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「東京大会を実現するために、われわれはいくつかの犠牲を払わなければならない」

国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長の発言が波紋を広げている。IOCは、犠牲を払うのは「オリンピック・コミュニティの中にいる全員」で、「日本国民に向けての発言ではない」と釈明。しかし、日本国民から“五輪反対”の声が日に日に強くなっているなか、火に油を注ぐ発言だったのは間違いない。

朝日新聞社が5月15、16日に実施した世論調査では、東京五輪開催について「中止」が43%、「再び延期」が40%。一方で「今夏に開催」はわずか14%となっている。

大幅に削減されたとはいえ、選手や関係者あわせて約7万8千人が来日する予定となっている。日本国内のワクチン接種が遅々として進んでおらず、長引く休業要請で飲食業や観光業は疲弊。多くの地域で医療体制は逼迫状態が続いている。いくらIOCが否定しようとも、そのような状況下での五輪開催は日本国民の“犠牲”なくして成立しないのは明らかだ。

「バッハ会長は五輪開幕直前の7月12日に来日することが発表されています。その際には、天皇陛下と会見する予定となっています」

そう語るのは宮内庁関係者。バッハ会長は5月に来日予定だったが、東京都の緊急事態宣言延長により延期になっていた。このときにも陛下への謁見を求めていたという。

「バッハ会長は7月の来日でも、陛下との会見を要請しており、すでに宮内庁も日程を押さえているようです。天皇陛下は東京オリンピック・パラリンピックの名誉総裁を務めているため、バッハ会長から面会を要請されれば当然、応じられることになるでしょう。’16年に来日した際には、バッハ会長は上皇ご夫妻と会見しています。今回の来日でも、陛下だけでなく雅子さまもそろっての会見となる可能性があります」(前出・宮内庁関係者)

■会見で五輪についての言及を避けられ…

天皇陛下にとって両大会の名誉総裁は特別なお役目なのだという。元宮内庁職員で皇室ジャーナリストの山下晋司さんは「天皇は国内の団体等の名誉総裁職に就くことはありません。それだけにオリンピック・パラリンピック大会の名誉総裁就任は特別です」と語る。

陛下ご自身も以前から東京五輪への思い入れは強かった。’18年にはパラリンピアンの道下美里選手の伴走者を務め、赤坂御用地をランニングされたこともあった。障害者スポーツについては、雅子さまや愛子さまとご一緒に観戦されるなど、関心を寄せられてきた。

また、東京五輪の開催が決まってから、陛下は誕生日会見で毎年のように東京五輪について言及されてきた。

昨年2月の会見では「私にとって、東京オリンピックは初めての世界との出会い」と、’64年の東京大会を競技場で観戦された思い出を感慨深く振り返られた。そして「この世界的なスポーツの祭典が、関係する方々の尽力により、つつがなく成功裡に終えられることを願っています」と、期待をこめておられた。

だが、この会見からほどなくして日本でも新型コロナの感染が急拡大。東京五輪は1年の延期となった。そして今年の会見で、陛下は東京五輪についていっさい言及されなかったのだ。

前出の宮内庁関係者は、陛下の心情をおもんぱかる。

「国民の中でも五輪開催に反対の声が増えつつあったなか、これまで五輪を応援されてきた陛下による、いわば“無言の抗議”だったのではないでしょうか」

■コロナ禍に苦しむ国民を心配されて

その代わり、今年2月の会見でお言葉の大半を占めたのは、コロナ禍に苦しむ国民への心配だった。

「この1年は、コロナ禍に翻弄されてきました。愛する方を失ったご家族やご友人のお悲しみはいかばかりであったことでしょう。心から哀悼の意を表します」

「医療従事者の皆さんが、新型コロナウイルス感染症が流行し始めてからというもの、自らの感染の脅威にさらされながらも、強い使命感を持って、最前線で、昼夜を問わず、患者さんの命を救うために尽力いただいていることに心から感謝いたします」

陛下はさらに、保健所の職員、高齢者や障害者、生活困窮者や生活困窮世帯の子供たちといった社会的弱者とその支援者にまで、こまやかに寄り添うお言葉を述べられたのだ。この会見以降も、陛下は東京五輪について一度も公の場で言及されていない。

「天皇皇后両陛下はもちろん、東京大会のために努力を重ねてきたオリンピック・パラリンピック選手たちの活躍が見られることを願われていることでしょう。しかしそれ以上に、このまま東京五輪を強行開催すれば、医療機関や国民生活に多大な影響を及ぼすことを、強く心配されているはずです。国民の不安の声に耳を貸そうとせず、五輪開催を強行しようとするIOCや菅政権の姿勢に、両陛下は懸念を抱かれているに違いありません」(前出・宮内庁関係者)

名誉総裁という立場への責任感と、国民の命と生活を守りたいというお気持ちの“板挟み”で、天皇陛下と雅子さまはいまも苦悩されている――。