元ラグビー日本代表が引く人力車が、インバウンド客の心を動かす理由

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JAXURY案内人、出原由佳子さんの連載第二回。広く活動の場を持つ出原さん。今回は、いわば「男版・出原由佳子」さんともいえる、驚きのJAXURY人のご紹介です。

※JAXURYとは、日本の(=Japan‘s)ほんもの(=Authentic)ラグジュアリー、輝き(=Luxury)を表す言葉

私は国際渉外の仕事を通じても、またサーフィンやラクロスといった社外活動での繋がりからも、海外からのゲストを日本でもてなす機会が多くあります。そのたびに考えるのは、この人たちが本当に喜んで帰るのは何でだろう、ということです。

雷門やスカイツリーで写真を撮るのも、もちろん思い出になる。けれど、海を越えてまで来た人の心を本当に動かすものは、もっと別のところにある気がしていました。その正体――日本の「ほんもの」を探すことが、JAXURY案内人としての私のテーマです。

最初に訪ねたのは、大学同期である友人の児玉健太郎さん。慶應のラグビー部から日本代表も経験、昨年引退して、いまは浅草で人力車を引いています。

AI時代に、人が目の前で汗を流す。そのエネルギーに、心が動く。

浅草は、外国人観光客で溢れていました。法被姿の彼が引く人力車は、30分で1万円。乗り終えた人がいちばん満足しているのは、乗り心地でも記念写真でもないようです。

「世界中どこにでも、おしゃれなカフェも洗練された場所もある。だから海外のお客さんは『自国にもあるような店で時間を使うのはもったいない。ここにしかない体験がしたい』って言うんです。人力車で一番喜ばれるのは、僕たちとの会話を通じて『日本のホンモノに触れた』という感覚なんだと思う」

移動も観光案内もAIで足りる時代ですが、と彼は続けました。

「人が人に与えるエネルギーにこそ、価値があると思っていて。目の前で僕が汗水垂らして必死にやっている。だから乗っている人の心も動く。おもてなしに正しいマニュアルなんてないから、毎日その場で『いま、この人にとっての正解は何か』を探し続けるんです」

「人が人を運ぶなんて!」と、フランス人は言った

人力車には、乗るのをためらう人もいるそうです。

「前にフランス人のお客さんが、『人が人を運ぶなんて、西洋の貴族文化みたいで申し訳ない』って言うんですよ」

彼はそれに対して、こう答えたそうです。

「『これは日本の文化だから。むしろ乗ってくれないほうが、これで飯を食っている俺に申し訳ないよ』って笑ったら、納得して、笑顔で乗ってくれて」

この違いは、チップのない国だからかもしれません。

「欧米はチップがあるから、どこか下心があったり割り切りもある。でも僕らは、見返りのない中で、最初から最後まで相手を喜ばせようと努める。それが海外の人には美しく映るみたいで。最後にチップを差し出されて、僕らが少し遠慮する――あの間も含めて、日本らしいと受け取ってくれるんです」

人にも、モノにも、その土地にも敬意を払う。

JAXURYでは「Respect for All」と呼んでいる考え方です。先日のJAXURYアワードでも、編集長の吉岡久美子さんが、海外の人がもっとも心を動かされる日本的なラグジュアリーの本質はそこにある、と話していました。

他人の目は気にする。 だけど他者評価より「自己評価」

人力車から少し離れて、生き方の話になりました。

「世間からは『日本代表だった児玉が、次は何をやるんだ』っていう目もあったと思う。でも、世間体は関係ない。仕事のために人生があるんじゃなくて、人生のために仕事があるんだから」

意外だったのは、その次の言葉です。

「よく『人の目を気にしない』と思われるけど、実はめちゃくちゃ気にしてます(笑)。傷つくし、褒められたら嬉しい。ただ、人の目以上に、自分の心が決めたことを大事にしてるだけなんです」

現役時代、理不尽な評価を受けたとき、思い出したのはネルソン・マンデラの言葉だったそうです。

「『我が運命の支配者は私、我が魂の指揮官は私』。他人がどう評価しても、自分の人生の支配者は自分だと思えたんです」

夢はオランダで餅屋。暑すぎる夏は日本を脱出」

これからのことを尋ねました。

「日本の夏は暑すぎるから(笑)、夏は気候のいいオランダで餅屋をやって、それ以外の季節は日本で人力車を引きたい。いまはその土台作りとして、富士吉田で、お客さんもスタッフもゆっくりできる場所を準備しています」

浅草の一日を振り返って、気づいたことがあります。

彼は、自分の人生に一切妥協していません。他人の評価より、自分が納得できるかどうかを選んでいる。その嘘のない生き方そのものが、目の前の人の心を動かしている。私が探していた「ほんもの」の正体は、たぶんこれでした。

そしてそれは、私自身がずっと大切にしてきたことでもあります。実際、大学同期として共通の友人から初めて彼を紹介された時、「”男版・由佳子”のような人だよ」と言われたのを思い出しました。彼と意気投合したのも、「自分が好きな自分でいたい」という生き方の軸に、共通点を見出したからかもしれません。

経年変化したもの。その土地の歴史が育てた文化。

そこに人の体温が乗ったとき、目に見えない日本の豊かさが立ち上がる。人力車は、土地とモノと人の力で、それを30分に凝縮して届けていました。

発売中の『FRaU JAXURY MOOK』では、JAXURYを「自分も周りも満足する『自他満足』のラグジュアリー」と書いています。彼の30分には、その自他満足が、まるごと詰まっていました。JAXURYが大切にする「10の視点」も、振り返れば、すべてそこにありました。

人力車に凝縮された「JAXURY 10の視点」

01. クラフトマンシップ 精密に組まれた車輪の構造美と、足袋の機能美。俥夫が身体ひとつで引き切る操縦技術。

02. 感性 浅草の風の匂い、路面を捉える音、街と俥夫の体温を、五感で受け取る心地よさ。

03. 信頼 マニュアルやデジタルではなく、目の前の俥夫が向き合ってくれる姿から生まれる、人と人の信頼。

04. 本来感 観光アトラクションではなく、明治から続く「運ぶ人と乗る人が感謝し合う」移動文化のブレない軸。

05. 唯一無二 「自国にも乗り物はあるが、これは日本にしかない」。浅草でしか味わえない代替不可能なモビリティ。

06. 美 古い路地やのれんの佇まい。法被姿の俥夫と人力車のフォルムが、街の景色と調和している。

07. 日常的な上質さ 非日常の高級品ではなく、日常の移動の延長線上にある、日本の暮らしと地続きの豊かさ。

らしと地続きの豊かさ。

08. 神話&歴史 何百年と紡がれた街の歴史や神社の文脈が、俥夫の言葉で目の前に立ち上がる。

09. 幸運&僥倖 その日の天気、ストリートでの偶然の出会い、会話から生まれる、その瞬間だけの奇跡。

10. 利他 チップという見返りのない文化の中で、ただ目の前の相手に喜んでほしいと願う心。

健太郎さん、ありがとう。資本主義のピラミッドを飛び出して、ワクワクする未来をデザインする姿に刺激を受けました。

また、次の「ほんもの」を探しに行きます。

【JAXURY(ジャクシュアリー)とは】

Japan’s Authentic Luxury=日本の「ほんもの」の輝き。高価なものや贅を尽くすことだけがラグジュアリーなのではなく、“ほんもの”を感じられる豊かさに光を当てる言葉です。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科オーセンティック・ラクシュアリーラボの研究をもとに、一般社団法人JAXURY委員会が毎年「JAXURYアワード」を選出しています。

【出原由佳子(いではら・ゆかこ)】

JAXURY案内人。慶應義塾大学ラクロス部主将として日本一を経験し、ANAに入社。サーフィンのプロツアー挑戦、ジャカルタ駐在での日ASEAN橋渡し、DJ活動など、「この地球という遊び場を味わい尽くす」生き方を続けている。

ラクロス日本一の主将、サーフィンでプロツアー経験、DJ、ASEANで活躍……新世代キャリア女性が”地球という「遊び場」を味わい尽くす”極意