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厚生労働省の「認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」によると、令和4年度の調査では、65歳以上の高齢者における認知症有病率は約12%と推計されたそうです。そんな中で「認知症になったからといって、その人の心まで失われるわけではない」と語るのは認知症医療の第一線に立ち続けてきた認知症専門医・繁田雅弘先生です。そこで今回は繁田先生の著書『認知症になって幸せな人、不幸せな人』より一部を抜粋し、優しく、大らかな認知症との「付き合い方」をお届けします。

【書影】認知症は「何もわからない、何もできない」は大間違い!繁田雅弘『認知症になって幸せな人、不幸せな人』

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ギリギリまで「日課」にしがみつきなさい

「日課」とは、その人の「歴史」です

「認知症になった親を自分が住む東京に連れてきたとたんに、症状が進行してしまった」と嘆く家族がいました。

私は声を大にして、認知症の人、そしてその家族に伝えたい。

ギリギリまで、日課にしがみつきなさい。

完璧に一人でできないとしても、助けを借りながらでも、日課を続けてほしい。日課とは、機能維持ではなくて、その人の歴史なのです。それをなくすというのは、その人の「人と為り」をなくすことになってしまいます。

朝起きて、新聞をポストから取ってきて、ゆっくり新聞を広げて、お茶を飲む――。場所、時間帯、食べるもの、やること。そうした日課のさまざまなところに、いろいろな記憶が結び付いています。

そのときどきで、財布やカギは、なくすかもしれません。

でも日課をやることで、そこに行くことによって、いろいろなことを無意識に思い出したりしているのです。

それをやめて、脳トレやパズルを始めたって意味がありません。

記憶を引っかける「フック」がなくなってしまう

「もし自分が認知症になったら」と考えてみてください。

当たり前だと思っていたことを、突然、変えられてしまったら。

突然、知らない国の、知らない言語の、知らない街に放り込まれたような状態になったら。

やはり、記憶は危なくなるのではないでしょうか。

もともと危ないのに、記憶を引っかける「フック」がなくなってしまうわけです。生活は、無意識でやっていることがほとんどですから。

遠くで一人暮らしをしている父母を呼び寄せるというのは、ものすごくリスクを伴うことです。それを承諾した父母は、崖から飛び降りる想いであったということも理解してほしい。すべてを失う覚悟で来ています。

それだけの犠牲を払ってでも、来てもらうのに見合うことをしてあげられるでしょうか。それができないのであれば、親の住み慣れたまちで、その地域のサービスを使って生きていったほうがよいかもしれません。

親の日課を知っておこう

認知症でもまだ元気に生活を続けられている親がいたら、その日課を知っておく必要があるでしょう。

いわゆる日常です。現役世代と違って、親の日課はそう日に日に変わるものではありません。自然に出来上がったものなので、本当に長い時間をかけて作られた、体に染みついた習慣です。だから意味がある。


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脳トレがいいとか悪いとか、理屈で考えたものではない。

その人の人生の歴史と結びついている、ということだと思います。

ぜひ、今度の週末にでも、実家に帰り、どこのお団子屋さんが好きか、洋服はどこで買っているか、どんなことをしているときが嬉しそうかなど、確認してみてほしい。そうすると、親の生きざまがわかります。

親の人生を知ろうともしないで、地域と切り離して「連れてくる」という判断をするのは、もしかしたら、子のエゴなのかもしれません。

日課は、「しがみつく」ほどの勢いで守ってほしい。

何十年も続けてきた日常を「続けられること」は、本当に幸せなことなのです。

できるだけ、離れなさい

介護をやりすぎない

認知症の人と一緒に過ごされている方、主に介護をされている方は、本当に大変な日々を過ごされています。

ぜひ、心に留めておいてほしいのは、しんどくなる前に、「離れなさい」ということです。

介護をやりすぎない。1回、離れてみるのです。

不安の強い家族は、症状が進行した様子がうかがえると、本人に自身の不安をぶつけてしまいます。「大丈夫?」「薬は飲んだ?」「昨日は眠れたか?」「明日の受診を忘れないで」と頻繁に問いかけてしまいます。我を失ってトレーニングをさせようとする家族もいます。

それらの反応は、本人に対して「悪くなっている」とのメッセージを送ることになり、治療的にもマイナスです。

いったん不安に巻き込まれた家族は、本人から物理的にも心理的にも離れることができず、マイナスの影響を与え続けてしまいます。

診療の現場では、家族に「とにかく本人から離れていなさい」と繰り返し、本人には、「家族はあなたにいろいろと言ってしまうけど、悪気があってのことではない」と繰り返し伝えます。

「もう少しすれば必ず今の状態に慣れて、互いに楽になる」とも。

がんじがらめな想いに囚われてしまったら、とにかく離れてください。

そうしたら、徐々に優しい気持ちが戻ってきます。

とにかく認知症の人から、いったん、離れなさい。

不安をぶつけて注意するのは逆効果です。

※本稿は、『認知症になって幸せな人、不幸せな人』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。