G20大阪サミット」の開催にともなう交通規制の影響で、大阪に発着する高速バスの多くが4日間にわたり運休や経路変更を余儀なくされます。高速バスのシェアが大きい地域では、その影響は深刻です。事業者はどう対策するのでしょうか。

大規模交通規制で「定時運行が困難」

 2019年6月27日(木)から30日(日)のあいだに大阪を発着する高速バスの、運休や経路変更が各社から発表されています。これは、6月28日(金)と29日(土)に大阪市で「G20サミット(主要20か国・地域首脳会議)」が開催されるのにともない、阪神高速などで大規模な交通規制が予定されているためです。


JR大阪駅高速バスターミナルに掲出されたサミット期間中の運行案内。6月27日から30日のあいだは、ここに記載されている便のみが発車する(成定竜一撮影)。

 今回の交通規制が大掛かりになる理由は、まず、来日する首脳らの数が多いことです。3年前の2016年に開催された「伊勢志摩サミット」は、「G7」であり、欧米6か国と欧州連合(EU)首脳らが来日しました。今回は「G20」で、それに加えて韓国や中国、さらにはアルゼンチンや南アフリカなど世界各地から首脳が集結し、各国の政府関係者や報道関係者など、あわせて3万人が大阪に滞在するといわれています。首脳らは、空港と市内のあいだはもちろん、メイン会場と、各宿泊ホテルとのあいだを往来しますから、関係する道路で終日通行止めなどの規制が実施されるのです。

 もうひとつの理由が、大阪の道路事情にありそうです。サミットのメイン会場となる「インテックス大阪」(大阪市住之江区)は、人工島である咲洲に位置し、東京でいえば、お台場の「東京ビッグサイト」に当たります。ビッグサイトのある臨海部を貫く首都高速湾岸線は、有明JCTや辰巳JCTなど数か所で他路線と連絡していますが、阪神高速の場合、インテックス大阪のある臨海部を貫く湾岸線と、大阪市の中心部に通じる路線をつなぐJCTは2か所しかありません。また、市の中心部に位置する1号環状線は一方通行のため、一部区間だけを通行止めにするのは難しく、全線通行止めとなります。

 そのため高速バス各社は「定時運行が困難」だとして、サミット期間とその前後に相次ぎ運休や経路変更(停留所休止)を予定しており、相当な路線数になりそうです。北は大阪〜鶴岡・酒田線(南海バス/庄内交通)から、西は熊本線(近鉄バス/九州産交バス)まで範囲が広いほか、特に大阪から首都圏方面は多数の事業者が夜行便を運行しており、影響する便数はかなりの数に上ります。

地方の「大阪への足」に大きな打撃

 運休を決める前に予約を受け付けていた高速バス事業者もあり、当該予約についてはメールなどで個別に連絡するとしています。また2019年6月12日時点でも、共同運行先との協議や、代替となる停留所の調整を続けていて、まだ運行予定が決定していない事業者、路線も残っています。たとえ今回のような事情があっても、法令上の取り扱いが「乗合バス(路線バス)」である高速バスでは、代わりの停留所を確保するにも警察や自治体など多くの関係者との協議が必要なのです。

 もっとも、社会的な影響の大きさは、路線のタイプによっても異なります。長距離夜行路線、たとえば大阪と首都圏や九州を結ぶ路線は、京都や神戸などを経由する便が多く、期間中は京都や神戸を起終点に変更できます。また、このような長距離夜行路線は、高速バス全体でみれば1割程度と、比率は決して大きくありません。

 一方、高速バスのほとんどを占める昼行路線については、乗客への影響が大きいものもありそうです。クルマ社会が定着している地方では、高速道路のインターチェンジ付近などに大きなパーク&ライド駐車場(自家用から高速バスへの乗り換えを目的とした駐車場)が備わっていることもあり、片道3時間から4時間程度の中距離路線が「大都市への足」として定着しています。岡山(25往復)、鳥取(20往復)、高松(47往復。各社合計)など、大阪への高速バスが高頻度に運行されている中四国の各都市では、運休の影響は小さくないはずです。


明石海峡大橋。徳島と大阪方面を結ぶ高速バスも頻繁に往来する(佐藤 勝撮影)。

 なかでも、とりわけ影響が大きそうなのが徳島です。徳島は、大阪のテレビ局の放送エリアに含まれるなど京阪神と関係が深い一方、両地域を鉄道で移動する場合は瀬戸大橋経由となり、かなりの迂回を強いられます。もとは直通する高速船が運行されていましたが、1998(平成10)年に明石海峡大橋(神戸淡路鳴門道)が開通して以降は、高速バスが徳島と大阪を結ぶ「メインの交通手段」となりました。徳島駅前と大阪市内(梅田、なんば)を結ぶ高速バスは、各社合わせて60往復(土休日ダイヤ)、週末を中心に続行便(2号車以降)も多く設定されるほか、徳島駅前以外からも多数のバスが運行されています。これが、6月27日(木)から30日(日)の4日間、全社のほぼ全便で運休となるのです。

「神戸で鉄道に乗り換えて」

 徳島と大阪のあいだでは、大塚製薬(鳴門市が発祥の地)や日亜化学工業(LEDの世界的メーカー。阿南市に本社)を筆頭とする徳島の企業からの(または徳島の企業への)出張や、「ふだんは地元で買い物をするけれど、おしゃれな服は大阪の有名店で」というショッピング需要など、多くの移動があります。もともと太い人的交流があるため、特に週末には学生や単身赴任者、あるいは親の介護など様々な帰省需要が重なります。高速バス大阪〜徳島線の全便運休は、徳島の人の生活に多大な影響を与えることでしょう。

 そのため、各バス事業者は今回の事態を受け、「神戸〜徳島線と鉄道(神戸〜大阪)の乗り継ぎを」と呼び掛けています。神戸の中心市街地、三宮で神戸〜徳島線のバスが発着する三宮バスターミナル(ミント神戸)や、神姫バス三ノ宮バスターミナルは、JRや阪神、阪急の駅から徒歩ですぐ。神戸淡路鳴門道の本線上にある高速舞子バス停も、エレベーターとエスカレーターでJR舞子駅および山陽電鉄の舞子公園駅と結ばれており、乗り換えは簡単です。神戸〜徳島線を運行する神姫バスのバス事業部営業課長 佐藤 匡(ただし)さんは、「共同運行する徳島バス、阪神バス、山陽バスと協力し、続行便を最大限設定して、京阪神と徳島県のあいだの移動確保に努めたい」と話します。

 バス事業者から見ると、このような大型運休は経営的に大きな痛手です。たとえば海部観光(徳島県美波町)は、2000年代に高速バスへ後発参入した事業者ながら、徳島〜大阪線を14往復にまで増便させ、いまでは同路線が会社の屋台骨となっています。徳島〜神戸間に区間を短縮しての増便も検討しましたが、容易ではありません。そこで、「全面運休は自社の乗務員が一堂に会する数少ないチャンスでもある」(同社の打山 昇会長)と受け止め、導入準備を進めている最新型の運行管理システムの説明も兼ねて、6月27日(木)からの4日間で乗務員向けの安全運行研修を実施するということです。


梅田の阪急三番街バスターミナルにおける発車案内。四国方面へのバスが頻発する(成定竜一撮影)。

 2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」においては、今回と同様に首都高速の大規模交通規制が予定されると同時に、選手や運営スタッフ、観客を輸送するバスの不足が予測されています。路線タイプごとの社会的影響を考慮しながら高速バスの一部を運休とし、オリンピック・パラリンピック輸送に転用することもひとつの案だと考えられます。バス業界には、このたびの「G20大規模運休」を乗り切ったあと、その影響を見極め、今後の参考にすることが求められています。

【写真】空港リムジンバスも運休多数


伊丹、関空行きのリムジンバスが発着する梅田の新阪急ホテルバスセンターにて。6月27日から30日までのあいだ、ほとんどの便が運休となる(成定竜一撮影)。