受け取る年金額を増やしたいなら、受給開始を65歳より遅らせる「繰下げ受給」が効果的だ。さらに、「片方繰下げ」をすれば節税にもなるという。「老後のお金」をテーマに情報発信する社労士みなみさんの著書『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』(Gakken)より、一部を紹介する――。(第2回/全3回)
写真=iStock.com/Jelena Danilovic
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■「1階だけ」「2階だけ」繰り下げもOK

みやおチャ太郎
会社員(58歳)。子どもは独立し、パート勤務の妻と2人暮らし。定年が近づき、「退職金はどう受け取るのがいいのか」「年金だけで暮らせるのか」と気になることが増え、定年前後のお金に詳しいみなみ先生に相談することになった。

――みなみ先生、繰下げで年金を増やすことを検討しておきたいのですが、繰下げは、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々にできるんですよね?

はい。受け取る順番の制限もありません。つまり、繰上げ受給のように「セットでしかできない」という決まりがないので、より柔軟に設計できるんですよ。

――どちらを先に受け取るかも、自分で選べますか?

はい、その通りです! でも、「年金は全部まとめて繰り下げるもの」と思っている人も、まだ結構多いんですよ。2階建ての年金なら、どちらか一方だけを繰り下げることができます。

――なるほど。順番も関係ないし自由度が高いですね〜。

■年金には年214万円の非課税枠がある

それに、繰下げを考えるときは、税金のことも意識しておくといいですよ。例えば、片方だけ繰り下げて受給額を調整することで、結果的に税金を抑えられるケースもあります。

――そもそも年金にかかる税金についてわかっていません……。

まずは、基本からお伝えしますね。老齢年金は、受け取ると「雑所得」として扱われて、所得税の対象になります。ただし、「公的年金等控除」があって、一定額までは非課税になります。

――具体的にはどのくらいの控除が受けられますか?

年金だけを受け取っている場合、「公的年金等控除額」が110万円(※1)、さらに「基礎控除」が104万円(※2)あります(合計所得金額による条件あり)。この2つを合わせると、年金収入が214万円以下なら所得税はかかりません。

※1 65歳未満の公的年金等控除額は60万円
※2 2026年税制改正後の金額(2026〜2027年に適用予定)

■「片方繰下げ」なら節税+年金増額

――つまり、年金が214万円以下なら所得税ゼロってことですか?

そうなんです。例えば、両方を繰り下げると、その間年金は受け取らないので、この非課税枠を使わずに過ごすことになります。

出所=『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』

――なるほど……。繰下げ中にその枠が無駄になるってことですね。

その通りです。そこで使えるのが、「片方繰下げ」という選択肢です。図表2のように、両方受給せずに、片方繰り下げることで、老齢厚生年金140万円を非課税で受け取ることができます。

出所=『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』

――税金を減らせるのですね。繰下げするから年金も増えますよね。

はい。この例で5年繰り下げると、繰下げ期間中は、140万円ですが、70歳以降は、老齢基礎年金が増えて総額253万6000円です。

――老齢基礎年金は42%増額するから、年額33万6000円多く受け取れるのですね。

はい。節税もできて、年金も増える。まさに“いいとこどり”できるのが、「片方繰下げ」の強みなんです。一方で注意点もあります。

加給年金210万円をもらえるはずが…

――意外な落とし穴のことですね。具体的にはどんなことですか?

加給年金や振替加算との関係です。

――配偶者が65歳までもらえる家族手当みたいなものですよね?

そうです。加給年金(第1回)は老齢厚生年金にくっついて支給されるので、老齢厚生年金を繰り下げると、その間は加給年金も受け取れません。例えば図表3のように5年間繰り下げると、その分まるごと加給年金がカットされます。

出所=『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』

加給年金+年金増額を実現する裏ワザ

――約210万円はちょっと痛いかも……。できれば避けたいです。

これを避ける対策として有効なのが、「老齢基礎年金だけを繰り下げる」という方法なんです。

――この場合も片方繰下げが裏技になるんですね!

図表4のように、夫は老齢厚生年金を65歳で受け取り、老齢基礎年金のみを70歳まで繰り下げれば、「加給年金の受取り」「繰下げによる増額」と両方のメリットを受けられます。

出所=『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』

――なぜこのようなことができるんでしょうか。

加給年金は老齢厚生年金に対する加算で、セットで支払われるからです。つまり、老齢基礎年金とは連動していないんです。

――だから、老齢基礎年金を繰り下げても影響を受けないんですね。

加給年金も受け取りたいし、繰下げをして年金額も増やしたいというときは、老齢基礎年金のみを繰り下げればいいわけです。

――両方を繰り下げて損をするのは避けたいので、覚えておきます!

■振替加算の優先度は世代によって違う

一方で、振替加算(第1回)はどうでしょうか。図表5を見てみましょう。振替加算は配偶者(この場合は妻)の老齢基礎年金に紐づく加算です。妻は65歳から老齢基礎年金を受け取り、繰下げをする場合は老齢厚生年金のみを繰り下げれば、振替加算を受け取ることができます。

出所=『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』

――ですが、確か振替加算はわたしたち世代ではもらえないか、もらえたとしてもごくわずかな金額でしたよね。繰下げをして年金額を増やすほうがお得なこともあるんでしょうか。

そうなんです……。特に若い世代になるほど、受け取れる金額は少ないので、シミュレーションが必要になりますね。

■夫と妻、どちらが先に繰下げすべき?

「片方繰下げ」ですが、夫婦世帯では、どちらか一方の年金だけを繰り下げる方法もあります。一般的に、夫と妻のどちらが繰り下げるとメリットがあると思いますか?

――うーん……正直、わからないです。どちらなんでしょうか?

「年金受給額が少ない人」です。現状では、図表6のように、年金が2階建ての場合でも女性の方が少ない傾向にあります。

出所=『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』

――でも、どうして年金が少ない人の方が繰下げのメリットが大きいんですか?

受給額が少ないと繰下げで増額しても、所得税非課税枠214万円(住民税は155万円※)を超えにくくなります。だから増額分をそのまま受け取りやすく、世帯全体で見ても効果的なんですよ。

※155万円の年金の壁については本書の4章で詳しく解説

――なるほど〜。税金の面に関係してくるんですね。うちの場合は、妻の方が年金額が少ないので、妻が繰り下げる方がよさそうですね。

■妻が繰下げ受給するもう一つのメリット

そうですね。現在50代後半の世帯では、そうしたケースが多いと思います。さらに、平均寿命の違いなどを考えると、年金を長く受け取る可能性が高い女性が繰り下げるのは、自然な選択ともいえます。また、年金額が少ない人は、繰下げで増額しても、税や社会保険料の負担はあまり増えません。

社労士みなみ『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』(Gakken)

――つまり、総合的に見て年金受給額が少ない人を繰り下げる方が、合理的なんですね。

そうなんです。さらに、どちらかが先に亡くなるケースを考えても、繰下げの順番は大事です。遺族厚生年金は、亡くなった人の「65歳時点の年金額」が基準になるので、繰下げで増えた分は反映されません。

――えっ、じゃあ……。増えた分は、遺族には引き継がれないってことですね。それなら、遺族年金を受け取る可能性が高い方が繰り下げたほうが、世帯全体で見ると無駄がないということですね。

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社労士みなみ(しゃろうしみなみ)
社会保険労務士 YouTuber
年金の最大化と、社長・従業員の退職金設計、企業型DCの導入支援を専門とする社会保険労務士。登録者29万人を超えるYouTubeチャンネルを運営し、主に50代〜60代の会社員に向けて、定年前後のお金の不安を解消する情報を発信している。大手銀行資産運用アドバイスに携わり、20代から長年にわたり資産運用を継続。50代で社労士として開業し、主婦としての実感を生かした「生活者目線」の解説が支持されている。著書に『年金最大化生活』(アスコム)、『50代からのお金の新常識』(かや書房)がある。
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(社会保険労務士 YouTuber 社労士みなみ)