世界初のデュアルコア量子コンピュータとして中国の「漢原2号」が登場、200量子ビットで驚異的な電力効率を謳うも性能ベンチマークは未公開

中国科学院傘下の武漢拠点企業「中科酷原科技」が、2026年5月7日、世界初を謳うデュアルコア方式の中性原子量子コンピューター「漢原(Hanyuan)2号」を発表しました。同社が2024年に国内初の中性原子商用量子コンピューター「漢原1号」を投入したのに続くもので、中国国営メディアの科技日報が報じています。
全球首台双核中性原子量子计算机“汉原2号”发布
China's Hanyuan-2 debuts as 'world's first' dual-core quantum computer - 200-qubit claims incredible power efficiency, but lacks critical performance benchmarks | Tom's Hardware
https://www.tomshardware.com/tech-industry/quantum-computing/china-claims-worlds-first-dual-core-quantum-computer
漢原2号は、キャビネット型の単一筐体内に独立した二つの中性原子アレイを搭載し、ルビジウム87原子100個とルビジウム85原子100個から構成される計200量子ビットで「デュアルコア協調計算」を実現する構成となっています。
筐体は標準ラック型の統合設計で、小型のレーザー冷却システムのみで動作し、複雑な極低温冷却環境を必要とせず通常の室内環境に迅速に設置可能で、全体の消費電力は7kW未満に抑えられているとされ、量子計算技術の応用ハードルと導入コストの大幅な低減が見込まれるとしています。

量子計算技術を手がける中国スタートアップ・中科酷原のシニア研究者である葛貴国氏によれば、量子プロセッサが「シングルコア」から「デュアルコア」アーキテクチャに移行するのは世界初であり、量子計算のコア・アーキテクチャにおける独自の突破口であるとされています。
2つのコアはいずれも独立した完全な中性原子量子ビットアレイで、ワークロードを分担する「並列計算」モードのほか、第一アレイが計算を実行し第二アレイがリアルタイムの誤り訂正を担う「一主一従(メイン+補助)」モードでの運用も可能であり、これにより従来のシングルコア構成で課題とされた量子ビット拡張の制約や近接量子ビット間のクロストークといった技術的ボトルネックの解消を狙っています。
中性原子量子コンピューティングは、レーザーアレイで電荷を持たない中性原子を捕捉・冷却し、個々の原子を量子ビットとして操作する方式であり、拡張性の高さ、長いコヒーレンス時間、高い操作忠実度といった利点から、世界の量子計算ハードウェア開発における主要路線の一つとなっています。
中科酷原のゼネラルマネージャーである湯彪氏は、漢原2号について光ピンセットアレイ数が500を超え、量子ビットの寿命(コヒーレンス時間)が100秒に達し、各種コア指標が国際先進水準に達するとともに一部の主要性能では業界トップクラスにあると主張しています。

中科酷原は湖北省の量子技術産業チェーンのリード企業と位置づけられ、コアチームは中国科学院精密測量科学・技術創新研究院に由来し、中性原子量子技術の研究を20年以上にわたり続け、光ピンセットアレイの作製、高忠実度の量子ゲート操作、原子の動的再配置、コヒーレンス時間の延長といった一連の中核技術を順次攻略してきました。
一方でハードウェア系ニュースサイトのTom's Hardwareは、200量子ビットという規模は西側の中性原子量子計算機の先頭グループにかなり遅れを取っていると指摘しています。
アメリカ企業のAtom Computingは2023年時点で1180量子ビットの中性原子アレイを実証し、その後Microsoftと提携して市販ハードウェア上での誤り訂正済み論理量子ビット提供に進んでいます。またアメリカ企業のQuEraが日本の情報通信研究機構(NICT)に誤り訂正対応マシンを納入し、2025年までに2億3000万ドル(361億円)超を新たに調達しています。これらの企業は自社が開発する量子コンピューターについて、量子ゲート忠実度、コヒーレンス時間、エラー率といった指標を公表しています。

しかし、中科酷原は漢原2号についてこれら指標を一切開示しておらず、発表に伴う査読付き論文も存在せず、中国発のこの種の発表に共通する傾向としてすべて中国国営系メディアに行き着く点を、Tom's Hardwareは問題視しています。
また「デュアルコア」という呼称は古典的マルチコアCPUとの類比を意図的に演出しているものの、技術的にはむしろ西側企業がより大規模に追求しているモジュラー量子計算に近い概念であり、IBMが超伝導プロセッサを古典的・量子的インターコネクトで連結する方向に注力し、QuEraやPasqalが単一アレイのスケーリングとモジュール間接続性の両立を進め、Atom ComputingとMicrosoftがネットワーク化された量子プロセッサを軸とした統合システムを構築している、とTom's Hardwareは整理しています。
中科酷原のアプローチは、両アレイを単一筐体内に配置する点でネットワーク型よりも密に統合されたものではあるものの、それが単一の大規模アレイをスケールさせる方式に対して実用上の優位性をもたらすかどうかは未解決の問題であり、その答えを出すには公表されたベンチマークが必要となる、とTom's Hardwareは主張しました。
