次回6月3日(水)よる10時 第9話を放送 日本テレビ系水曜ドラマ「月夜行路 ―答えは名作の中に―」(毎週水曜よる10時放送)。

数々の名作ドラマレビュー記事を手掛ける「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平氏は、5月27日(水)放送の第8話をどう見たか?場面写真とともに紹介する。

(※以下、第8話のネタバレを含みます)

本作は、家族から蔑ろにされ寂しさを抱える専業主婦の涼子(麻生久美子)が、文学オタクで洞察力に優れたバーのママ・ルナ(波瑠)と出会ったことから始まるロードミステリーだ。

<キャッチーな主人公を、さらに“ドラマティック”にする“背景”>

このドラマは、二つの意味で実に画期的だ。

まず一つ目は、“キャッチーな主人公”を、あえてミステリアスにし過ぎないことにある。
通常、際立った個性を持つ主人公を描く場合、その素性や私生活は意図的に隠されることが多い。どんな家に住み、どんな家族がいて、どんな過去を抱えているのか――。そうした“背景”をあえて見せないことで、キャラクターの特別性や神秘性を保つのが、ある種の定石だからだ。実際、多くの人気ドラマに登場する“キャッチーな主人公”を思い浮かべてみても、その人物の生活感や背景は、驚くほど描かれていないことが多い。

なぜなら、視聴者がそのキャラクターに“共感”し過ぎてしまうと、逆に特別性が薄れてしまうことがあるからだ。背景を知ったことで、「知らないままのほうが魅力的だった」と感じてしまうケースすらある。
しかし今作は、その真逆をいく。ルナは、文学オタクであり、トランスジェンダー女性であり、頭脳明晰で推理力にも長けているという、極めて“キャッチー”な主人公だ。にもかかわらず、本作は彼女を単純な“ミステリアス”として扱うのではなく、その背景や人生を丁寧に描こうとしてきた。

もちろんそれは、ルナがトランスジェンダー女性であるからこそ、その背景を描くことで、単なる“キャラクター設定”として消費させない、という誠実さもあったのだろう。しかし結果として本作は、“背景を描くこと”によって、逆にルナという人物の奥行きを増幅させることに成功していた。彼女には、こんな人生があったのか――。そう思わせる積み重ねが、ルナの底抜けにキャッチーなキャラクターへ、さらなる“ドラマティック”を与えていたのである。

<“不器用で温かい友情”をカジュアルに描いた第8話>

そしてもう一つ、本作が画期的なのは、その“背景”を、どこまでも“カジュアル”に描き切っていることだ。

今回スポットが当たったのは、ルナの母(石野真子)の物語、そしてルナのバーで働くバブリー(真田怜臣)のエピソードだった。バブリーもまた、生まれた時の体の性別は男性で、現在は女性として生きている人物であり、今回の物語は、そうした背景が強く関わる内容となっていた。

近年では、テレビドラマにトランスジェンダーの人物が登場する機会も増えてきている。 だが、その背景や葛藤、機微にまで踏み込んで描くのであれば、真正面から真摯に向き合うべきだ、という感覚はいまだ強く共有されているように思う。
それは当然でもある。長らく断片的、あるいは記号的に扱われてきた歴史がある以上、無理解な描写によって誰かを傷つけてしまう危うさが常に伴うからだ。
だが一方で、ミステリーやエンターテインメントと並行して描く場合、その背景や葛藤までもが"単なるキャラクター設定"として受け取られてしまう難しさもある。

しかし今作は、その不安すら軽やかに飛び越えてみせた。
本作にとって“ミステリー”とは、あくまで人と人とを繋ぐための“装置”であり、そこで描かれる“日常”の中に、自然と様々な人生が存在している。だからこそ今回のバブリーのエピソードも、当然“トランスジェンダー”という背景があったからこそ生まれる切実さや痛み、そしてドラマティックがあったことは間違いない。だが本作が素晴らしかったのは、それを“特別な物語”として切り離さなかったことだ。

そこに描かれていたのは、まず何よりも、不器用で温かい友情だったのである。
その“当たり前の友情”が、あまりにも自然に描かれていたこと。それこそが、この回の清々しさだったように思う。

<“自然と”に辿り着く、長い長い助走>

そして、それはルナの母の描き方にも通じている。
母はルナを、自分が新たに付けた名前だからと尊重するように、「ルナさん」と呼ぶ。そこには、過剰な悲劇性も、涙を誘うような演出もない。ただ、「いつの間にか、自然と可愛い娘と思えるようになった…」と語る姿があるだけだ。

だが、その“自然と”という言葉に辿り着くまでに、長い年月があったことを、私たちはもう知っている。

そしてそれは、このドラマ自体の在り方にも重なって見えた。
本作はこれまで、ルナという存在を、特別視し過ぎることなく、どこまでも“カジュアル”に描き続けてきた。それは決して、軽く扱っていたわけではない。むしろ、“自然に受け止められること”の尊さを描くために、あえてそうしていたのではないか。

どんな人であっても、いつか“自然に”隣にいられるようになる――。

そんな希望を、このドラマは押しつけがましくなく、あくまでいつもの空気感の中で、そっと差し出してくる。“どこまでもカジュアルに描く”という今作のスタイルは、その“自然に”へ辿り着くための、長い長い助走だったのだと気づかされる第8話であった。

<番組情報>

原作:秋吉理香子『月夜行路』(講談社文庫)『月夜行路 Returns』(講談社)
脚本:清水友佳子
音楽:Face 2 fAKE
チーフプロデューサー:道坂忠久
プロデューサー:水嶋陽、小田玲奈、松山雅則
トランスジェンダー表現監修:西原さつき、若林佑真、白川大介
演出:丸谷俊平、明石広人
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ

番組公式SNS、ホームページ
・X:@getsuyakouro
・Instagram:@getsuyakouro
・TikTok:@getsuyakouro
・ホームページ:https://www.ntv.co.jp/getsuyakouro/
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<原作情報>

『月夜行路』 
四十五歳の誕生日、孤独な主婦の沢辻涼子は家を出た。偶然出会った美しいバーのママ・野宮ルナは、深い文学知識と洞察力を活かした推理で、かつての恋人への涼子の思いを言い当てる。最愛の彼はなぜ涼子のもとを去ったのか?二人が始めた元彼探しの旅先で、明らかになる秘密とは。涙のサプライズエンディング!
発売中 講談社文庫

『月夜行路 Returns』
元彼探しの旅から戻った涼子が再びルナを訪ねたとき、店に届いた古いノートパソコン。誰が、何のために送ってきたのか。涼子は、パソコンを開くパスワード探しを手伝うことに。行く先々で事件に巻き込まれながら、パスワードを試していく二人。願いを込めた仕掛けに挑めるチャンスは、5回。鍵を握るのは、1冊の本。
発売中 講談社

【秋吉理香子 プロフィール】
兵庫県出身。早稲田大学第一文学部卒業。ロヨラ・メリーマウント大学大学院にて映画・TV番組制作修士号取得。2008年、第3回Yahoo! JAPAN文学賞を受賞し、2009年に『雪の花』でデビュー。主な著作に『月夜行路』『悪女たちのレシピ』『終活中毒』『無人島ロワイヤル』『暗黒女子』などがある。