧」といった日本的な信頼の文化が、寿司という料理のブランド価値を支えています。生の魚を扱う以上、衛生や鮮度の管理はかせません。
江戸時代の屋台寿司の時代から、酢やわさびを活かした防腐の工夫がありました。現代では、冷凍技術やコールドチェーンが進化し、より高いレベルでの品質管理が実現しています。
この「言頼を築き上げてきた料理」という点は、寿司に関わる先代の方々の努力の賜物でしょう。
寿司は、単なる食べ物ではありません。自然の恵みと人の技、伝統と革新、精度と美意識――それらが一体となった、日本文化の象徴です。寿司を食べるという行為は、味覚だけでなく、五感を通じて“日本らしさ”を感じる体験でもあります。
だからこそ、寿司は老若男女を問わず、そして国を超えて愛され続けているのです。
■なぜ外国人は日本で寿司を食べたがるのか
前節で述べたように、寿司は老若男女、国を超えて好まれる料理です。そしてその「国を超えて」の部分こそ、今まさに寿司ビジネスが注目すべき重要なところでしょう。
では、なぜ多くの外国人が「日本で寿司を食べたい」と願うのでしょうか。その背景には、魚介類消費の世界的な伸び、和食文化のグローバル化、そして「本場」日本への信頼と憧れが複合的に作用しています。
まず、魚介類そのものの消費量が世界で伸びているというマクロな潮流があります。FAO(国際連合食糧農業機関)の報告によれば、世界の一人あたり魚介類消費量は20キロ/年を超える水準に達したとされています。
また、養殖による生産が漁獲による生産を上回る動きも出ており、魚介を主たる食品として捉える文化が、かつてないほどに普及してきています。こうした魚食拡大の流れの中で、「魚を生で」という寿司の形は、国際的な食トレンドとも親和性が高いといえます。

次に、健康志向の高まりと、和食のユネスコ無形文化遺産への登録が、和食及び寿司の世界的注目を後押ししました。
和食が「体に良い」「自然との調和を感じる」「美しい盛りつけ」というイメージを伴って評価されるようになり、特に欧米の富裕層・セレブリティの間では「和食=洗練された選択肢」として取り上げられることが増えました。
その代表格として、寿司は自然と「和食の顔」となり、世界の食通・グルメ市場において重要なポジションを占めるようになったのです。
■海外の寿司を知っているからこその驚き
さらに、寿司の海外普及の歴史を見ると、まずアメリカから始まったこともあり、その動きが顕著でした。
ハンバーガーやピザ、フライドポテトといった“ジャンクフード”が日常食として根づいていたアメリカにおいて、「魚を焼いたり揚げたりせず、生や締めて食べる」「脂が控えめで、酢飯なども含めて軽めの印象」という点が、“ヘルシー志向”の受け皿になりました。
つまり、寿司は「ジャンクではない」「軽くて健康的」という新しい選択肢を提示し、外食文化の中で確実に存在感を増しました。その流れが欧州やアジアにも波及し、寿司はヘルシー・スタイリッシュな食という位置づけを獲得します。
しかしながら、ここで興味深いのは、海外で食べる高級な寿司でさえ、必ずしも“本場・日本水準”とは言えない現実です。
価格が日本より高く設定されているケースがあるにもかかわらず、ネタの鮮度やシャリ、魚の種類、技術の水準において、日本で味わえるものと比較すれば洗練度に差があることが少なくありません。
知人から聞いたウワサでは、カナダで一貫23カナダドルもする寿司を食べていた人が、日本の回転寿司を訪れて一皿100円(つまり、一貫50円)の寿司を食べたところ、「今まで食べていたSushiは、何だったんだ⁉」という感想を口にした、という話もあるほどです。
■「食べる」だけでなく「体験」としての価値
こうした“海外版寿司のギャップ”こそが、「本当の寿司を日本で食べたい」という外国人の動機を強めている要因なのでしょう。
例えば、農林中央金庫の「訪日外国人からみた日本の“食”に関する調査」によれば、また日本に行ったら何が食べたいかの問いで「寿司」が58.7%と唯一過半数を超え、トップになっています。
海外展開が進んだとはいえ、その地でのクオリティが完全に日本水準に追いついていないという認識が、逆に“本場体験”としての日本訪問を牽引しているとも言えます。
言い換えれば、寿司ビジネスにおいては「海外需要がある」というだけでなく、「海外での体験価値のギャップ」が日本での消費を促進するという構造が成立しています。

わかりやすく整理すると、外国人は、魚の鮮度、魚種の多様性、職人の技、カウンターの雰囲気、といった「日本ならでは」の要素を求める欲求が強いのです。
これは、単に「旅行中に寿司を食べたい」という軽い動機以上に、「寿司という文化、技術を体験したい」という深層的なニーズを生んでいます。
こうしたニーズの構造を踏まえ、寿司ビジネスを展開する側は、海外展開だけでなく「日本での本格体験」という軸を強化するという視点も重要です。
魚介類消費の世界的拡大、和食文化の国際化、ヘルシー志向の浸透、そして海外で食べるSushiとのギャップ……これらが複合して、「なぜ外国人は日本で寿司を食べたがるのか」の答えを形づくっているといえるでしょう。
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ながさき 一生(ながさき・いっき)
魚で社会を調える人/さかなプロダクション 代表取締役 フェロー/一般社団法人さかなの会 理事長/東京海洋大学 非常勤講師
1984年、新潟県糸魚川市にある「筒石」という漁村の漁師の家庭で生まれ、家業を手伝いながら育つ。2007年に東京海洋大学を卒業後、築地市場の卸売会社に就職し、水産物流通の現場に携わる。その後、東京海洋大学大学院で魚のブランドや知的財産の研究を行い、修士課程を修了。2006年からは、ゆるい魚好きの集まり「さかなの会」を主宰。2017年に「さかなプロダクション」を創業し独立。食としての魚をわかりやすく解説する中で、ふるさと納税のコンテンツ監修、ドラマ「ファーストペンギン!」の漁業監修、寿司の絵本や図鑑の監修を手がける。水産業を取り巻く状況を良くし、魚のコンテンツを通じて世の中を良くするため、広く、深く、ゆるく、そして仲間たちと仲良く活動している。著書に『魚ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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(魚で社会を調える人/さかなプロダクション 代表取締役 フェロー/一般社団法人さかなの会 理事長/東京海洋大学 非常勤講師 ながさき 一生)
