【世界初確認】雌のみで繁殖する外来ザリガニ「ミステリークレイフィッシュ」から「外来共生貝形虫」 沖縄での分布拡大も明らかに
岡山大学大学院環境生命自然科学研究科博士後期課程の咸成南(ハム・ソンナム)大学院生と、学術研究院環境生命自然科学学域の中田和義教授らの研究グループは、沖縄県に侵入した特定外来生物ミステリークレイフィッシュの分布状況と、それに共生する外来貝形虫について調査を実施しました。
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その結果、ザリガニ類に共生する小型甲殻類の一種である外来貝形虫 Ankylocythere sinuosa を、ミステリークレイフィッシュから世界で初めて確認しました。
この研究の成果は、2026年7月13日および7月22日に米国の国際学術誌「Journal of Crustacean Biology」の電子版に2編の論文として掲載されました。
ミステリークレイフィッシュとは
ミステリークレイフィッシュ(Procambarus virginalis)は、1990年代にドイツの観賞用生物として流通する過程で知られるようになった外来ザリガニです。最大の特徴は、雄を必要とせず雌のみで繁殖する「単為生殖」を行う点にあります。動物では珍しい「絶対単為生殖(obligate parthenogenesis)」を行うため、全ての個体が雌であり、単独個体が自然環境へ放流された場合であっても新たな個体群を形成できる可能性があります。また、生まれる子は母親とほぼ同一の遺伝情報を持ちます。
こうした繁殖特性から侵略的外来種として世界各地で問題となっており、ヨーロッパやアフリカ、アジアなどで急速に分布を拡大しています。日本では2006年に北海道、2016年に愛媛県で野外から記録され、生態系への影響が懸念されることから2020年に特定外来生物に指定されました。近年では愛媛県での再確認に加え、2024年には沖縄県那覇市の天久ちゅらまち公園でも確認され、国内での定着や分布拡大への懸念が高まっていました。
沖縄県内での分布拡大を確認
この研究では、沖縄県内の3地点、那覇市天久ちゅらまち公園(既知産地)、那覇市内の小学校に隣接する水路型ビオトープ(新確認地点)、浦添市内の水域(新確認地点)においてミステリークレイフィッシュの調査を実施しました。
その結果、天久ちゅらまち公園に加え、新たに那覇市および浦添市の2地点でも本種の生息を確認しました。これらの地点は、それぞれ天久ちゅらまち公園から約1kmおよび約6.4km離れていて、特に浦添市の地点は異なる水系に位置していました。このことから、本種が沖縄県内で従来考えられていた以上に広く分布していることが明らかとなりました。
また、那覇市内の水路型ビオトープでは、計43個体の稚ザリガニを抱えた抱稚仔個体が捕獲されました。天久ちゅらまち公園以外の地点においてもこの種が野外で再生産していることが、これによって初めて明らかになりました。さらに、調査地点の全てで成熟サイズに達した、あるいは成熟可能な個体が確認されたことから、今後さらなる個体数増加や分布拡大が懸念されます。
外来共生貝形虫をミステリークレイフィッシュから世界初確認
天久ちゅらまち公園で採集されたミステリークレイフィッシュの体表から、外来共生貝形虫 Ankylocythere sinuosa が確認されました。小型甲殻類の一種であるこの種は、ザリガニ類の体表や鰓などで共生生活を送る生物です。
この貝形虫は日本国内ではこれまで東京、静岡、岡山と限られた地域においてアメリカザリガニからのみ確認されており、ミステリークレイフィッシュから確認されたのは世界で初めてとなります。また、この貝形虫の日本最南端記録になるとともに、原産地である北米以外ではアメリカザリガニ以外のザリガニ類から初めて確認された事例ともなりました。
沖縄県ではアメリカザリガニが長年定着していることから、この貝形虫はアメリカザリガニからミステリークレイフィッシュへ宿主転換(ホストシフト)した可能性が高いと考えられます。ミステリークレイフィッシュからは、成体・幼体に加え、交尾前ガード行動を示す個体を含む多数の貝形虫が確認されており、この貝形虫がミステリークレイフィッシュを宿主として繁殖していることが示されています。
交尾前ガード行動とは、交尾相手となる雌を他の雄に奪われないよう、雄が雌をつかんだり付き添ったりして保持する行動で、甲殻類や昆虫類など様々な動物で知られている繁殖戦略の一つです。
外来種対策における意義
今回の研究成果は、ミステリークレイフィッシュの早期発見・早期防除を進めるうえでの重要な基礎情報となることが期待されます。
外来種による生態系への影響を考える際には侵入した生物そのものに注目が集まりがちですが、実際には病原体や寄生生物、共生生物なども同時に侵入・拡散する場合があります。この研究は、外来種が共生生物の新たな宿主となり、共生生物の分布拡大を助長する可能性を示した点でも重要な成果です。
さらに、北米産の外来ザリガニ類は、在来ザリガニ類に致命的な感染症であるザリガニペスト(crayfish plague)の病原体を保菌していることが知られています。近年ではこの病原体がザリガニ以外の淡水性甲殻類からも検出されていて、外来ザリガニ類とそれに共生する生物の分布拡大が水域の甲殻類群集へ及ぼす影響を注意深く監視していく必要があります。
ミステリークレイフィッシュは既にヨーロッパ、アフリカ、アジアなど世界各地で定着していることから、今回沖縄県で確認された外来共生貝形虫が、将来的に他地域のミステリークレイフィッシュ個体群からも発見される可能性もあります。
沖縄県には多くの固有種を含む豊かな淡水生物相が存在しています。今後、ミステリークレイフィッシュやそれに伴って移動する共生生物の分布拡大が進んだ場合、在来生物群集へ新たな影響を及ぼす可能性があります。この研究の成果は、外来種対策や生物多様性保全を進めるうえでの基礎的な知見となるだけでなく、外来種と共生生物の関係を含めて監視・管理することの重要性を示すものとして注目されます。

