米 パブリッシャー とメディアバイヤーが話す2024年の展望。注目は「イベント」と「ニッチメディア」

記事のポイント
2024年、広告主やエージェンシーは規模の拡大だけでなく、体験価値型のマーケティング、高品質なタレントを起用したキャンペーン、ニッチなトピックと商品のタイイン・プロモーションなどに焦点を当てている。
大手プラットフォーム(Google、Metaなど)との競争は厳しく、広告主はメディアに対し規模だけでなく専門性や体験価値の提供に価値を見出しているようだ。
専門性を高めるためパブリッシャーがニッチメディアモデルに注力する一方、経済が不安定な場合はこれが有効であるかどうかは疑問視されている。
2024年、広告主やエージェンシーは規模の拡大だけでなく、体験価値型のマーケティング、高品質なタレントを起用したキャンペーン、ニッチなトピックと商品のタイイン・プロモーションなどに焦点を当てている。
大手プラットフォーム(Google、Metaなど)との競争は厳しく、広告主はメディアに対し規模だけでなく専門性や体験価値の提供に価値を見出しているようだ。
2023年を締めくくる広告費争奪戦もいよいよ追い込みに入った。パブリッシャー全体でみると広告収入は上期に比べさほど伸びず、厳しい状況にある。
しかし、このほど取材した4人のパブリッシャー幹部によると、2024年第1四半期以降のキャンペーンに関する広告主やエージェンシーとの商談では、トンネルの先にかすかな光も見えてきたようだ。2024年の企画については7月から商談が始まっているが、ロングテール施策をめぐる議論の中心は体験価値型のマーケティング、質の高いタレントを起用したキャンペーン、ニッチなトピックと商品のタイイン・プロモーションなどで、規模の拡大だけを狙ったものではない。
「どの広告主も2024年に賭けている」と語るのは、BDGメディア(BDG Media:以下BDG)のトップで最高収益責任者を兼任するジェイソン・ウェイゲンハイム氏だ。このほど、BDGを2024年1月に退社しフットボールコ(Footballco)の北米CEOに就任すると発表した同氏は、BDGのRFP(提案依頼書)受領件数について、2024年第1四半期のキャンペーン向けRFPがすでに2023年第1四半期の実績を超えたとし(件数は非開示)、「2024年はより順調な、普通の年になりそうだ」と楽観的な見方を示した。
オーバータイム(Overtime)の最高収益責任者であるリッチ・カラッチ氏は、「関係者の動きは非常に活発で、すでに2024年分の契約が成立した案件(件数は非開示)もあるが、この勢いは年末まで続くだろう」と予想する。
ハンカー(Hunker)とウェル・アンド・グッド(Well+Good)のサイトを運営するワールド・オブ・グッド・ブランズ(World of Good Brands:以下WGB)のリンジー・アブラモCEOも業界の動きについては同様の印象だ。WGBのRFP受領・回答件数は現在、アブラモ氏がリーフグループ(Leaf Group)の最高収益責任者だった2022年同時期(WGBの分割前)を上回っているという。また、広告主側のキャンペーン予算も2024年は増額傾向にあるようだ。
規模では勝負できない
アブラモ氏の話す予算増額の背景にはおそらく、ブランド認知度関連のKPI活用やフルファネル施策など、広告主が2024年に向けて注目している取り組みの存在があるだろう。メディアバイヤーたちも、パブリッシャーとの商談における主な話題として、広告主が関心を寄せる体験価値型のマーケティングやカスタムコンテンツを挙げており、ソーシャル/検索プラットフォーム上のプログラマティック広告の大規模運用と、ラストクリック・アトリビューションモデルの活用に力を入れているという。
匿名を条件に取材に応じたあるメディアバイヤーは次のように語っている。「広告メディアの環境は変化し、選択肢が広がっている。YouTubeやTikTokなど、ブランド各社が(もともとはパブリッシャーが保有する)オーディエンスを取り込めるプラットフォームがいくつも出てきた」。
一方、匿名のメディアバイヤー2人は2021年に起きたメディア業界のM&Aブームを振り返り、「膨大なオーディエンスデータを広告主に提供するGoogle、メタ(Meta)など大手プラットフォームへの対抗手段としての業界再編の試みだった」と述べた。ただし、関係者が意図したとおりの効果は上がらなかったようだ。
UMの米国最高マーケットプレイス責任者であるステイシー・スチュワート氏によると、メディアバイヤーとしてはパブリッシャーに「ある程度の規模」を期待するが、「オーディエンスの規模だけが広告取引の決め手ではない」という。「単なる集客なら、ほかのプラットフォームを通じてほかの手段で確保できるからだ」。
その点についてはウェイゲンハイム氏もアブラモ氏も認めざるを得ないようだ。「我々がパブリッシャーとして競争力を発揮するにはどうすればいいか? プラットフォームの集客数や広告取引量といった規模では、大手に勝てないことは始めからわかっている。そのため、専門性を活かしたニッチな分野で勝負する方向にシフトしつつある」と、アブラモ氏は主張する。
もうひとり、匿名を条件に取材に応じたメディアバイヤーは、自社のクライアントが体験価値型のマーケティング手法で大々的なキャンペーンを実施するのは年に1回程度だとしながらも、「その種のキャンペーンこそパブリッシャーとの取引でもっとも価値がある」と述べた。
効果的なタレント起用で体験価値型のマーケティングを行う
WGBのアブラモ氏は、「我々が受領するキャンペーン提案依頼書にはかならず、起用すべきタレントの要件が定められている」と話す。WGBが獲得した消費財メーカー向け2024年通期のキャンペーン案件では、7月にRFPが発行され、当初45社のパブリッシャーサイトが広告出稿先として検討されたが、「最終選考に残ったのは3社で、うち2社は取引量の大きいパブリッシャーだった」という。「選考基準が規模だけであれば勝負にならなかっただろうが、競合他社には真似できない独自のタレント戦略をもつ当社が案件を獲得した。ちなみにキャンペーンのテーマはウェルネスだった」。
ギャラリー・メディアグループ(Gallery Media Group)の最高ブランド責任者であるメアリー・ケイト・マックグラス氏は、「クライアントとの商談では、ほぼかならずといっていいほどイベント関連の話になる」と述べている。「御社の体験価値マーケティング戦略はどんなものか? コミュニティをどうやって醸成しているか? といった質問を毎回のように訊かれる」。
BDGは2022年、エクスペリエンシャル事業を刷新し、インフルエンサーなどのタレントを起用して、アート・バーゼル(Art Basel)やコーチェラ(Coachella)といった一大イベントでパブリッシャーとしての存在感を高める施策を打った。ウェイゲンハイム氏によると、2023年末には、同社の総売上高に占めるエクスペリエンシャル事業の構成比が前年比8倍以上になる見込みだという(具体的な数字は非開示)。
2023年のイベントが広告主に好評だったため、BDGは広告事業の方向性を変えつつある。Webサイトのトラフィック依存度が高いディスプレイ広告を縮小し、体験価値型のマーケティング、タレント、プレミアムコンテンツに重点をおくようになった。ウェイゲンハイム氏によれば現在、BDGのWebサイトに掲載されるディスプレイ広告の収入は、同社の直販広告収入のわずか15%にとどまっているという(前年比の数字は非開示)。
「トラフィックはどの企業のWebサイトでも減少傾向にある。2023年は、コムスコア(Comscore)の調査結果だけに頼って自社サイトの成長力を推し量ろうとすると、間違った答えが出てしまう」とウェイゲンハイム氏は指摘する。「我々は賢明な戦略的投資をしてきた。広告主が引き続き当社を選んでくれている理由は、Google、Facebookなどの大手プラットフォームや従来型テレビネットワークが扱わない、あるいは扱えないものを当社が提供できるからだ」。
BDGは2024年、エクスペリエンシャル事業をさらに拡大し、パリ五輪、F-1、スーパーボウルなど、10を超える広告需要の高い大会におけるポップアップイベント開催を目指す。ただし、「この種のイベントの多くはスポンサーがつくかどうかで開催が決まるため、すべて実現するとはかぎらない」と、ウェイゲンハイム氏は言う。しかしながらBDGの担当者は、先を見越した営業活動で体験価値型の案件を売り込んでおり、今後もクライアントへの提案を続ける方針だ。
不安定な経済環境
「ニッチメディア」モデルへの注力は、パブリッシャーに恩恵をもたらすだろうか。もし2024年に再び景気が停滞した場合、事は期待どおりに運ばないかもしれない。
米DIGIDAYが10月、某メディア企業の幹部で投資家でもある人物を取材し、メディア業界へのベンチャーキャピタル投資の状況について質問したところ、こんな答えが返ってきた。「マクロ経済の悪化は終わるどころか、まだ始まったばかりだと私は考えている」。
広告予算に制約の圧力がかかれば、マーケターたちは過去にもそうしたように、顧客のニーズをきめ細かく反映したカスタムキャンペーンに見切りをつけたり、高コストの体験価値型の施策を延期したりせざるを得ないだろう。
[原文:Media Briefing: In 2024, publishers and buyers say events and niche media will win ad dollars over scale]
Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)
