10年以上かけて育んできた。スペイン優勝の背景にある3つの要因。指揮官は繰り返す「このチームはまだ成長を続けている」【W杯】
リオネル・メッシを擁する前回王者を相手に、120分の終盤まで主導権を譲らない戦いを演じたスペイン。決勝点は延長後半の106分、右サイドからペドロ・ポロが送ったクロスをニコ・ウィリアムスが頭で折り返し、その後方でフリーとなっていたフェラン・トーレスが左足のハーフボレーで流し込む形で生まれた。
一方のスペインは何度もゴールへ迫りながら、GKエミリアーノ・マルティネスの度重なるセーブに阻まれ、試合は延長戦までもつれ込んだ。それでも最後まで自分たちのスタイルを崩さず、世界一を勝ち取った。
ルイス・デ・ラ・フエンテ監督は喜ぶよりも、このチームがなぜ世界王者になれたのかを丁寧に語っている。そのコメントを紐解くと、スペイン優勝の背景には3つの大きな要因が見えてくる。
1つ目は、「Juntos(共に)」という言葉に象徴される組織力だ。デ・ラ・フエンテ監督は会見で「Juntos somos más fuertes(私たちは共に戦うことでより強くなる)」というフレーズを何度も口にした。
今大会だけの合言葉ではない。指揮官はU-19、U-21代表時代から10年以上にわたり現在の主力選手たちを育て、スペインサッカー協会の育成システムの中で一緒に歩んできた。各年代で欧州選手権など数々のタイトルを獲得しながら、戦術だけでなく価値観やチーム文化も共有してきた世代である。
だからこそ監督は、「彼らはチームとして、家族としての手本をスペインの若者たちに示してくれた」と胸を張った。今大会のスペインは特定のスター選手に依存したチームではない。ロドリ、ラミネ・ヤマル、N・ウィリアムス、ペドリら才能豊かな選手を擁しながらも、攻撃も守備も11人が連動し、誰か1人ではなくチーム全体で試合を支配した。その完成度の高さこそが、世界一の土台になった。
2つ目は、自分たちのスタイルを最後まで貫いたことである。決勝の相手はメッシを中心に数々の修羅場を経験してきたアルゼンチンだった。世界最高峰の個を擁するチームを前に、多くのチームは守備を固めたり、普段とは異なる戦い方を選択したりする。しかし、デ・ラ・フエンテ監督はそうした発想を取り入れなかった。
「私たちは自分たちが信じるアイデアと理念に忠実であり続け、それをさらに高めてプレーした」と指揮官。スペインはボール保持を軸にゲームをコントロールし、高い位置からのプレッシングでアルゼンチンの前進を封じた。ボールを奪われても素早く回収し、相手に攻撃へ移る時間すら与えない。
メッシにも自由を与えず、中盤でも優位を築き続けた結果、アルゼンチンは90分間で“シュートゼロ”という異例の数字に終わった。相手を恐れて自分たちを変えるのではなく、自分たちの強みを信じ、それを世界最高レベルまで引き上げる。その姿勢が、大舞台でも揺らぐことはなかった。
そして3つ目が、苦しい時間帯を受け入れる精神的な強さだ。内容だけを見れば、スペインは90分以内に勝利していても不思議ではなかった。だが、決定機のたびに立ちはだかったのがアルゼンチンの守護神E・マルティネスだった。至近距離からのシュートを何度も止め、試合を延長戦へ持ち込んでみせた。それでもスペインは焦らなかった。
デ・ラ・フエンテ監督は「もっと早く試合を決めるべきだった」と振り返りながらも、「これはワールドカップ決勝だ。苦しむことも受け入れなければならない。私たちはあらゆる状況に対応する準備ができていた」と選手たちを称賛している。
決勝は、思い通りにいかない時間をどう乗り越えるかが勝敗を左右する。スペインは得点できない時間帯でもゲームプランを変えず、集中力も失わなかった。その積み重ねが延長後半の決勝点へとつながる。
デ・ラ・フエンテ監督は大会を通じて、「このチームはまだ成長を続けている」と繰り返し語ってきた。ともに成長し、ともに戦い、ともに苦しみ、ともに勝つ。その哲学を10年以上かけて育み続けたからこそ、スペインはアルゼンチンを相手に世界最高峰のパフォーマンスを披露し、世界一という最高の結果を手にしたのだ。
取材・文●河治良幸
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