「僕には野球があるから」を逃げ道にせず 超難関スタンフォード大を3年卒業→MLB1巡目入団、世界レベルの文武両道を実現させた思考法
「THE ANSWER×MLB現地連載 #1」――メジャーリーグ取材から探る「アンサー」
「THE ANSWER」はこのほどメジャーリーグに編集部記者を派遣し、昨季ワールドシリーズを制して世界一に輝いたドジャースを中心に世界最高峰の舞台に密着。「スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト」として普段発信しているスポーツと社会のさまざまな課題、ジュニア育成や進路選び、保護者や監督・コーチの指導のヒント……など「THE ANSWER」のサイトコンセプトに照らしたテーマを、MLBを通して短期連載で発信する。第1回は「スポーツと勉学の両立」。日本でも名門大学出身アスリートがトップカテゴリーで活躍する例が増えつつある。MLBには世界屈指の名門を3年で卒業、ドラフト1巡目指名を掴んだ選手が。世界レベルの文武両道を実現させた思考法に迫った。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大)
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文武両道に対するマーリンズのカル・クアントリル投手の考えは至ってシンプルだった。
「自分自身を1つのことに限定するべきじゃないと思う。野球選手として素晴らしい人が、友人や学生として素晴らしくなれないわけじゃない」
カナダ出身の30歳。米カリフォルニア州の名門スタンフォード大でマネジメントサイエンス工学を学んだ。英国の高等教育情報誌「Times Higher Education」が発表した「世界大学ランキング2025」で6位にランクされている超難関大学。日本では花巻東(岩手)から佐々木麟太郎内野手が日本の大学、プロ野球を経ず、進学したことでも話題となった。ちなみに日本の大学の最高位は東大で28位だ。
クアントリルは高卒時の2013年MLBドラフトでもヤンキースから26巡目指名を受けた。だが、「まだプロには行きたくなかった。体が小さかったし、何より大学生活を本当に経験してみたかったんだ」と進学を選択。経営学か工学の大学院に進むことも視野に専攻を選んだ。
「工学は問題の解決法を考える学問だ。投手、特に先発投手は試合中に問題に直面するもの。状況を効率的に分析し、他の人よりも早く解決策を見つけることができる。そういう点で、工学を学んだことが野球に役立っていると思う。あと、前回よりもいい成績を収めたいと頑張る競争心はテストでも野球でも一緒だね」
ドジャースのトミー・エドマン内野手はルームメートで大親友。「トミーは僕よりずっと賢かった。あいつは本物の天才だよ。宿題もちょっと手伝ってくれたんだ」。お互いに励まし合い、「きつかったけど楽しかった」という日々を乗り越えた。
わずか3年で学位を取得「時間の許す限り勉強した」
2年目の序盤に右肘を負傷。トミー・ジョン手術を受け、2、3年のシーズンを棒に振った。「投げられない分、勉強のための時間が増えた」。リハビリ期間を有効活用し、わずか3年で学位を取得した。「時間の許す限り勉強したよ。何時間も、何時間も、何時間もね」。努力の裏には、先を見越した計画があった。
MLBドラフトでは、大学生は3年目を終えれば卒業を待たずとも指名資格を得る。「3年で指名された場合に後で大学に戻らなくて済むよう、その前に学位を取ってしまおうと思ったんだ」。3年時は登板ゼロにもかかわらず、計画通りに2016年ドラフト1巡目(全体8位)でパドレスに入団。「将来のテストの心配をしなくていいから、プロ生活がより楽しくなったよ」と笑う。
日本ではあれこれと手を出さず1つのことに集中し、犠牲を払うことの方が美徳とされる風潮がある。彼の「自分自身を1つのことに限定するべきじゃない」という考えは、それと一線を画す。
二兎追うものは……のことわざもある通り、2つの道で大成することは容易ではない。スポーツと勉学を両立させるコツを聞くと、「全ての努力は、プロフェッショナルを目指して行うこと」と返ってきた。
「工学の授業を受けている時に野球のことを考えたことはない。『僕には野球があるから心配ない』なんて考えない。常に出来る限り最高のエンジニアになろうとしていたし、出来る限り最高の野球選手になろうとしていた。その時にやっていることに全力を注ぎ込むんだ。勉強でも、野球でも、パーティでもね。一度に3、4つのことを考えるんじゃなくて、一瞬一瞬に全集中するようにしていたよ」
中途半端はNG。何をする上でもその道の一番を目指す。そんな思考法が、限られた時間を最大限に生かすことに繋がっていた。
■カル・クアントリル / Cal Quantrill
1995年2月10日生まれ。カナダ・オンタリオ州ポートホープ出身。2016年ドラフト1巡目(全体8位)でパドレスに入団。2019年5月1日にメジャーデビューし、1年目から23試合に登板。6勝8敗、防御率5.16を記録した。2020年シーズン途中にインディアンス(現ガーディアンズ)にトレード移籍。2022年には防御率3.38で15勝(5敗)を挙げる。2024年にロッキーズ、2025年にマーリンズに移籍。通算46勝38敗、防御率4.19。父はブルージェイズなどで通算68勝を挙げたポール・クアントリル。
(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro Muku)

