児島気奈さんは手弁当で始めたお笑いライブ団体「K-PRO」を、東京有数の人気イベントに成長させた立役者だ。なぜ成功できたのか。児島さんの初の著書『笑って稼ぐ仕事術 お笑いライブ制作K-PROの流儀』(文藝春秋)の一部をお届けする――。
撮影=鈴木七絵/提供=文藝春秋
K-PRO代表・児島気奈さん - 撮影=鈴木七絵/提供=文藝春秋

■芸人の間で評判を呼んだケータリングの豪華さ

先行投資は、タイミングさえ間違えなければ「必殺技」と言っていいぐらい効果抜群です。K-PROも大小様々な先行投資を何度もやってきて、大きくなってきた歴史があると思っています。

そんなK-PRO版先行投資の例をいくつか紹介したいと思います。皆さんの参考になれば嬉しいです。

まずは、「ケータリング」の話から。

いつの日からか、芸人さんの間で「K-PROのケータリングはすごく豪華」と言われるようになりました。

飲み物は水やお茶にジュース系なども複数用意しておりますし、お菓子の種類も芸人さんの要望も聞いたりして多数用意したり、また、ある程度集客が見込めるライブではおにぎりやパン、缶コーヒーからカップラーメンまで置いています。スペシャルライブのときは、それにプラスしてお弁当も用意しています。

大阪の「ABCホール」でライブを開催したときは、テンションを上げてもらうために、551蓬莱の豚まんと、わなかのたこ焼きを出しました。たこ焼きはウーバーイーツで頼みました。前なら、なんばまで買いに走っていたと思います。時代に感謝です。ママタルトの大鶴肥満くんが、豚まんを一人で10個食べ、最後に余っていた4個も、肥満くんが「安心してください! ちゃんと食べます!」とパクパク全部食べてくれました。

■他社との差別化のため、赤字ギリギリの創業当初から続けてきた

そもそも、お笑いライブにケータリングという文化はありませんでした。多分K-PROがライブ毎にケータリングを導入したことは、かなり革命的だったと思います。

ケータリングを始めたのは、出演いただく芸人さんから「他のライブとは違う」と思ってもらいたかったからです。特にK-PROを始めた当時は、芸人さんに「また一つ新しいインディーズライブが増えた」ではなく、「ん? ここのライブは他とは違うぞ?」と思ってもらいたかったので、そのために色々考えて、出した答えの一つがケータリングでした。

当時はお客様の数も少なくて、黒字になるか赤字になるか毎回ギリギリの戦いだったので、そんな中でのケータリング代は結構痛かったです。でも、やり続けたおかげで芸人さんが定期的にライブのトークコーナーでケータリングの話をしてくれたり、私が『セブンルール』などテレビやメディアに出る度にケータリングの話を取り上げてくれたりして、K-PROの武器の一つとなりました。

■張り切りすぎても相手に警戒されてしまう

一時期、K-PROに対抗してお寿司やオードブルを毎回用意していた団体もあったみたいですが、恐らく予算と、あとは芸人さんが逆に遠慮してしまい、長く続かなかったと聞いたことがあります。

何か物事を比べるとき、最初に始めたところが基準になるので、お笑いライブのケータリングに関してはK-PROが基準になっていると思います。

「基準と違うことをする」という考えはすごく大事だと思いますが、今書いたようになんでもアリという訳ではなくて、やるときは「違和感がないように」しないとダメだと思います。普段のライブの楽屋に毎回豪華なお寿司が置いてあったら、多分嬉しさよりも怖さが勝ってしまいますよね。お寿司を出すのは、大一番のスペシャルライブとか、「新ユニットライブの一回目なので気合いを入れてもらいたい」など理由があるときのほうが効果的だと思います。

余談ですが、全芸人さんから喜ばれるケータリングは、夏の暑い日に配る棒アイスです。これを楽屋にサプライズで持っていくと、若手もベテランも本当に喜んでくれますし、一箱に沢山入っていて値段も高くないので、本当にベストなケータリングだと思います。

多分、仕事相手に渡す差し入れや手土産なども同じだと思います。せっかくなら先方に喜んでもらえるように、どんなものをどんなタイミングで渡したらいいのかなど、演出をしっかり考えることが大事だと思います。

■採算度外視でトップクラスのスタッフに依頼する理由

先行投資に話を戻します。

K-PROでは、音響さんや照明さん、また映像に関しても昔から売り上げを考えずにお金をかけてきました。

今でこそ当たり前になっていますが、うちは初めて300人規模のライブをやった2008年、「北沢タウンホール」の『行列の先頭』から、全て当時のトップクラスのプロに頼んでいました。

当時「北沢タウンホール」でやっていた別の団体が主催しているライブを勉強のために見に行ったときに、舞台照明を地明かり(もともと吊ってある照明)だけでやっていて、ずっと薄暗かったんです。それを見て、「うちは絶対、ちゃんと照明を当てたい」と思い、実行しました。地明かりだけでやると、照明さんを呼ばなくてもいいので、その分費用が安く済みます。でも、照明はライブの核となる部分ですし、そこの予算を削るのは違うと思い、K-PROでは、照明の演出をしっかりすることを心掛けています。

また、お笑いライブは特殊で、音響照明のきっかけが事前提出ではなく、本番当日に芸人さんから直接聞いてやることが多々あったりします。

これは、演劇や音楽ライブでは考えられないことです。各公演の合間しか合わせる時間もないですし、対応できない方や、場合によっては「こんな無茶苦茶な現場は初めてだ!」と怒り出す方も沢山いらっしゃいます。なので、うちのライブの音響さんと照明さんは、毎回「お笑いライブ経験者」にやってもらっています。「K-PROの音響照明は安心して見ていられる」という声を、嬉しいことに沢山いただきますが、それは経験者を呼んでいるからなんです。

写真=iStock.com/kynny
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kynny

■高い先行投資でも後々必ず回収できる

そのイメージがあるので、お客様もですが、特に芸人さんが安心してくれて、K-PROのライブには普段はあまりやらない音を沢山使うネタを持ってきてくれたりして、その分幅が広がります。

音響さんにも照明さんにも無茶なことをお願いしているので、やはり通常より値段が高かったりしますが、そこで勝ち得た信頼によって、「このチームでやってほしい」と単独ライブのオファーがくることもあります。また、うちの劇場の「ナルゲキ」や小さめの劇場で公演するときは、音響照明のオペレーターは自社のスタッフにやらせているので、大きめの会場で開催する際にプロの技を間近で見ることができるのは、とても勉強になります。高い値段を払っても後々に回収できる部分が沢山あるんです。

ライブ映像も、K-PROを始めた当初から、芸人さんの単独ライブのオープニング映像を作っていたプロの映像作家さんにお願いするなど、先行投資をしてきました。チケットの値段に見合った映像は演出として必須だと思いますし、何より芸人さんのテンションにも関わるので、今もここぞというライブは、プロの方に毎回お願いしています。

■大阪から芸人を呼ぶときは深夜バスでなく新幹線

大阪の芸人さんにオファーをして来ていただくときも、格安の深夜バスを使わずに、新幹線の交通費をお支払いしてお願いしています。マネージャーさんから「バスで向かわせます」と言われても、「新幹線で」と伝えて替えてもらっていました。これも芸人さんのためです。

一度、大阪から30組ぐらいの芸人さんが深夜バスで来たことがあり、そのときに到着した芸人さんのほぼ全員が疲弊していたんですね。それを見てから、今後は絶対にバスはやめようと心に決めました。わざわざ大阪から来ていただくわけですし、しっかりゲストとしてお迎えしたいんです。

最近はどうかわからないですが、当時の吉本の芸人さんの移動は、人気のある芸人さんでも若手だとバス移動が多かったみたいで、当時出てもらっていた方から毎回「新幹線とホテル代まで出してもらって本当ありがとうございます!」と感謝されることが多かったです。

逆に、東京から名古屋や大阪に行くときも必ず新幹線移動でお願いしています。

とはいえ、新幹線では、昔、こんな失敗も……。

2007年頃、毎月大阪に東京の芸人さんを連れていってライブをやっていたことがありました。当時は、ようやくバイトを辞めることができて、K-PROの仕事だけでギリギリ生活できるようになったばかりの頃で、できるだけ安く行けないかと、当時1カ月前に「こだま」を予約したら9000円で新大阪に行ける割引サービスがあったので、それを利用していたんです。

■往復8時間の車内で明るく話してくれた売れっ子芸人

ただ、普段芸人さんは、どんなに事務所がケチってもこだまには乗らないんですね。

ただでさえ新大阪まで2時間半と長いのに、こだまだと4時間を超えるんです(森脇健児さんはご自宅のある京都から東京への移動のとき、あえてこだまに乗って話すネタを練っているそうですが……)。

なので、ほとんどの芸人さんから大不評で、中には、「追加料金自分で出すから、のぞみにして先に帰りますね」と、チケット変更をされている方もいました。

今考えたら本当に申し訳なく、反省しています。

そんな中、吉本興業のピン芸人、佐久間一行さんは、「僕、こだま久々に乗りますよー!」「新幹線大好きなんで、ゆっくり行きましょう!」と明るく、優しく接してくれて、車内でもずっと往復8時間もお話ししてくれました。

私の愚痴も聞いてくれて、好きだったテレビ番組の話などもできました。本当にテレビで見る雰囲気のままの、優しくて素敵な方でした。

■「K-PROのライブに出たい」と言ってもらえる環境を作る

昨今の大きな先行投資といえば、コロナ禍になって配信を始める際に購入した機材です。

児島気奈『笑って稼ぐ仕事術 お笑いライブ制作K-PROの流儀』(文藝春秋)

緊急事態宣言で劇場を閉めないといけなくなったとき、スタッフの富澤が「実は機材に詳しいので、配信をやりましょう」と言ってきてくれたおかげで、機材を購入してすぐに配信をスタートさせることができ、仕事を失っていた芸人さんにも喜ばれました。

撮影の機材に関しては、テレビ局の関係者が「これならロケも行けますよ」と言うぐらい、すごいものを揃えていますが、その分とんでもない先行投資費用になっています。ここまでの例を見ていただいたらわかると思いますが、うちの先行投資はほぼ芸人さんに向けてです。

他の事務所から芸人さんを借りてライブをやっているK-PROにとっては、「芸人さんも一人一人がお客様」なんです。芸人さんに出てもらわないとライブはできないので、まずは芸人さんに「K-PROのライブは出たい」と言ってもらうことが一番大事なことです。なので、そこに関しては惜しまずに、これからもどんどん投資していきたいと思っています。

先行投資は、いつどうやって回収したらいいかをしっかり押さえておけば、成功する確率は増すと思うので、恐れずにどんどん仕掛けていくことをおすすめします。

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児島 気奈(こじま・きな)
K-PRO代表
1982年生まれ。東京都出身。年間1000本以上のお笑いライブを企画、主催。さらに番組制作のキャスティングや所属芸人の育成、マネジメント業務なども行っている。2021年4月には劇場「西新宿ナルゲキ」をオープン、連日ライブを開催し、若手芸人が出られる舞台を運営している。(近影撮影=鈴木七絵/提供=文藝春秋)
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(K-PRO代表 児島 気奈)