大阪地裁が6月19日、交際していた男性の乳首や薬指を切断したなどとして、傷害罪に問われた佐藤紗希被告(24)に対し、懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。

【映像】交際男性の乳首と指を切断→指を焼いて食べた女(再現イメージ)

 佐藤被告はこれまで「男性が自分でやったこと」と、無罪を主張していた。この事件には考えさせられる“なぜ”が、複数存在する。裁判記録からこの事件を振り返る。

「切断しても再生するんだって」

 2人が出会ったのは2020年ごろ、きっかけはSNSだった。男性は当時高校生だった。やがて男性と佐藤被告は交際を始め、同棲生活を送る。佐藤被告は「耐えるのを見るのが好き」などと言い、男性に対し、次第に暴力を振るようになったという。

 部屋は少しずつ“檻”に変わっていく。スマートフォンも通帳も金庫の中。佐藤被告が外出している時は、ペット用の監視カメラに常に映ることを指示され、働くことを禁じられた。心理的にも支配され、親や友人から孤立させられ、人間関係も断たれていく。

 「ここから出て行ったら、野垂れ死にやな。お前には生きてる価値がない。お前には私しかおらん」などと言われ、男性は「別れたら生きていけないと思っていた。だから反抗できなかった」のだそうだ。

 この檻の中で3つのことが起きる。はじまりは、佐藤被告の思いつきだった。

 「ねえ、乳首切らせて。切断しても再生するんだって」。男性が断ると、「そんなこともできないんだったら、私のこと好きじゃないよね。別れよう」。追い出されたら生きていけないと、男性はうなずいてしまう。

 佐藤被告は、男性を浴室の浴槽内で後退できない状態にし、声を上げないようにタオルをくわえさせた上で、左乳頭をハサミでゆっくり切断した。佐藤被告は、その直後を撮影し同僚に送っている。「乳首切り落としてみた」。

警察を呼んだのは被告の方だった

 2024年10月、2人が交際を解消していた時期、佐藤被告は男性のスマホに女の子の店に発信した履歴を見つけ、激高する。そして信じられないことを口にする。「許してほしかったら、左手の薬指切れ」。

 男性は自分で包丁を握ったが、左薬指の根元に、“かすり傷程度”の傷をつけただけで切れなかった。「それだけ? 自分でできないんだったら私がやる」。佐藤被告は通販でなんと斧を注文。男性に睡眠薬を飲ませ、まな板の上に置かれた左薬指を、斧を振り下ろして切断。まだ繋がっていた皮も佐藤被告が切った。

 さらに、「許す時はその指を食べる文化がある」と話し、指を少し取って焼いて食べた後、切り落とした指を瓶に入れ、冷蔵庫で保管した。「人の指、初めて切った」。

 2025年1月、今度は女自身の痛みだった。韓国で鼻の整形手術を受け、術後の痛みに耐え苦しんでいた。「ねえ、私がこんなに痛いのに、なんで同じ痛み味わってくれないの」。佐藤被告はハンマーで鼻を砕かせろと迫ったが、男性は応じなかった。

 そこで、別れたくなかったら、耳と鼻をグーで10回殴らせろと要求。「叫んだら殴る回数1回増やすからな」。拳は耳に10回以上、そして鼻にも振り下ろされた。その後、別れ話になり佐藤被告が暴れ、男性に押し倒された。皮肉にも「相手から暴力を受けた」と、最初に警察を呼んだのは、佐藤被告のほうだった。

 ところが駆けつけた警察官が、男性の頬の傷に気づく。男性はここで初めて打ち明ける。警察官の「今しかないよ」の一言で、男性はようやくその部屋を出た。佐藤被告は逃亡したが、2025年2月、逮捕される。

なぜ体の欠損を求め、従ったのか…犯罪心理学者の見解

 逮捕当時、佐藤被告は取り調べに対し、こう供述していた。「被害者が自分で斧を購入し、その斧を使って、自分で薬指を切り落としました」。乳首の切断についても「私が切断したことはない。男がふざけて自分の乳首を切りました」などと容疑を否認していた。

 なぜ佐藤被告は相手の体の欠損を求め、なぜ男性は従ったのか。なぜ男性は別れたり逃げたりしなかったのか。犯罪心理学者の出口保行氏は「心理的拘禁」の恐ろしさを指摘する。

「『逃げられたはずでしょ?でも逃げなかったんだから、本当はいたかったんじゃないの?』みたいな話になる。心理的な支配をされてしまうと、もう逃げるなんてことは絶対にできなくなる。だからもう、言いなりになるしかない。『普通で考えたら、こんなことはあり得ないでしょ』ということをしてしまうし、されてしまう。心理的な拘禁というのは非常に怖い。物理的な拘禁なんかより、よっぽど怖い」

無罪主張も一変→地裁判決「許される範囲を超えている」

 法廷で佐藤被告は無罪を主張する。男性が自分でやったと訴え、男性の母親に非難の手紙まで送った。しかし、佐藤被告の生々しい行為について語る男性の証人尋問を経て、認否を変え、傷害の事実を認めた。そして佐藤被告は、境界性パーソナリティ障害と診断されており、その障害と向き合い、通院して治療していく旨を述べ、反省の態度を示した。

 一方検察側は、罪を免れる手段としての弁解で、法廷での謝罪は口先だけで、反省の情はないと反論した。

 大阪地裁は6月19日、判決をこう言い渡した。「被害者は物理的にも心理的にも支配され、別れたら生きていけない状態に追い込まれていた。真意に基づく同意はなかった。仮に同意があったとしても体の一部を切断する行為は、社会的に許される範囲を超えている」

 犯行は残虐かつ嗜虐的で、左の薬指は生涯戻らないとして、言い渡されたのは懲役3年、執行猶予5年。再び罪を犯さぬよう保護観察がつけられた。

 判決では「直ちに実刑に処することも十分に考えられる」とした上で、被告人が謝罪し、300万円の示談金、被害者も執行猶予付きの判決を望んでいることに言及。執行猶予を選択し、保護観察とするのが相当とした。最終的には佐藤被告の主張は判決で退けられたが、同意があったという主張は最後まで変えていない。

「切るか、切らないか」の強迫観念

 出口氏は「大きな問題が“認知のゆがみ”。これが発生してしまうと、しなやかに考えられなくなる。『ゼロか100か』で、2や3、50はない。となると、『やるか、やらないか』どちらかの選択肢しかなくなってしまう。この事件も『切るか、切らないか』だけで『傷つける』という選択肢がなくなる。こういう認知のゆがみが発生すると、非常に事件が前に進んでしまいやすくなる」と説明する。

 認知のゆがみの中には、“心のフィルター”と呼ばれるものもあるという。「互いの関係性の中で悪いことがあると、普通は少しずつ話し合う中で、改善していこうとする。ところが、心のフィルターがあると、『一度悪いことがあると、次も絶対こうなるに違いない』と思い込みにしかならない。1回でも相手が裏切ると、『絶対次も裏切る。その前に強い支配をしなきゃいけない』と考える」。

 他にも、“すべき思考”というものがあり、「強迫観念みたいなものだ。『やらなければいけない』と徹底的に植え込み、その中でそれを実行させる。認知のゆがみが発生すると、普通ではありえない猟奇的な事件が平気で起きてしまう」と語る。

「これは性癖ではなく事件」

 そして、この前提にあるのは、“加害者と被害者の共依存”だという。「『こんな痛い思いされても、我慢するのが相手のためだ』と、どんどん感覚自体がずれていく。普通だったら許せないことが、マインドコントロール下に入ってしまうと、許さざるを得ない状況になってしまうのが、こういう事件の大きな特徴だ」。

 性癖との関係性はないのか。「それが自分の中で快感だと思うと、性癖になっていく。心理学では“モラルスリップ”という現象が起こる。少しずつやることが大胆になっていき、『ここら辺まで許されたんだから、次はここまで行こう』とどんどんスリップが大きくなっていく。 その中で、『気持ちいい』と思うことがいっぱいある。相手が普通はやらないことをやるわけで、そのモラルスリップが大きくなることによって、事件まで行ってしまう。それが本人にとって快感に繋がったということは当然考えられる」。

 ただし、「性癖・快感は個人の趣味だから、何も言うことはないが、これはそれとは意味が違う。相手は圧倒的に被害者になっていて、そんなことをされていいわけがない。受け入れる筋合いが全くないことをやっているから、これは性癖ではなく、事件の話だ」と述べた。

(『ABEMA的ニュースショー』より)