広島テレビ放送

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 被爆者の平均年齢が86.66歳と高齢化が進み、記憶の継承が課題となる中、その記憶を形として残そうと取り組む高校生たちがいます。取り組んでいるのは「被爆後のにおい」の再現です。

■八幡 照子 さん
「ピカーっと空一面に光りました。ものすごく青白い光。むせかえるような、やけどのにおい。教室にも廊下にもね。」

 被爆体験に真剣な表情で耳を傾ける高校生たち。彼らは「探究」の授業であるプロジェクトに取り組んでいました。
 それは・・・。

■広島井口高校3年 湯村 直汰 さん
「今から、においを鼻のところに持っていくので、お願いします。」

 被爆者の記憶の中に残る「被爆後の街のにおい」を再現しようというものです。
 私が彼らを初めて訪ねたのは、2026年1月のことです。

■広島テレビ 塚原 美緒 記者
「こんにちは。」

■広島井口高校3年の3人
「こんにちは。」

 広島井口高校に通う3人の生徒。リーダーの田村さんは被爆三世。そして、いつも一緒にいる友人の湯村さんと森政さんです。

■田村 悠真 さん
「被爆の体験を伝えられる方もどんどん減ってきていて、そこで、僕たちがにおいというものをVRと組み合わせたら、より深く当時の被爆者の方々の体験を、後世まで伝えられるんじゃないかと思って。」

 彼らが手掛かりにしているのは被爆者の証言です。公開された映像を見ながら、においにまつわる言葉を拾い集めていきます。

■湯村 直汰 さん
「ああ、ここじゃここじゃ。あ、ここ、ちょうど。」

 これまでに37人の被爆証言から、言葉を集めてきました。

Q.例えば、どんなにおいの証言?
■田村 悠真 さん
「ここに書いてあるものでいえば、やっぱり死体のにおいとか腐敗のにおい。」

 集めた証言から、どうにおいを完成させていくか。模索するなかで出会ったのが、香りを使ったアート表現をする嗅覚アーティストの上田麻希さんです。

嗅覚アーティスト 上田 麻希 さん
「すごく素晴らしい試みだなというのが一言での印象ですね。こういった香りを作ってくださいっていうイメージを共有するために、何かくれませんかって私は頼んだところ、『これとこれ』っていうような要素を教えてくれて、その要素の通りに作った。」

 高校生たちが依頼した、においの構成要素は4つです。「腐敗」「焦土」「爆発」そして、「相生橋周辺の水っぽいにおい」。これらをブレンドします。
 早速、確かめてみます。

■森政 圭悟 さん
「煙っぽい感じが自分はしたかなと思います。」

 私も体験させてもらいました。

■塚原 美緒 記者
「薬品っぽいというか、ハーブのような香りかなと一瞬思ったんですけど、ちょっときついにおいいが、その奥に隠れている感じがしましたね。」

 においを再現するための香料は、安全なもののみを使っていて、体験する人の心の負担にならないよう、あえてマイルドに作られています。ただ、それで被爆者の記憶に近づけるのか。高校生たちの間で意見が分かれました。

■田村 悠真 さん
「後世に残すってことが一番大事だと考えいて、僕は、まだ(においを)強くしてもいいんじゃないかなと思っていて。」

■森政 圭悟 さん
「結構今のままでもいいかなと思ってるんですけど、(感じ方は)やっぱ個人差あるので、そこが難しいですよね。」

■湯村 直汰 さん
「やっぱり強くしないほうが、万人が体験しやすい環境になるんじゃないかと思います。」

 より印象に残るにおいで、被爆の記憶を伝えたい田村さん。一方で、伝えたいからこそ、多くの人に受け入れられるにおいであるべきと考える森政さんと湯村さん。同じ方向を見つめながらもその道筋は、ひとつではありません。
 そして、意見を聞きたいと訪ねたのは8歳のときに被爆し、その体験を語る八幡照子さんです。八幡さんの被爆証言に3人は耳を傾けます。

■八幡 照子 さん
原爆のにおいをみなさんが研究されると聞いて、私は本当に驚きました。絶対に、このにおいがあってはならないということで研究していらっしゃることに頭が下がります。」

 3人の申し出を温かく迎え入れてくれた八幡さん。被爆を題材にしたVR映像を見ながら、においを体験してもらいます。

■湯村 直汰 さん
「どうですか?」
■八幡 照子 さん
「違う。」
■湯村 直汰 さん
「違いますか?」
■八幡 照子 さん
「むっとするようなにおいで、むせ返るようなにおい。今のは・・・」
■湯村 直汰 さん
「こんなんじゃなかったっていう感じですかね?」
■八幡 照子 さん
「こんなんじゃなかった。」

 八幡さんの記憶との隔たりが浮かび上がりました。細かく検証していきます。

■八幡 照子 さん
「これは、においが抑えられていますね。もっと、もっと強烈ね。」

 八幡さんの記憶と最も異なっていたのは、“腐敗”の要素です。

■八幡 照子 さん
「たんぱく質のものが腐るにおい。やけどが膿(う)んで、腐っていくというか、それはもう強烈ですよね。」

 貴重な証言を得た3人、率直な思いを尋ねました。

■広島井口高校3年 田村 悠真 さん
「においの強さをどうするか、ぼくたちもずっと考えていて、このままのにおいの強さでいくのか、もっと濃くするのか、もっと控えるのか、その点はいかがですか?」

■八幡 照子 さん
「においも少し段階をつけて、強いのから弱いのから。『こんな感じですか?』『もう少し強くしてもいいですか?』と聞けば、(体験する)本人が、強くものを嗅ぎたいっていえば、『ちょっと強いですけど』というような感じで。そういうので、いいかもしれないね。」

■広島井口高校3年の3人
「本日はどうもありがとうございました。」
■八幡 照子 さん
「ありがとうございました。」

 八幡さんの言葉を受け、3人は新たな方向性を見出しました。

■広島井口高校3年の3人
「めっちゃ悩みに悩んで、いまここまで来た。ベストが分からないから。分からんよね。」

■広島井口高校3年 森政 圭悟 さん
「人それぞれ、においの感じ方も違ってくるので、それに合わせた段階を作るのは、これから考えていくべきかなと思いました。」

 被爆者の記憶を形にし残していくため、自分たちに何ができるのか。高校生たちの模索は続きます。

【2026年8月3日 放送】