水原受刑者のスキャンダルについて再検証が進んでいる

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 ドジャース・大谷翔平(32)の銀行口座から約1700万ドルを盗んだとして、元専属通訳・水原一平受刑者(41)が解雇されたのは2024年3月のことだった。水原は現在、米ペンシルベニア州の刑務所に収監されているが、裁判を終えてもなお、事件の真相が再び注目されている。米スポーツ専門局のESPNは7月28日(米時間)から『大谷翔平を裏切った男』と題する音声ドキュメンタリーを公開し、水原受刑者が違法なスポーツ賭博に手を染め、大谷の信頼を裏切った背景について詳報すると告知している。

【写真を見る】水原受刑者の高校時代の写真。高校を退学になっていた。HPから削除された「卒業生紹介」のページ

 事件が発覚した直後、大卒という学歴を詐称していたことが話題になった水原だが、検証を進めると、大学どころでなく高校も退学していた疑惑が、ノンフィクションライター・水谷竹秀氏の取材で明らかになった。水原は一体どこまで自らを偽っていたのか、そして大谷や球団はなぜそれに気づかなかったのか--水谷氏がレポートする。(以下敬称略)

高校を「退学になった」

 水原が解雇された当時、問題になった詐称疑惑の対象は「カリフォルニア大学リバーサイド校卒」という学歴だった。米メディアが「イッペイ・ミズハラという生徒が在籍した記録はない」とする大学側の発表を報じたことで明らかになったが、「高卒」については触れられていなかった。

 水原が通っていたのはダイヤモンドバー高校で、同校ホームページにある「優秀な卒業生」一覧にはかつて、水原の顔写真とともに次のように紹介されていた。

水原一平はエンゼルスに所属する日本語の通訳者。大谷翔平の通訳者を務めていることでよく知られ、チームメイトとの交流の橋渡しやメディアへの出演調整なども行っている(以下略)〉

 確かに水原は「卒業生」として紹介されており、それを引用するメディアもあった。ところが水原をよく知る関係者は、「水原氏は実は、ダイヤモンドバー高校を卒業できませんでした。退学しています」と証言する。卒業予定だった同校の2003年卒業アルバムには水原の顔写真が掲載されているが、その点については「卒アル制作委員会に掲載を申し出た可能性がある」と説明。米国では当時、そのような"裏技"が通用していたという。

 この退学証言を裏付ける裁判資料もある。水原の代理人であるマイケル・フリードマン弁護士が米連邦地裁に提出した資料には、水原が幼少期に英語の習得に苦労していた経緯に続き、次のように記されている。

〈彼の学業における困難は高校まで続き、ある高校から最終学年時に(別の学校へ)移り、最終的には卒業できなかった。だが、GEDは取得した〉

 GEDとは「General Educational Development」の略で、高校卒業と同等の学力を保持していると証明する資格のことを指す。「ある高校」は資料では明記されていないが、ダイヤモンドバー高校の可能性が高い。

 水原はダイヤモンドバー高校を何らかの事情で退学し、高校卒業証書を取得できなかった。そして転校した学校に通いながら、それに代わる資格であるGEDを取得したとみられる。

「優秀な卒業生」一覧から削除

 GEDは、ざっくり言うと日本でいう「高卒認定」のようなものだ。GED取得者は実生活で高校卒業者とほぼ同じ待遇を受けられるが、履歴書には「〇〇高校卒業」とは書けない。

 銀行詐欺罪などに問われた裁判に出廷した水原は、裁判官から就学年数を尋ねられた際、「13年」と答えている。「それは高校卒業までか?」と追加で問われると、「はい、カレッジにも少し」と続けた。

 水原は実際、カレッジには通っていたが、それは転校先の学校を卒業するために必要な単位を取得する目的だったとみられる。米国では、カレッジで取得した単位を、高校卒業に必要な単位に振り替えられるシステムになっている。ゆえにこのカレッジは、高校卒業後に入学した大学という位置付けではない。

 ダイヤモンドバー高校は事件発覚後、ホームページから水原の紹介部分を削除した。水原は本当に同校の卒業生だったのか。退学した疑惑についてメールで回答を求めると、同校を管轄する教育機関に問い合わせるよう返信があった。その教育機関に尋ねると、メールでこう答えるだけだった。

「いかなる生徒の個人情報についても、確認や公表はしていない」

 日本ハムで通訳としてのキャリアを積み、大谷の渡米とともにエンゼルスに入団した水原。その際、エンゼルスや大谷は、水原の"素性"をどこまで正確に把握していたのだろうか。

 7月28日からは、ESPNが独自取材による音声ドキュメンタリーを公開する予定だ。水原の生い立ちや子供時代にも触れられるが、また新たな真実が明らかになるのだろうか。

【プロフィール】
水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)などの著書がある。10年超のフィリピン滞在歴を基に「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材を続け、ウクライナでの戦地ルポも執筆。