AIに奪われないのはどんな仕事なのか。人工生命研究者の岡瑞起さんは「多くの仕事がAIで効率化される中で、人間にしかできない仕事の希少価値が高まっていく」という――。

※本稿は、岡瑞起『AIの時代に頭がよくなる人悪くなる人』(日経BP)の一部を再編集したものです。

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■本当に「AIに奪われる仕事」

AIの影響は、当然、仕事にも大きな変化をもたらします。

よく「AIに仕事を奪われる」という議論がありますが、もう少し複雑なはずです。

消える仕事、残る仕事、そして変わる仕事があるはずです。そして、その区分は従来の予想とは少し違うかもしれません。

2015年に野村総合研究所とオックスフォード大学が発表した分析で、日本の労働人口の約49%が、10〜20年後にはAIやロボットで代替可能になるというものがあります。

この中では一般事務員、銀行窓口係、受付係、データ入力などという職業が「消える」候補としてあげられました。一方で、医師、看護師、保育士、デザイナー、教師などの創造性や協調性、対人サービスが求められる職業は代わりが困難とされ、生き残る候補になりました。

ところが、それから約10年経った今、どうでしょうか。生成AIが登場したことにより、この予測は部分的に覆されました。

イラストレーター、グラフィックデザイナー、ライターなど「創造的」とされていた職業が、むしろ大きな影響を受けています。AIが絵を描き、デザインをつくり、文章を書くようになったからです。

反対に、「消える」と言われていた事務職は、意外としぶとく残っています。なぜならば、人間同士のやり取りや、例外的な処理、微妙な判断が必要な場面が多いからです。

AIは定型業務は得意でも、「この場合はどうする?」という例外には弱いのです。

つまり、「AIにとって代わられる仕事」は、単純に「頭脳労働か肉体労働か」「創造的か定型的か」では分けられません。

■「正解の決まった仕事」は置き換わる

では、ここから細かく見ていきましょう。まず、確実に消えていく仕事です。

データ入力、型にはまった翻訳、税務申告書の作成など「正解が決まっている」作業は、いち早く、AIに置き換わる可能性が高いでしょう。すでにマネーフォワードのようなサービスでは、レシートを撮影するだけで自動的に仕訳してくれます。確定申告まで、ほぼ自動化できる時代が来ています。

エンジニアの仕事も、大きく変わりつつあります。

特にテストやデバッグ、保守といった領域では、すでに自動化が進んでいます。業務委託や経験の浅いエンジニアの仕事は急速にAIに置き換わっています。

意外かもしれませんが、「残る仕事」の中には、従来給料が低い仕事が含まれています。ベビーシッター、ハウスキーピング、看護師、介護士などです。

■「身体性」を伴う仕事の価値が上がる

こうした「身体性」を伴う仕事は、AIには置き換えられません。そして、これらの仕事の単価は、今後上がっていくと私は考えています。他の多くの仕事がAIで効率化される中で、「人間にしかできない仕事」の希少価値が高まるからです。

今、ベビーシッターの時給は、東京都では2500円から3000円程度です。でもこれが5000円、6000円になっても不思議ではありません。英語ができるシッターさんは、すでに時給6000円になっているという話も聞きます。

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看護師の仕事を考えてみてください。医療分野では画像診断はAIがするかもしれませんし、薬の処方もAIが提案するかもしれません。

ただ、患者さんに寄り添い、不安を和らげ、日々のケアをする仕事は人間にしかできません。看護師の仕事の重みは増すはずです。

医師も同じです。診断という「頭脳労働」がAIに移ることで、医師の仕事の中身も変わるかもしれません。

コールセンターはどうでしょうか。「よくある問い合わせ」はAIに置き換わります。

ただ、コールセンターの問い合わせはクレーマー、感情的になっている顧客も少なくありません。ですので、「やばい」案件だけは人間が対応することになるかもしれません。

それはそれで過酷な仕事になるのでコールセンターの仕事も時給が上がる可能性はあるでしょう。

■「AIと人間が協力する仕事」の未来

ここまで、「消える仕事」と「残る仕事」について見てきました。

では、その中間にある「変わる仕事――つまり、AIと人間が協力して行う仕事」はどうなるのでしょうか。

「AIを使いこなせる人材が求められる」「AIと協働できるスキルが重要だ」――最近、こうした言葉をよく耳にします。AIにすべてを任せるのではなく、人間がAIをうまく活用して成果を出す。そんな働き方が、これからのスタンダードになると言われています。

ところが、OpenAIのCEOであるサム・アルトマンさんは、興味深い指摘をしています。AIと人間の協働が効果を発揮する期間は、実はとても短いかもしれないというのです。

彼が例に出したのはチェスです。

1997年、IBMが開発した「ディープ・ブルー」というコンピュータが、当時の世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフさんに勝利しました。「コンピュータが人間のチェス王者を破った」というニュースは、世界中に衝撃を与えました。

その後、「アドバンスドチェス」という新しい形式が生まれました。

人間とコンピュータがチームを組んで戦います。人間の直感や創造性と、コンピュータの計算力を組み合わせたのです。

この形式は、しばらくの間、最強でした。コンピュータ単独よりも、人間単独よりも、人間とコンピュータのチームが一番強かったのです。

■人間は「足手まとい」になった

ところが、2005年頃には、その時代は終わりました。コンピュータ単独のほうが、人間とコンピュータのチームよりも強くなってしまったからです。

人間が加わることが、むしろ足手まといになってしまったからです。

アルトマンさんは、この歴史をふりかえり、人間がコンピュータに初めて負けてから、「協働の時代」を経て、コンピュータ単独が最強になるまで、わずか8年ほどだったと述べています。

これを今のAI全般に当てはめると、少し不安になります。「AIを使いこなせる人材が求められる」と言われていますが、その期間は意外と短いかもしれません。

今は「AIを上手に使える人」が重宝されていても、ある時点で、「AIを使いこなす人間」より「AI単独」のほうが優れた成果を出すようになる。チェスで起きたことが、他の領域でも起きる可能性を、否定できません。

もちろん、チェスと現実の仕事は違います。チェスには明確なルールがあり、「正解」が存在します。勝ち負けがはっきりしています。

だからこそ、コンピュータが圧倒的に強くなれました。

■「正解がある」領域から人間を追い抜く

一方、現実の仕事の多くは、そこまで単純ではありません。

岡瑞起『AIの時代に頭がよくなる人悪くなる人』(日経BP)

正解がひとつに決まらないことも多いですし、その仕事にあった価値観や好みが入り込むことが、いい成果に結びつく場合もたくさんあります。人間関係も複雑に絡み、感情への配慮も必要になります。

そうした領域では、まだしばらく人間の出番があるでしょう。

ただし、「正解がある」領域から順番に、AIが人間を追い抜いていくことは間違いありません。

たとえば、経理です。

数字の計算や仕訳には正解があります。法務もそうです。法律の解釈や契約書のチェックにも、ある程度の正解があります。

特許出願も過去の特許との類似性判断に明確な基準があります。こうした領域では、すでにAIのほうが精度が高くなりつつあります。

「自分の仕事には正解がないから大丈夫」と思っている人も、油断はできません。

今は正解がないように見える仕事でも、AIの進化によって「実は正解があった」と判明するかもしれないからです。

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岡 瑞起(おか・みずき)
人工生命研究者
博士(工学)。千葉工業大学大学院デザイン&サイエンス研究科教授。Artificial Life Institute(人工生命国際研究機構)創設者・代表理事。専門は人工生命、AI、複雑系科学。生命のように自ら進化していくAI システムの研究を中心に、AI と人間が共に学び合う「Symbiotic Alignment」と、目標に縛られないAI の探究プロセスを研究する「Open-endedness」の研究を進めている。世界各地のAI 研究者・開発者と対話を重ね、AI が人間の知性をどう変えていくのか、AI 時代に人間はどう生きるべきかを、研究と現場の両方から日々考え続けている。主な著書に『ALIFE|人工生命―より生命的なAI へ』(ビー・エヌ・エヌ)などがある。
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(人工生命研究者 岡 瑞起)