森保監督はなぜ「理想の上司」なのか…Z世代が求めるマネジメントとの意外な共通点

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「Z世代は扱いが難しい」。そんな言葉を耳にする機会は少なくない。しかし、各種調査を見ていくと、彼らが求めているのは決して特別なことではない。「失敗を責めない」「こまめにフィードバックする」「自分をきちんと見て評価してくれる」。その条件を驚くほど体現している人物がいる。サッカー日本代表を率い、選手から厚い信頼を集める森保一監督だ。なぜ森保監督のマネジメントは、Z世代が理想とする上司像と重なるのか。その理由をひもとくと、強い組織づくりに欠かせない普遍的なヒントが見えてくる。

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Z世代が求めている理想の上司とは

株式会社イードが行ったアンケート調査によれば、Z世代が上司に求めるのは、「失敗を責めず、次に活かす姿勢」「こまめなフィードバック」「1on1で寄り添って相談に乗ってくれること」の3つだという。

他の世代と比べると、「話し合う前にあきらめて離脱してしまう傾向がある」とも指摘されるZ世代。

そうした彼らが職場で求めているのは、心理的安全性が確保され、育成やコーチング、サポートを受けながら、安心して挑戦できる環境であることが調査からうかがえる。

また、株式会社HUUKの調査では、「避けたい上司」の1位は「言動に矛盾があり、話もわかりにくい」(54.3%)だった。Z世代にとって理想の上司像は、強いリーダーシップよりも、言動が一致し、考えや評価基準がわかりやすい人物なのである。

森保監督の言葉に表れるスタイル

森保氏のマネジメントの核にあるのは、本人が繰り返し口にする「信頼」という言葉だ。

ラジオ局「J-WAVE」の番組でのインタビューで、役割を委ねるコツを問われた森保氏は、「信用し、信頼すること。自分よりもできる人たちが周りにいる」と語っている。

自分の役割は「決断を下すこと」と「責任を取ること」。それ以外は、「みんながやりがいを持って向き合える環境をつくること」だと明確に線引きしている。

また、「万物育成」という言葉を引きながら、関わる人たちの成長をどう後押しできるかを常に考えているとも話している。

加えて、各クラブでの試合を追うスカウティングや、名波浩コーチをはじめとする分析スタッフの存在も、森保氏の判断を組織として支えている。

「信頼する」「任せる」とは何をすることなのか

そのうえで、方針は自ら示し、行動はチームに委ねる。そして、「凡事徹底」という、特別なことではなく当たり前のことを積み重ねる姿勢をチーム全体の共通理念として掲げている。

もっとも、「信じて任せること」と「放置すること」は、一見するとほとんど区別がつかない。

しかし、部下が「支えられている」と感じて成長するか、「放置された」と感じてモチベーションを失うかは、目に見えない「信頼」の有無によって大きく変わる。

森保氏のマネジメントが、単なる放置と決定的に違うのは、選手一人ひとりをじつによく見ている点にある。

では、何を見れば、「放置」ではなく「信じて任せること」になるのだろうか。そこに、森保氏のマネジメントの本質がある。

見るべきものが何かを知ること

森保氏のマネジメントの肝は、単に選手をよく見ていることではない。「何を見るべきか」を理解したうえで選手を見ていることにある。

森保氏が評価される理由は、ゴールやアシストといった目に見える成果だけでなく、勝つチームをつくるうえで欠かせない、成果として表れにくい貢献まで見ているからだ。

重要なのは、「見ること」そのものではない。スキルやチームプレーといった直接的な成果だけでなく、中長期的に強い組織をつくるために必要な間接的な貢献まで理解し、それを評価の対象としている点にある。

例えば、初招集の塩貝健人について森保氏は、「守備の部分では、ハイスピードで迫力のある守備で貢献してくれた」「前に推進力を持ってボールを運べる」と、得点には直結しない働きを具体的に評価した。数字には表れにくくても、勝敗を左右する要素を見ているのである。

また、1年ぶりに復帰した伊藤洋輝については、「自信と誇りが、オフザピッチ、オンザピッチ、両方に非常に雰囲気に出ていて素晴らしい」と評した。個人の振る舞いがチーム全体の空気に与える影響という、目に見えにくい価値まで評価している。

こうした評価の背景には、「何が組織の成果につながるのか」という明確な判断基準がある。その基準に沿って選手を観察し、具体的な言葉で承認することで、自律的な成長を促している。

森保氏のマネジメントは、「見ること」と「任せること」が注目されがちだ。しかし、その土台にあるのは、「何を見るべきか」を見極める力なのである。

「昨日も遅くまで残っていたね」と声をかける行為ひとつとっても、その意味は大きく変わる。

単に遅くまで会社に残っている姿を見かけて声をかけたのか。それとも、チームのために翌日の準備を率先して引き受ける普段の姿勢まで理解したうえで伝えたのか。

同じ言葉でも、後者であれば「ちゃんと見てもらえている」という実感につながる。一方、表面的な行動だけを見て発した言葉では、その思いは伝わりにくい。

Z世代の約6割が「人前で褒められたくない」

若者研究機関SHIBUYA109lab.の調査では、Z世代の約6割が「人前で褒められたくない」と答えている。

求められているのは、人前で大げさに褒めることではない。相手の努力や行動の背景まで理解したうえで、自然に声をかけ、承認することである。

その場の言動だけを見て周囲の前で褒めても、「何も分かっていない」と受け止められ、かえって信頼を損なうこともある。

理想の上司の本質は、「相手の言動の背景まで見極め、その貢献を承認すること」にある。もちろん、森保氏が全選手を四六時中見ているわけではない。重要なのは、まず「何を評価するのか」という基準を明確にすることだ。

仕事に本当に必要な成果やスキルを整理したうえで、その社員が何を大切にし、どこで力を発揮するのかを見る。森保氏が「選手はロボットではない」と語るのも、一人ひとりの特性を理解しなければ、チームへの貢献も正しく評価できないからである。

ここで重要なのは、組織のパフォーマンス向上や中長期的な成果につながる貢献まで言語化できるかどうかだ。「目に見えにくい貢献」を言葉にして評価する力は、チームワークが重視される組織ほど大きな意味を持つ。

何を見るべきかがわかれば、分担できる

例えば、新しいプロジェクトで他部署との連携ミスを防ぐため、議事録に経緯や意図まで丁寧に記録している社員がいるとする。

これを単に「仕事が丁寧だ」と評価するだけでは十分ではない。なぜその行動が組織に貢献しているのか、その背景や理由まで理解したうえで評価できているかが重要だ。同じ行動でも、その意味や価値を説明できるかどうかで、評価の質は大きく変わる。

また、「何を見るべきか」が明確になれば、観察を一人で抱え込む必要はない。森保氏が分析スタッフやコーチ陣の情報を判断材料にしているように、職場でもチームで情報を集めることができる。

そのうえで、マネージャー自身が具体的な言葉で承認する。その一言が、「見てもらえている」という実感につながる。

最後に、最も重要な要素として、森保氏は自らを「責任を取る役」と位置づけている。

森保氏が理想と映るのは、単なる優しさではない

職場でいえば、部下がミスをした際に自ら謝罪に同行する、あるいは他部署からの批判を引き受ける、といった姿勢である。裁量は部下に委ねても、最終的な責任は自分が負う。この覚悟こそが、「任せる」と「放置する」を分ける決定的な違いだ。

森保氏が理想の上司として映るのは、単に優しいからではない。強いチームづくりに本当に必要な要素を見極め、その視点で選手一人ひとりを見ているからである。

だからこそ、選手は「自分を見てもらえている」と実感し、その実感が信頼につながる。森保氏のマネジメントは、「何を見るべきか」を見極め、その貢献を具体的な言葉で承認し、最後は自ら責任を負うという一貫した姿勢に支えられている。

それこそが、Z世代が理想の上司に求めている最も重要な要素なのではないだろうか。

文/村上ゆかり