【竹内 謙礼】売上3401億円で絶好調…なのに”売却検討”の日本のスタバ、日米の明暗を分けた「価値」

写真拡大 (全2枚)

スタバとドトールで異なる「ポジション」

米国のコーヒーチェーン大手「スターバックス」が日本事業の売却を検討している。理由は長引く業績不振だ。3ヶ月ごとの決算を発表するたびに利益が減っていく状態が8期連続、約2年間続いている。

一方、日本のスタバの業績は絶好調だ。2025年9月期の日本法人の売上高は前期比6%増の3401億円、5期連続の増収となった。店舗数を約2100店まで拡大し、国内最大のカフェチェーンにまで成長している。

なぜ、米国のスタバは事業不振に陥ったのか? その理由について、6月2日の日経新聞にこう記されている。

「新型コロナウイルスの流行を機にデジタル化を進めた結果、アプリでのテイクアウト注文が拡大。本来の強みだった店舗の利用機会が減ったことで、『価格に見合わない』と感じる消費者が増えたからだ」

株価急落のスタバ、国内外に響く不協和音 遠いブランド力回復

つまり、スタバが強みとしてきた居心地の良さである「サードプレイス」を重視する戦略から、テイクアウト中心の店舗展開に戦略を切り替えた結果、利用者が「ドリンクを飲むだけなら、スタバは割高」と判断し、客離れを引き起こしたのである。

確かにスタバのサードプレイスとしての魅力は大きい。私自身、スタバで原稿を書いたり、資料を整理したりする機会が多く、あのシックで落ち着いた雰囲気の空間にいると、不思議と良いアイデアが浮かびそうな気分になってしまう。

何時間いても嫌な顔ひとつされず、自宅でもオフィスでもない、第三の居場所として唯一無二の存在になっている。スタバでなければはかどらない仕事も多く、割高なドリンク代をサードプレイスの「空間代」として支払っていると考えれば、コスパは悪くないと言える。

反面、“ドリンクを飲むだけ”であれば、私の場合、ドトールを利用するケースが多い。待ち合わせ場所に早く来てしまい、少しだけ時間を潰したい時は、スタバの400円近いコーヒー代は割高に感じてしまう。多少席が狭くても、Sサイズのコーヒーを280円(ただし、7月23日から300円に値上げ予定)で提供してくれるドトールは、隙間時間の消費としては費用対効果に優れている。

その点を考えれば、ドトールに対しては、ちょっとした時間潰しの「ドリンク代」を支払っているという意識が強い。

スタバの「空間代」とドトールの「ドリンク代」。同じような商品でも、目的によって購入する商品を変えることは他の消費でもみられる。たとえば、同じ「宿泊」というサービスでも、出張で1万円前後のビジネスホテルに泊まることもあれば、長期休暇に数万円支払って高級リゾートホテルに泊まることもある。また、同じ「ランチ」でも、平日と休日では、お店の選び方も単価も大きく違ってくる。

人は無意識のうちに同じサービスを使い分けている。その差別化の対象になった際に、自分たちのポジショニングをしっかり築くことができていれば、一定数のマーケットを確保することができる。

顧客から「空間代」を徴収しているスタバは、日本の大手コーヒーチェーンでは真似できない唯一無二の存在であり、コスパの良い「ドリンク代」で集客するドトールは、隙間時間を埋める手ごろなカフェとして、日本の市場に自分たちのポジションを築き上げてきたのである。

日米スタバの明暗を分けたもの

しかし、実際にスタバを利用していると、店内を利用する人が少ないことに気づかされる。

大半がテイクアウトのお客で、店内の座席が埋まっているように見えても、席を待つ人でレジの周りがごった返すような混雑はほとんど起きない。サードプレイスを強みにしている割には、ドリンクをテイクアウトで持ち帰る人のほうが多い印象を受ける。

日本のスタバはテイクアウトの利用比率を公にしていないが、様々なデータから、持ち帰りのお客が多いことが分かる。

2017年のフォーブスジャパンに掲載された調査データによると、日本人のテイクアウトの利用率は高く、カナダ43%、米国45%を抜いて、48%と1位となっている。これらはコロナ禍前の調査になるので、今の日本人のテイクアウト比率は半数を超えている可能性が高いといえる。

さらに、「MyVoice」が2025年4月に行ったアンケート調査によると、スタバの利用者は他のコーヒーチェーン店に比べて、ドリンクのテイクアウトの比率が高いことが判明している。また、スタバの公式サイトを調べてみると、全2116店舗のうち、ドライブスルー店舗の数は566店舗、約4店舗のうち1店舗がドライブスルーを設けている。これらの点からも、スタバはテイクアウトのお客が多いことが裏付けられる。

ちなみに、ドトールも「ドトールキッチン」というブランドで、ガソリンスタンドと共同でドライブスルーを展開している。しかし、全国1074店舗中10店舗のみで、1%未満。いかにスタバのテイクアウトが突出しているかがうかがえる。

あくまで私の想像だが、スタバのお客のうち、6〜7割はテイクアウトの注文とみなしてもいいのではないだろうか。

この「空間代」を利用しないテイクアウトのお客が半数以上を占めることが、日本のスタバが好調な要因になっている。スタバというブランドが高級感やご褒美を連想させ、季節のドリンクやタンブラーなどの販売が、よりサードプレイスとしての魅力を引き立てる。結果、割高なドリンクをテイクアウトする“店内を利用しないお客”を増やし、利益率を高めることで、日本のスタバの業績を底支えしているのである。

その事情を考えれば、米国のスタバがテイクアウト中心に舵を切ったことは悪手といえそうだ。

サードプレイスという特別感があってこそのスタバだったはずなのに、その魅力をなくしてしまえば、提供されるドリンクは、ファストフードやコンビニの飲み物と変わらなくなってしまう。「スタバのブランド力さえあれば、割高なドリンクでもテイクアウトしてくれる」という経営陣の油断が、米国のスタバの業績悪化につながったのではないだろうか。

日米のスタバの明暗を分けたのは「サードプレイスという空間価値」を維持できたかどうかに尽きる。日本のスタバは、くつろげる魅力的な空間がしっかりと存在しているからこそブランド力が高く保たれ、テイクアウトであっても「プレミアムなコーヒーを買っている」という付加価値を生み出している。つまり、空間があるからこそテイクアウトも売れるのである。

一方の米国のスタバは、効率化を求めて空間価値を切り捨ててしまった。結果、ブランドの根底にあった特別感が揺らぎ、頼みのテイクアウトの価値まで暴落させてしまったのである。

*     *     *

では、スタバとは対極の「ドリンク代」で勝負するドトールは、どう戦っているのか。後編記事〈売上1591億円で過去最高のドトールだが…"スタバ化"挑戦の顛末が物語る「厚い壁」と「本当の強み」〉では、過去最高益を更新したドトールの強さと、そのドトールが“スタバ化”を試みた顛末を見ていく。

【つづきを読む】売上1591億円で過去最高のドトールだが…”スタバ化”挑戦の顛末が物語る「厚い壁」と「本当の強み」